恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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特別編7

第1話『同人イベントデートのお誘い』

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 アイスティーを飲みながら、俺達はさっきまで観ていたアニメや最近買った漫画やラノベのことを中心に談笑していく。お家デートではこういった時間を過ごすのも定番で楽しい。
 俺と話すのが楽しいのか、氷織はずっと笑顔だ。ゴキブリを見つけたときはとても怯えていたので、楽しそうに話している氷織を見ると安心する。良かったよ。
 ちなみに、さっきゴキブリを駆除してから、2匹目のゴキブリや他の虫が出現してしまうこともない。そのことにも安心する。

「じゃあ、今話したラブコメのラノベを貸すよ」
「ありがとうございます! 楽しみです」
「俺は一回読んだから、俺のことは気にせずに氷織のペースで読んでいいからな」
「はいっ、分かりました」

 面白い作品だったから、氷織も楽しんでもらえたら何よりだ。

「ところで、明斗さん。話が変わるのですが……今週の土曜日ってバイトの予定は入っていませんよね」
「ああ」

 氷織がそういう風に話しかけるのは、デートなどの予定が立てやすいように、俺のバイトのシフトが決まったら氷織に教えるようにしているからだ。

「お盆の時期だけど、きっとシフト通りのバイトになると思う」
「そうですか。良かったです。明斗さんは……コミックアニメマーケットという同人誌即売会をご存じですか? コアマという略称で呼ばれることが多いですが」
「ああ、知ってるぞ。中学くらいから何回か参加したことがあるよ。一人でも友達とも」

 コミックアニメマーケット。通称コアマ。
 毎年お盆と年末の時期、東京都心の臨海部の藍明あいあけという場所で行なわれる同人誌即売会だ。今年の夏のコアマは、今週の金曜日から日曜日に開催される。
 サークル参加のジャンルが、オリジナル作品から既存作品の二次創作まで全てがOKであること。数々の企業が出展する企業ブース、会場内はコスプレをしてもOKなのもあり、開催規模も来場者数も世界最大級の同人誌即売会だ。3日間で50万人以上が参加する。
 俺がコアマ参加経験者と分かってか、氷織は嬉しそうな笑顔に。

「コアマに参加されたことがあるのですね!」
「ああ。欲しいグッズが販売される企業ブースがあったときにな」

 コアマではグッズを限定販売したり、一般よりも先行で販売したり、コアマ限定の特典を付けて販売したりする企業がある。俺はコアマ限定のグッズを中心に欲しいグッズがあったとき、コアマに一般参加する。

「氷織はコアマに参加したことはあるの?」
「はい、あります。去年の夏に沙綾さんからのお誘いで初めて参加しました。冬も行きました。どちらも沙綾さんと一緒に、BLやGLの同人誌を何冊か買いました」
「そうだったんだ」

 葉月さんの誘いがきっかけでの参加か。葉月さんは氷織と同じ文芸部所属だし、BLとGLに関しては氷織以上に好きだからな。葉月さんが氷織を誘うのも納得だ。

「氷織もコアマに参加した経験があるんだ。あと、同人誌を持っていたのも初めて知ったよ」
「同人誌は本棚に入れずに、専用のケースに入れて、クローゼットの中に保管していますからね。BLが多いので、明斗さんには話していませんでした」
「そっか。……これまで葉月さんと参加していたコアマに、今度は俺と一緒に参加したくなったってことかな」
「はい。明斗さんと付き合い始めてから初めて開催されるコアマですから、一緒に参加してみたくて」
「なるほどな。誘ってくれてありがとう。今度のコアマは氷織と一緒に参加するよ」
「そうですか! ありがとうございますっ! ……ただ、明斗さんはコアマで何か買う予定はあったりしますか?」

 氷織は真面目な目つきで俺に質問してくる。企業ブースで興味のあるグッズがあるときにコアマに参加すると話したからだろう。氷織の性格からして、何か買いたいものがあったら、自分と一緒に廻ることよりも優先してほしいと考えていそうだ。

「ううん、特にないよ。何日か前に企業ブースを一通り調べたけど、どうしても買いたいグッズはなくてさ」
「そうですか」

 だから、今年の夏のコアマは参加しないつもりでいた。氷織が同人イベントに参加しているとは知らなかったので、氷織を誘うことも考えていなかった。

「当日は氷織とずっと一緒にいるよ。氷織と一緒にコアマの雰囲気を楽しみたい」
「はいっ! では、当日は一緒にコアマデートを楽しみましょうね!」

 氷織はとても嬉しそうな様子で俺にそう言ってきた。
 今週の土曜日は氷織と一緒にコアマデートか。氷織と同人イベントに参加するのは初めてだから凄く楽しみだ。そう思いながら、俺はスマホのカレンダーアプリにコアマデートの予定を書き込んだ。

「氷織は土曜日に参加するコアマで同人誌を買うつもりか?」
「はいっ。新刊の同人誌をいくつか」
「そうなんだ」
「あと、買いたい同人誌のうちの一つは、沙綾さんから代理購入を頼まれているんです。沙綾さんは買いたい同人誌がいっぱいあるそうなので引き受けました。私も沙綾さんに代理購入してほしい同人誌を一つ頼んでいます」
「そうなのか。何だか友達同士の協力プレイって感じでいいな」
「そうですね」

 ふふっ、と楽しそうに笑う氷織。
 氷織と葉月さんは普段から仲がいいし、これまでにもコアマで一緒に同人誌を購入するほどだ。お互いに欲しい同人誌の代理購入を頼むのも頷ける。

「ということは、葉月さんも土曜日はコアマに一般参加するんだな」
「はい。沙綾さんには、明斗さんとコアマデートをするかもと言ってあります。この後、沙綾さんにはデートの旨を伝えておきます」
「そうか。葉月さんも参加するなら、デート中に会場かその近くで葉月さんと会わないとな」
「いいんですか?」
「ああ。お互いに同人誌の代理購入を頼んでいるだろう? 早く手にできた方が嬉しいんじゃないかと思って」

 実際に手にできるまでの時間を待つのも一興かもしれないけど。

「ありがとうございます、明斗さん!」

 氷織はとても嬉しそうな笑顔でお礼を言ってきた。

「では、その旨についても後で沙綾さんに送っておきますね」
「ああ」

 この様子なら、デート当日は会場で葉月さんと会うことになりそうだ。当日は氷織も葉月さんも代理購入してほしい同人誌を購入し、実物を渡し合うことができることを祈ろう。2人がそれぞれ買いたい同人誌が全て買えることも。
 その後は氷織からどんな同人誌を買ったのか話を聞いたり、ガールズラブのアニメを録画したBlu-rayを観たりしてお家デートを楽しむのであった。
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