誰が林檎を毒にした?

metta

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14 纏毒

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「王殺しの大罪人が!」
「ふ……」
 黒い衣装を纏い帯剣したルベルはスクルムを伴い、今にも飛び掛かりそうな勢いの貴族や兵がひしめく謁見の間に姿を見せた。
 王殺し、大罪人。客観的に見ればルベルを形成する事実はそうでしかない。だが。
 
 本当に罪深いのは誰だろうか?
 
 そう思うと何だか可笑しくなってルベルは薄い笑いを顔に浮かべた。その笑みは嘲笑のような類いではなく、聞き分けのない幼子を見る優しい大人のそれで、皆ただただ戸惑っている。
 そんな中、唯一怯む事なく、じとりとルベルとスクルムを見つめる者がいた。
「――精霊殿、その簒奪者の継承権は四番目のはず。何故貴方様がそこ・・に立っておられるのか」
「宰相殿。ニヴィアス様が不在の今、次に王位を継ぐべきなのはこのお方だからです」
 スクルムが言い終えると同時に、にこりとルベルは笑った。糾弾者は堂々とした美しいそれにたじろぐ。
「ニヴィアスだけが正統で、俺の上二人に王家の血はほとんど流れていないから、継ぐ資格はないそうだぞ?」
「ニヴィアス様が継ぐならば糾弾は不要と放置していましたが、詐称等もありますが故」
 スクルムの断言に男達は小さく動揺し、誤魔化すように叫ぶ。
「――この娼婦腹の賤王めがッ!!」
「その賤しい血より下なのはどこのどいつだ?」
 剣を抜き、ルベルに斬りかかるのは継承権が二位と三位の男達。
「お前達が王になったところで、それもまた、簒奪に過ぎないだろうが」
 男達にはきちんとした剣の基礎があり、恐らく力も強い。しかし箱入りは所詮箱入り。ルベルを舐めきっている上に、簒奪者を討った方が王だという隠しきれない強欲が剣筋を鈍らせている。獣と同じだ。
 ルベルは素早く細剣を抜き、男達の首や胸を貫いた。今度の赤はルベルを犯さない。
 スクルムが白い衣装を血染めにしながら盾となり、合図をする。それを見た宰相も同様に兵達に命じ、控えていた兵が戸惑いながらも、敵意ある糾弾者達を取り押さえていった。
「……やはり貴方は毒夫どくふと成られた」 
 ぴっと剣の血を払うルベルを恨めしそうに、苦り切った声で宰相が言う。深い皺が刻まれた顏は、スクルムとも違った意味で感情が見えにくい。
「父さんを殺したのは、お前か」 
「私が始末せよと命じたのは、貴方達母子です。しかし――他に継承者がいないとなると、直系は貴方しかいない。なら私めもまた、従うしかない」
 それとも殺しますか、と宰相が問う。
 父の仇。
 だが、宰相の行動原理はこの国のためだとルベルは考えた。だからこそスクルムも知ってはいても確証がないなどと、はぐらかしていたのだろう。
 それに実際ルベルが毒でしかなかったというのは正しい。
 先王が健在でこの国を治めるにしろ、ルベルは手篭めにされ飼い殺され、よくて寵姫の扱いとなる。結果、なるともなしに毒夫となっただろう。王となった現状は見てのとおりだから割愛する。
 そして、ニヴィアスが逃げず、そのまま王に据えられていた場合……いくら賢かろうが子供である以上、スクルムが言ったとおり傀儡にならざるを得ない。もしくは命を狙われ、本当の簒奪が起こる。
 結果王を使って実権を握るものにこの国の命運は左右され、その権力争いで荒れる。実権を握った方が片方を粛清すれば、この国の屋台骨自体が崩れるだろう。
 国自体は正直どうでもいいが、王子であるニヴィアスと、国につく精霊であるスクルム。この二人には国が必要不可欠。なら宰相は生かすべき人材だ。
「心配せずとも俺はどん詰まりだ。妃を娶るつもりもない。……スクルムが逃がしたニヴィアスを、成人まで護り切れ」
 そう耳元で囁くと宰相は細い目を開いてルベルを見る。真意を図りかねているようだった。 
 くく、と喉を鳴らし、ルベルは笑ってスクルムの傍へと戻る。
 (なるほど)
 賤しいと蔑みながら、血の海に怯えながらも、ルベルを見る有象無象の目はどうすればよいのかという戸惑いに、濁った欲が混じっている。
 ルベルの母は農民ながら、高級娼館に買われるほどに、美しかった。だからそっくりな自分の顔が上等なのは分かっていたが、所詮は男だ。村では若い娘が少ないから、そういう目で見られていると思っていた。
 だからこの顔や彩に執着していた王はともかく、上流階級がそういう目で見るほどのものとまでは思っていなかったのだが、この場にいる人間の何割かは、明らかに恐怖と併せてそういう目で見ている。もしかすれば、死んだフランキスカへの興味もあるのかもしれない。
 ならこれは。これは本当に自分の武器なのでは。
「ルベル様?」
 魔物でも獣でも雄が上に立とうが、実際に選ぶのは大体雌だ。なら自分は、雌に甘んじようか。ニヴィアスが成人するまでのあと数年、自分なりに出来る事を。
「――別に。何でもない」
 父が殺された時、嬲られて売られるか殺されるかの可能性が高かった事を思えば、余り物の命くらい好きに、有意義に使ってやろうとルベルは考えた。
「――他にこいつらのようになりたい奴はいるか?」
 血の海に立つルベルから、目を離すことも出来ず、元糾弾者は蛇に睨まれた蛙のように動くことも出来ない。
「さっさと心を決めて、俺を満足させればいい思い・・・・が出来るかもしれないぞ?」
 下手くそだったら殺すがな?
 そう嗤うルベルに少なくない数の者がくらりと、まるで毒を煽ったかのように、魅入られたの見て取れた。
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