誰が林檎を毒にした?

metta

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 ルベルが王になって少しの時が過ぎた頃。 
 
「お前達は子らと同罪です。継承権があると偽り、陛下に刃を向けた。……いや、己が子の血統を知っていながら継承権を黙して得たという点を考えれば、よりお前達の方が……」 
 スクルムはルベルが始末をした継承者の親達を捕らえ、自身の部屋で尋問していた。
 引っ立てられた喚く男達は身形だけは立派だ。しかしあまりに五月蠅いからか、兵達にもぞんざいに扱われ、今はスクルムの足元に転がされている。
「貴殿はあの娼婦の腹から産まれた賎しい簒奪者が王に相応しいと本気で思っているのか!? 護国の精霊が聞いて呆れる!」
「私は精霊ですから、相応しいかどうかは勿論、一番正統な王のしもべです。ニヴィアス様がいなくなった時に、お前達の子らにつかなかった。それが全ての答えです」
「それが本当にこの国の為になると!?」
「それも含めて、お前達の子らでは不適だったという事です。罪に不敬を重ねているだけだと、何故分からぬ」
 一見すれば子を失った事よりも国を憂う者らだと見えなくもないが、そうではない事は分かっている。
 いい加減喚く声が五月蠅い。牢に連れていけと命じようとした時だった。
「何だ何だ? 愉しそうな事をしているじゃないか」
「貴様……!」
「ルベル様」
 愉しそうな様子でルベルが部屋に入ってくる。敢えてこの者達の始末は伝えていなかったのに。いつ嗅ぎ付けられたのだろうか。
 スクルムは取り敢えずと、転がる男を踏みつけて黙らせ、ルベルに向き直った。
「我が君、何故ここに」
「何故って、これは俺が頼んだ事・・・・・・なんだから、きちんと報告はしろ」
「は……?」
 血筋を偽り、王に刃を向けたのだ。その関係者を始末するのは当然の事である。わざわざ許可を取るまでもなく、ましてやルベルの命令を受けて行っていることではない。
「しかし娼婦腹だ毒夫だ何だと、上流階級なのにどいつもこいつも語彙がない。……育ちが知れる・・・・・・な?」
 行動の意図が分からず訝しむスクルムを気にすることなく、ルベルは意地の悪い冷ややかな笑みを口元に浮かべ、男達を馬鹿にしている。
「お前達がちゃんと罪を認めるなら、他の家族や縁戚は生かしてやるが、どうする? 俺はどっちでも構わないぞ」
「…………地獄に落ちろ!」
「それが答えか。じゃあスクルム、後は任せた」
 (何だったんだ)
 ひらひらと手を振って部屋へと戻っていくルベルを見送り、スクルムは男達の始末に意識を戻した。
 
 
 貴方様はてっきりあの鏡の精と交わっているのかと。
 あいつは精霊だ。物と交わる趣味はないな。こんな風に、熱くないと。
 スクルムが粛清を終えて王の部屋へ向かい、使用人の待機する部屋に入れば、くすくすと艶めいた笑い声のあと、控えめな嬌声が聴こえる。半刻程後そそくさと出てきた一人の貴族がスクルムの姿を見て、気まずそうに逃げるように去っていく。それに溜め息を吐いて部屋の奥に目を向ければ、白い裸体が視界に入った。情事後以外の何者でもない。
「遅いぞ」
「……遅い方がよかったのでは?」
「別にどっちでも。とにかく帰ってきたのなら、この鬱陶しい熱を、お前の冷たさで鎮めてくれ」 
「……仰せのままに」 
 スクルムの嫌味を気にした様子もなく、ルベルは命じる。王となってから、ルベルはこうして自分を邪な目で見ていたものに粉をかけ、複数と関係を持つようになっていた。
「ん……っ冷た……相変わらず、雪みたい、だな……」  
 スクルムはルベルの後孔に指を挿入する。じわりじわりと体温が移り、互いの温度が温くなるまで待ってから、スクルムは指を動かし、ルベルの中に出された子種を残さないよう丁寧に丁寧に掻き出していく。
「っ、は……あ……」
 ルベルは最初の性体験が実の父による強姦だ。それが原因か否かは不明だが、性器は勃つところまで反応はするものの、達する事が出来ない。スクルムの冷たさでその熱を早く治めるか、ひたすら耐えるしかないのだ。
 ただこの日は時間が短かったからか相手が下手だったからか、直ぐに熱は醒めていく。もういいとスクルムの手を止めて、自分で身綺麗にし始める。
「しかし……お前、こんな諸々を目の当たりにして、人になりたいものか?」
「何故それをご存知で」
「前にニヴィアスが言ってた」
「……そうでしたか。人になりたいというのは、単純に長い生に飽きたというのもありますし、こういった諸々を見るのも飽きたというのもあります」
「ああ……確かにそれは、そうだな……でも何で人なんだ。俺なら獣になりたいと思うが」
 獣は何も思うことはない。ただ生きるために生きて、途絶えるように死ぬだけだ。
 ルベルは投げやりにそう言った。
「ルベル様……」
「でも……もし」
 しかしそのあとすぐ、小さくぽつりと零した言葉。
「もし……父さんと母さんが、普通の……」
 スクルムの視線を感じたのか、ルベルは途中で言葉を止めた。言うつもりがなかったのだろう。
 微妙な空気が流れ、スクルムはそれを変えようと口を開いた。
「……あと、単純に、食事を楽しんでみたいですね」
「……それも確かに、人じゃないと駄目だな」
 ルベルはもそもそと寝台から出て、人形を寝かせ直し、長椅子の方に移動している。それを見たスクルムは思わず眉を寄せてしまう。
「身体によくありません。見張りますから、たまには寝台で寝てください」
「……この長椅子ですら、元の家の寝床よりずっとずっと上等なんだ。問題ない。それより、二人追加してる。目を通しておいてくれ」
 そう言ってスクルムの言うことなど聞く耳持たない。スクルムが運んできた水を飲みながらルベルは手帳を差し出す。
 ルベルは基本、スクルムが運ぶものしか口にしない。継承者を殺した後にも何人かの高位貴族や有力者を粛清し、連座は敢えて最低限しかしなかった。だからそれからというもの、普通に命を狙われている。食事等に毒が仕込まれていたのも、一度や二度ではなかった。
 水を飲み終わったルベルが身だしなみを整える間、スクルムは手帳を手慰みに捲った。ルベルは文字の読み書きは出来るが、尖筆等には慣れていない。それでも他人が見て分かるよう、拙いながらも丁寧な字で、何人もの貴族や有力者の名が書き列ねられていた。
「ルベル様、貴方がこのような真似をして情報を集めずとも……」
このような真似・・・・・・・って何だ? お前の力を使わないで済むなら、その方がいいだろう」
 娼婦の胎から産まれた賤しい王にふさわしいと思うが。そう、ルベルはうっそりと笑う。
 愚かに振る舞うのは楽なのだと。でも必要以上に舐められるのはよくないのだとルベルは言う。
 愚かさの中に毒と血と暴力を。快楽と狂気を孕めば、まともな者は自らに害が来ないように線を引くのだと。そうしてもらえればルベルも間違えないのだという。
 だが、本当に境界線を引いているのは誰だろうか。
 その内側へ賊臣だけを引き込んでいるのは誰だろうか。 
「……やめてください。貴方がここまでする必要はありません」
「俺を簒奪の王にしたのはお前だろう。見届けると言ったのはお前だ」
 紅玉がスクルムを睨み据える。スクルムはそれに反論する術を持たない。
「なら、黙って見てろ」
 話は終いだとルベルはスクルムを追い出す。スクルムは何とも言い表せない気持ちを抱えたまま、王の部屋の前で暫し佇んでいた。
 やめて欲しいと言う一言を、そう思う気持ちを、理由を。もう少し上手く正面から伝えられれば、もしかしたら何かが変わっていたかもしれない。
 しかしスクルムにはそれが分からなかった。
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