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本編
第23話『はじまり』
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4月23日、月曜日。
今週も青空の下で学校生活が始まる。ただ、先週までとは違って、生徒会の仕事も本格化していくけれど。
いつものように公園で猫と戯れ、いつものように学校で周りの生徒からジロジロと見られる。そういうこともすっかりと慣れてしまった。
ただ、生徒会室に行くことはまだ慣れていないので、生徒会のメンバーになっても扉を開ける瞬間は緊張する。
「おはようございます」
「おはよう、玲人君」
「おはよう、逢坂君」
生徒会室に入ると、既に沙奈会長と副会長さんが登校していた。会長が元気そうなので一安心。
「玲人君、土日は楽しかったね」
「……悪くない休日になりました」
いつもと違う過ごし方をしたので、かなり長く感じた休日だった。あの盛りだくさんの出来事が2日間のうちにあったとは信じられない。
「土日は楽しかったって……沙奈ちゃんと逢坂君、一緒にどこかへ遊びに行ったりしたの?」
「実はですね……」
沙奈会長は俺と過ごした土日のことをとても楽しそうに話した。内容はたくさんあるのに分かりやすく纏めて伝えているのはさすが会長というべきか。あと、休みの間ってあまり副会長さんと連絡のやりとりはしないのかな。
「なるほどね。沙奈ちゃんにとって楽しい休日を逢坂君と一緒に過ごしたんだね」
「はい! まるで同棲をしているようでした!」
「ただ、今の内容を楽しげに話されると、沙奈ちゃんと逢坂君が付き合っているようにしか思えないけれど、これまでの2人のことを知っているし、何よりも逢坂君の表情を見ていると実際は違うんだなって分かるよ」
「副会長さんが理解のある方で助かります」
事の発端は突然、沙奈会長が俺の家に来たことだからな。思い返せば、琴葉のお見舞いに行くことを除けば、沙奈会長中心に事が進んでいたような気がする。昨日の朝は体調が悪くなっていたので仕方ないときもあったけれど。
「でも、逢坂君もよく突然来た沙奈ちゃんのことを迎え入れたよね。もしかして、本当は沙奈ちゃんに気があったりするの?」
「あるんだったら嬉しいな」
沙奈会長にそっと手を掴まれる。はにかんでチラチラと俺のことを見てくる。こういうのをあざといというと言うのだろうか。
「うちには4歳年上の姉がいますし、昔は幼なじみや姉さんの同級生と一緒に遊ぶことも多かったので、女性と一緒にいるのは慣れているんです」
「なるほどね。そういえば、私も小学生のときに友達の家に遊びに行ったとき、3歳年下の弟さんと一緒にゲームをしたりしたっけ」
「俺もそんな感じでした」
どの家でも、姉の友人が遊びに来たら弟は付き合わされるものなのかな。俺の家だけかと思った。
「お姉様の服を着せられて写真も撮られたんだよね。可愛かったなぁ」
「ううっ……」
姉さんのアルバムを見るまですっかりと忘れていたのに。最も知られてはまずい人に知られてしまったと思う。
「へえ、逢坂君って昔は黒髪だったんだ。逢坂君って知らなければ女の子にしか見えないかも」
「ちょっと待ってください。アルバムの写真を撮影していたんですか!」
「うん。スマートフォンでたくさん撮ったよ」
沙奈会長は姉さんの服を着ている俺の写真を表示した画面を見せてくる。俺が1人で入浴している間にでも写真に撮ったのかな。
「消せとは言いません。ただ、あまりその写真を他の人に見せないでくださいね。特に女装の写真を見せびらかしたら、俺は沙奈会長のことを大嫌いになる自信があります」
「見せびらかさないから嫌いにならないで!」
「……約束ですよ」
段々と沙奈会長の扱い方が分かってきたような気がする。
「今の2人のやり取りを見て、何となく、土日に2人がどんな感じだったのか想像できたよ」
「俺にとっても悪くない2日間でしたよ」
姉が1人増えたようなものだし、沙奈会長にも可愛いところがあるって分かったから。
「じゃあ、2人の週末の話を聞いたところで、そろそろ朝のミーティングを始めようか」
「そうですね。今日のことを話す前に、明日の朝……風紀委員会と一緒に校門で身だしなみチェックをやるから、明日は今日よりも30分くらい早く学校に来てね」
「分かりました」
スマートフォンのカレンダーの4月24日に『身だしなみチェック 30分早く学校に行く』と予定を書き込んだ。
今日の生徒会の仕事は特に急ぎの案件はないとのこと。なので、沙奈会長と副会長さんが俺に庶務係としての仕事を手取り足取り教えてくれるそうだ。
「俺の勝手なイメージですけど、生徒会って仕事がキツキツだと思っていました」
「式典や体育祭、文化祭などのイベントが近くなると仕事も忙しくなるけれど、それ以外はキツいってことはないかな。沙奈ちゃんがテキパキとこなしてくれているっていうのもあるけれどね」
「私だって最初は全然分からなかったですよ。先代の生徒会長や樹里先輩が分かりやすく仕事を教えてくれたおかげです」
周りの生徒も沙奈会長は才色兼備な女子だと言っているけれど、生徒会長になったばかりの頃は今の俺みたいに生徒会の仕事は全然分からなかったんだな。
「そう言ってくれると嬉しいよ。じゃあ、今度は沙奈ちゃんが生徒会の仕事を教える番だね」
「そうですね。上手く教えられるかどうか不安ですけど」
「私も一緒に教えていくつもりだからそこは安心して」
沙奈会長や副会長のことはいい人だと思っているけれど、ここまで2人が意気投合していると最初からキツそうな気がする。庶務係という役職だけれど、何かあったときにサポートできるように、色々な仕事を覚えていかないと。
「さっきも言ったとおり、私と樹里先輩で手取り足取り教えてあげるから。もちろん、分からないことがあったら遠慮なく訊いてね」
「はい」
生徒会絡みだと真面目になって本当に頼りがいがありそうなのに。
「ちょっと私、お手洗い行ってくる」
副会長さんは生徒会室を後にする。先週の月曜日にこの生徒会室で拘束されたので、会長と2人きりになるのは未だに恐い。
「大丈夫だって、玲人君。ロープで縛ったりするようなことはしないから安心して」
「……そうですか。ただ、心が読まれていることが恐いですよ」
寒気を感じたほどだ。顔に出ていたのかな。
「玲人君のことが大好きだからね。ただ、今は2人きりか……」
そう言うと、沙奈会長はちょっと恥ずかしそうな表情を見せる。2人きりだから会長も俺のことを意識しているのかも。
「ねえ、玲人君。あのさ……」
「何ですか?」
すると、沙奈会長はチラチラと俺のことを見て、
「……一緒に生徒会の仕事、頑張ろうね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
いつもなら爽やかな笑みを浮かべながら言ってくることだと思うけれど。まさか、体調があまり良くないのかな。
「会長。昨日も体調が悪いときがあったので、無理しないでくださいね。少しでも早く先輩方をサポートできるように、俺も生徒会の仕事を覚えていきますから」
「……頼もしいね、ありがとう」
そう言うと、沙奈会長は俺の頭を優しく撫でてきたのであった。
今日も昼休みや放課後は生徒会室で沙奈会長や副会長さんと一緒に過ごし、生徒会の仕事を少しずつ教えてもらう。
ただ、1つだけ気になることがある。
昨日までと違って、沙奈会長が俺と距離を取っているような気がするのだ。副会長さんと一緒に生徒会の仕事を俺に教えているからなのかな。それとも、週末は沙奈会長と一緒に過ごしていたからだろうか。時々、そんなことを考えながら、生徒会の仕事を覚えることに努めるのであった。
今週も青空の下で学校生活が始まる。ただ、先週までとは違って、生徒会の仕事も本格化していくけれど。
いつものように公園で猫と戯れ、いつものように学校で周りの生徒からジロジロと見られる。そういうこともすっかりと慣れてしまった。
ただ、生徒会室に行くことはまだ慣れていないので、生徒会のメンバーになっても扉を開ける瞬間は緊張する。
「おはようございます」
「おはよう、玲人君」
「おはよう、逢坂君」
生徒会室に入ると、既に沙奈会長と副会長さんが登校していた。会長が元気そうなので一安心。
「玲人君、土日は楽しかったね」
「……悪くない休日になりました」
いつもと違う過ごし方をしたので、かなり長く感じた休日だった。あの盛りだくさんの出来事が2日間のうちにあったとは信じられない。
「土日は楽しかったって……沙奈ちゃんと逢坂君、一緒にどこかへ遊びに行ったりしたの?」
「実はですね……」
沙奈会長は俺と過ごした土日のことをとても楽しそうに話した。内容はたくさんあるのに分かりやすく纏めて伝えているのはさすが会長というべきか。あと、休みの間ってあまり副会長さんと連絡のやりとりはしないのかな。
「なるほどね。沙奈ちゃんにとって楽しい休日を逢坂君と一緒に過ごしたんだね」
「はい! まるで同棲をしているようでした!」
「ただ、今の内容を楽しげに話されると、沙奈ちゃんと逢坂君が付き合っているようにしか思えないけれど、これまでの2人のことを知っているし、何よりも逢坂君の表情を見ていると実際は違うんだなって分かるよ」
「副会長さんが理解のある方で助かります」
事の発端は突然、沙奈会長が俺の家に来たことだからな。思い返せば、琴葉のお見舞いに行くことを除けば、沙奈会長中心に事が進んでいたような気がする。昨日の朝は体調が悪くなっていたので仕方ないときもあったけれど。
「でも、逢坂君もよく突然来た沙奈ちゃんのことを迎え入れたよね。もしかして、本当は沙奈ちゃんに気があったりするの?」
「あるんだったら嬉しいな」
沙奈会長にそっと手を掴まれる。はにかんでチラチラと俺のことを見てくる。こういうのをあざといというと言うのだろうか。
「うちには4歳年上の姉がいますし、昔は幼なじみや姉さんの同級生と一緒に遊ぶことも多かったので、女性と一緒にいるのは慣れているんです」
「なるほどね。そういえば、私も小学生のときに友達の家に遊びに行ったとき、3歳年下の弟さんと一緒にゲームをしたりしたっけ」
「俺もそんな感じでした」
どの家でも、姉の友人が遊びに来たら弟は付き合わされるものなのかな。俺の家だけかと思った。
「お姉様の服を着せられて写真も撮られたんだよね。可愛かったなぁ」
「ううっ……」
姉さんのアルバムを見るまですっかりと忘れていたのに。最も知られてはまずい人に知られてしまったと思う。
「へえ、逢坂君って昔は黒髪だったんだ。逢坂君って知らなければ女の子にしか見えないかも」
「ちょっと待ってください。アルバムの写真を撮影していたんですか!」
「うん。スマートフォンでたくさん撮ったよ」
沙奈会長は姉さんの服を着ている俺の写真を表示した画面を見せてくる。俺が1人で入浴している間にでも写真に撮ったのかな。
「消せとは言いません。ただ、あまりその写真を他の人に見せないでくださいね。特に女装の写真を見せびらかしたら、俺は沙奈会長のことを大嫌いになる自信があります」
「見せびらかさないから嫌いにならないで!」
「……約束ですよ」
段々と沙奈会長の扱い方が分かってきたような気がする。
「今の2人のやり取りを見て、何となく、土日に2人がどんな感じだったのか想像できたよ」
「俺にとっても悪くない2日間でしたよ」
姉が1人増えたようなものだし、沙奈会長にも可愛いところがあるって分かったから。
「じゃあ、2人の週末の話を聞いたところで、そろそろ朝のミーティングを始めようか」
「そうですね。今日のことを話す前に、明日の朝……風紀委員会と一緒に校門で身だしなみチェックをやるから、明日は今日よりも30分くらい早く学校に来てね」
「分かりました」
スマートフォンのカレンダーの4月24日に『身だしなみチェック 30分早く学校に行く』と予定を書き込んだ。
今日の生徒会の仕事は特に急ぎの案件はないとのこと。なので、沙奈会長と副会長さんが俺に庶務係としての仕事を手取り足取り教えてくれるそうだ。
「俺の勝手なイメージですけど、生徒会って仕事がキツキツだと思っていました」
「式典や体育祭、文化祭などのイベントが近くなると仕事も忙しくなるけれど、それ以外はキツいってことはないかな。沙奈ちゃんがテキパキとこなしてくれているっていうのもあるけれどね」
「私だって最初は全然分からなかったですよ。先代の生徒会長や樹里先輩が分かりやすく仕事を教えてくれたおかげです」
周りの生徒も沙奈会長は才色兼備な女子だと言っているけれど、生徒会長になったばかりの頃は今の俺みたいに生徒会の仕事は全然分からなかったんだな。
「そう言ってくれると嬉しいよ。じゃあ、今度は沙奈ちゃんが生徒会の仕事を教える番だね」
「そうですね。上手く教えられるかどうか不安ですけど」
「私も一緒に教えていくつもりだからそこは安心して」
沙奈会長や副会長のことはいい人だと思っているけれど、ここまで2人が意気投合していると最初からキツそうな気がする。庶務係という役職だけれど、何かあったときにサポートできるように、色々な仕事を覚えていかないと。
「さっきも言ったとおり、私と樹里先輩で手取り足取り教えてあげるから。もちろん、分からないことがあったら遠慮なく訊いてね」
「はい」
生徒会絡みだと真面目になって本当に頼りがいがありそうなのに。
「ちょっと私、お手洗い行ってくる」
副会長さんは生徒会室を後にする。先週の月曜日にこの生徒会室で拘束されたので、会長と2人きりになるのは未だに恐い。
「大丈夫だって、玲人君。ロープで縛ったりするようなことはしないから安心して」
「……そうですか。ただ、心が読まれていることが恐いですよ」
寒気を感じたほどだ。顔に出ていたのかな。
「玲人君のことが大好きだからね。ただ、今は2人きりか……」
そう言うと、沙奈会長はちょっと恥ずかしそうな表情を見せる。2人きりだから会長も俺のことを意識しているのかも。
「ねえ、玲人君。あのさ……」
「何ですか?」
すると、沙奈会長はチラチラと俺のことを見て、
「……一緒に生徒会の仕事、頑張ろうね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
いつもなら爽やかな笑みを浮かべながら言ってくることだと思うけれど。まさか、体調があまり良くないのかな。
「会長。昨日も体調が悪いときがあったので、無理しないでくださいね。少しでも早く先輩方をサポートできるように、俺も生徒会の仕事を覚えていきますから」
「……頼もしいね、ありがとう」
そう言うと、沙奈会長は俺の頭を優しく撫でてきたのであった。
今日も昼休みや放課後は生徒会室で沙奈会長や副会長さんと一緒に過ごし、生徒会の仕事を少しずつ教えてもらう。
ただ、1つだけ気になることがある。
昨日までと違って、沙奈会長が俺と距離を取っているような気がするのだ。副会長さんと一緒に生徒会の仕事を俺に教えているからなのかな。それとも、週末は沙奈会長と一緒に過ごしていたからだろうか。時々、そんなことを考えながら、生徒会の仕事を覚えることに努めるのであった。
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