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第十九話
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~第十九話~
「…全く、邪教徒の連中は炊事場の油虫より質が悪い」
どこにでも入り込むと言う意味では正しくその通りだな。
「3年前は我々も痛い目を見た…と、この話は貴様には酷だったな」
「…構いませんよ、過ぎた話だ」
嘘だ、正直あの時の感触はまだ忘れるには程遠い。
「何にせよ、警戒は強めるに越した事はない…が、如何せん手が足らんな」
「内政にまで食い込まれたら抑々武官には手が出し難いっすよ」
それでも同じ事の繰り返しを避けるための努力は払われている。第二大隊員の半数近くが各領地の内偵を秘密裏に行っていると言うのは従士隊の最高機密だ。
「うむ…であれば、せめて軍人同士は相互に監視できる状況が必要だな」
「…もしかして、衛士隊のこと言ってます?」
マグニシアの近衛には我等が『従士隊』の他に宮中警護の為の『衛士隊』が存在する。平時には各領地で憲兵の役割も果たし、ウチの二軍と同じ仕事をこなす部署も有ると言う。…そう考えると結構内政に干渉してんな、近衛総軍が内務局に目の敵にされるのも頷けるわ。
「殆どは負傷が原因でウチから後送された後に復員した連中の集まりだ、連携は取りやすいだろう」
分かってんだよ…だから嫌なんだよ…。
「あぁ、昔貴様の分隊員だったあの娘も今は小隊長だったか?負傷で声が出せなくなったと聞いていたが、大したものじゃないか」
ほらぁ…絶対その話すると思ったぁ…。
「俺をパイプ役にしようってんならお門違いっすよ…その負傷の件で大分恨まれてますから」
「そうか?まぁ負傷させた当人に恨みが行ってないならその方が良いのだろうが」
「寧ろ下手人には俺の方が責任感じてますよ…」
「あぁ、テンパった貴様に陰嚢を潰されかけたんだったか」
「皆まで言わんで下さい…あの時の嫌な感触思い出しちゃうから…」
仕方ねぇだろ…ヤツの息子(そっちじゃない方)含め村の子供は全員無傷で保護した直後だった。『その必要が無かったのに他人を傷付けてしまった』相手に何て声掛けて良いかあの時は分からなかったんだよ…。
「駆け付けた後続の部隊が保護した後も小半刻はもんどり打ち続けてたからな…事の経緯を聞いた連中が全員自分の股座押さえ出した時は流石に笑った「ねぇこの話やめない?」
俺にとっては他の誰よりも笑い事ではなかった。当時あまりのショックと罪悪感で茫然自失した結果『民間人を殺してしまった』と勘違いしたアレクが真相が知れるまでの数日間俺より凹んじゃったんだから…。
「まぁあの一件のお陰で『邪教徒殺すべし』って覚悟が身に付きましたし…今じゃ笑い話、『良い経験だった』と言える様にはなりましたよ」
「潰された片金には気の毒な話だがな」
「だから潰してねぇって!この間様子見に行ったら娘産まれてたよ!」
………
「何にせよ他に適役も思い付かん、戻って早々で悪いがまた王都まで行って貰う」
「いやだから俺じゃ印象悪いって…」
あの女一人で済む話なら他に幾らでも窓口の見付けようは有るだろうが、どうも熱心な取り巻きが居る様で衛士隊には何かにつけて絡まれる。
「売られる端から買って回るから余計に敵を増やすのだろうが」
「『嘗められそうな時は格付けをはっきりさせろ』が家訓だもんで」
「あぁ…そう言えばちびの頃から口舌よりは拳骨の方が達者だったか」
生傷増やして帰る度に姉さまに叱られる内に多少の自制心は身に付けた心算だったんだが。
「"相手に先に手を出させる為の悪口雑言を覚える事"を自制とは言わん」
「その初撃も避けちゃうから結局最初の一発は俺からになっちゃうしな」
「偉そうに言うな馬鹿者!」
………
「え、結局俺が行くしか無い感じですか」
「嫌なら断っても構わん、抗命の咎で死罪に出来るなら暗殺の手間が省けて個人的には結構だ…聖騎士の位は先に返上しておけよ」
まだ怒ってんのかよ…
「連絡役が嫌と言うなら新設の大隊を持たせてやると言うのも「明日の朝出発します」よろしい」
くそっ、とんでもねぇ脅し文句隠してやがった…はなっから選択肢は無かったわけだ。
「…で、行くのはもう構わないんですけど、ヘクターの奴にはもう少し代理として働くように言ってくれませんか」
またぞろ山積みの書類と格闘するのは勘弁願いたい。
「あぁ、あれか…なに、貴様が本気を出した場合の事務処理能力を試したまでだ、総隊長から『折を見て色々な方面で適正を測ってやって欲しい』と頼まれていてな」
「…嵌められた」
「孫を思う祖父の心をその様に言うものではない、どうせなら後を継いで欲しいのではないか?」
とんでもねぇや、孫の心祖父知らずも良いとこだぜ。
「まぁ文句が言いたければついでに王都の別宅に顔を出してやれば良い、実家の方にはもう1年は戻っていないのではないか?」
「手紙のやり取り程度はしてますよ、今帰ったら『何かやらかしたんじゃないか』だの要らん勘繰りされるのが目に見えらぁ」
親父やじいさんよりクソジジイに気質が似ちまった俺は一族じゃ割と跳ねっ返りの部類に入れられるからな。
「従士隊と衛士隊の連携強化も元は総隊長殿の方針だ、構想を伺って概要を掴んだら細かい部分は貴様の判断で進めて良い」
「…もしかしてそれもじいさんの指示?もしかして此処まで既定路線だったりします…?」
「『腹芸の方は教育の必要を認む』…と」
「おいなんだよその手帳!考課表!?考課表なの!?そんな胡乱な項目まで大隊長の適正評価に入ってんのウチって!?」
………
「えー…そんな訳で、暫く単身で出張です」
「「」」
「…全く、邪教徒の連中は炊事場の油虫より質が悪い」
どこにでも入り込むと言う意味では正しくその通りだな。
「3年前は我々も痛い目を見た…と、この話は貴様には酷だったな」
「…構いませんよ、過ぎた話だ」
嘘だ、正直あの時の感触はまだ忘れるには程遠い。
「何にせよ、警戒は強めるに越した事はない…が、如何せん手が足らんな」
「内政にまで食い込まれたら抑々武官には手が出し難いっすよ」
それでも同じ事の繰り返しを避けるための努力は払われている。第二大隊員の半数近くが各領地の内偵を秘密裏に行っていると言うのは従士隊の最高機密だ。
「うむ…であれば、せめて軍人同士は相互に監視できる状況が必要だな」
「…もしかして、衛士隊のこと言ってます?」
マグニシアの近衛には我等が『従士隊』の他に宮中警護の為の『衛士隊』が存在する。平時には各領地で憲兵の役割も果たし、ウチの二軍と同じ仕事をこなす部署も有ると言う。…そう考えると結構内政に干渉してんな、近衛総軍が内務局に目の敵にされるのも頷けるわ。
「殆どは負傷が原因でウチから後送された後に復員した連中の集まりだ、連携は取りやすいだろう」
分かってんだよ…だから嫌なんだよ…。
「あぁ、昔貴様の分隊員だったあの娘も今は小隊長だったか?負傷で声が出せなくなったと聞いていたが、大したものじゃないか」
ほらぁ…絶対その話すると思ったぁ…。
「俺をパイプ役にしようってんならお門違いっすよ…その負傷の件で大分恨まれてますから」
「そうか?まぁ負傷させた当人に恨みが行ってないならその方が良いのだろうが」
「寧ろ下手人には俺の方が責任感じてますよ…」
「あぁ、テンパった貴様に陰嚢を潰されかけたんだったか」
「皆まで言わんで下さい…あの時の嫌な感触思い出しちゃうから…」
仕方ねぇだろ…ヤツの息子(そっちじゃない方)含め村の子供は全員無傷で保護した直後だった。『その必要が無かったのに他人を傷付けてしまった』相手に何て声掛けて良いかあの時は分からなかったんだよ…。
「駆け付けた後続の部隊が保護した後も小半刻はもんどり打ち続けてたからな…事の経緯を聞いた連中が全員自分の股座押さえ出した時は流石に笑った「ねぇこの話やめない?」
俺にとっては他の誰よりも笑い事ではなかった。当時あまりのショックと罪悪感で茫然自失した結果『民間人を殺してしまった』と勘違いしたアレクが真相が知れるまでの数日間俺より凹んじゃったんだから…。
「まぁあの一件のお陰で『邪教徒殺すべし』って覚悟が身に付きましたし…今じゃ笑い話、『良い経験だった』と言える様にはなりましたよ」
「潰された片金には気の毒な話だがな」
「だから潰してねぇって!この間様子見に行ったら娘産まれてたよ!」
………
「何にせよ他に適役も思い付かん、戻って早々で悪いがまた王都まで行って貰う」
「いやだから俺じゃ印象悪いって…」
あの女一人で済む話なら他に幾らでも窓口の見付けようは有るだろうが、どうも熱心な取り巻きが居る様で衛士隊には何かにつけて絡まれる。
「売られる端から買って回るから余計に敵を増やすのだろうが」
「『嘗められそうな時は格付けをはっきりさせろ』が家訓だもんで」
「あぁ…そう言えばちびの頃から口舌よりは拳骨の方が達者だったか」
生傷増やして帰る度に姉さまに叱られる内に多少の自制心は身に付けた心算だったんだが。
「"相手に先に手を出させる為の悪口雑言を覚える事"を自制とは言わん」
「その初撃も避けちゃうから結局最初の一発は俺からになっちゃうしな」
「偉そうに言うな馬鹿者!」
………
「え、結局俺が行くしか無い感じですか」
「嫌なら断っても構わん、抗命の咎で死罪に出来るなら暗殺の手間が省けて個人的には結構だ…聖騎士の位は先に返上しておけよ」
まだ怒ってんのかよ…
「連絡役が嫌と言うなら新設の大隊を持たせてやると言うのも「明日の朝出発します」よろしい」
くそっ、とんでもねぇ脅し文句隠してやがった…はなっから選択肢は無かったわけだ。
「…で、行くのはもう構わないんですけど、ヘクターの奴にはもう少し代理として働くように言ってくれませんか」
またぞろ山積みの書類と格闘するのは勘弁願いたい。
「あぁ、あれか…なに、貴様が本気を出した場合の事務処理能力を試したまでだ、総隊長から『折を見て色々な方面で適正を測ってやって欲しい』と頼まれていてな」
「…嵌められた」
「孫を思う祖父の心をその様に言うものではない、どうせなら後を継いで欲しいのではないか?」
とんでもねぇや、孫の心祖父知らずも良いとこだぜ。
「まぁ文句が言いたければついでに王都の別宅に顔を出してやれば良い、実家の方にはもう1年は戻っていないのではないか?」
「手紙のやり取り程度はしてますよ、今帰ったら『何かやらかしたんじゃないか』だの要らん勘繰りされるのが目に見えらぁ」
親父やじいさんよりクソジジイに気質が似ちまった俺は一族じゃ割と跳ねっ返りの部類に入れられるからな。
「従士隊と衛士隊の連携強化も元は総隊長殿の方針だ、構想を伺って概要を掴んだら細かい部分は貴様の判断で進めて良い」
「…もしかしてそれもじいさんの指示?もしかして此処まで既定路線だったりします…?」
「『腹芸の方は教育の必要を認む』…と」
「おいなんだよその手帳!考課表!?考課表なの!?そんな胡乱な項目まで大隊長の適正評価に入ってんのウチって!?」
………
「えー…そんな訳で、暫く単身で出張です」
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