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8章:交際スタート
8-3
しおりを挟むその日、仕事が終わって会社を出るとき、また先輩との朝の出来事を思い出していた。
やけに濃厚なキスだけ残された朝を思い出すと、非常に身体によろしくない。いろんな意味でよろしくなかった。
でもどうしたいのか、自分でもよくわからなかった。もう一度したいような、そうじゃないような。
こういうとき、みんなどうしてるんだろう? 電話とか、かけたりするものなのかな? 会いに行ってもいいのだろうか? そもそも、誰とも付き合ったことないからよくわかってない。
そういえば、宮坂さんにも話したけど、私と先輩はああいう事はしたけど、そもそも付き合っているのだろうか……?
そんなことを考えながら会社のビルを出ると、みゆ、と私を呼ぶ声が聞こえて、
どきりとして声の先を見ると、先輩が立っていた。
金曜にまた来そうな予感がしてたけど、その予感は外れたらしい。
嬉しいほうの誤算だ、と思ってから、私は嬉しく思っているのか、と自分の感情にやけに驚いた。
先輩は驚く私を見て笑うと、
「仕事ちょっと早く切り上げられたからさ。一緒に行くのは断られても、一緒に帰るなら帰ってくれるかと思って」
と意地悪く言う。
そのせいでまた朝のキスを思い出した。
先ほども思い出しているのに何度思い出すのだろうか。先輩のこと言えないくらい、私は変になってきているのかもしれない。
なんて言っていいのかわからなくて歩き出すと、先輩も続いて歩きだした。
いつの間にか先輩が隣に並ぶ。
ちょっと距離を取ると、また近づいてきた。
途中で、先輩の足が止まる。私も足を止め、先輩を見ると、先輩は近くのベンチを手でさした。
しかし、私は首を横に振り、裏手にある人通りの少ないベンチの方に行くと、ここで、と言って腰を下ろす。先輩は小さく息を吐いて、私の隣に座った。
遠くでカップルたちが仲良さそうに手をつないで歩いているのが目に入る。
私たちも人に見られたら、どんなふうに見えるんだろう。
(恋人……だろうか?)
私はそんなことを思って、ゴクンとつばを飲み込む。そして、口を開くと
「あの……私たちって付き合ってる、んでしょうか?」
とドラマさながら、『重そうな女』のセリフを吐いてしまった。
先輩がきょとんと私の方を見る。
その様子になんだか急に恥ずかしさがこみあげてきて、やっぱいいです! と叫んだ。
そんなことを思っていると、先輩の右手が私の左手に乗せられる。先輩を見上げると、先輩は少し不機嫌そうに眉を寄せた。その様子にドキリとする。
「みゆ、付き合ってもない男に抱かれたと思ってたの? あんなに何回も?」
「え、ええっと……」
もう少しオブラートに包んで言ってほしい。
「愛してるとか、好きだとか、きちんと自分の気持ちは伝えてたつもりだけど伝わってなかったって解釈でいい?」
「それは分かってましたけど……それと付き合ってるとはイコールではないと言うか」
「別に俺はね、付き合わずにそのまま結婚でもいいと思ってるよ」
「はい⁉」
ちょ、待って。いろいろ待って!
順序だててほしい。私は、恋愛初心者なのだ。
「でもみゆは、それは嫌でしょう。きっと普通に順序だててほしい、とか思ってるよね」
「なんでそれを!」
「みゆのことなら、なんでもわかるよ」
先輩は苦笑する。そして続けた。「だからね。きちんと付き合ってほしい。もちろん結婚を前提にして。みゆから言われたからってわけじゃないよ。そもそも、今日はその話をしたかったんだ」
その声が凛としててまっすぐ私に伝わってくる。
「……」
「みゆ? 俺と付き合ってくれる?」
私は自分の手をぎゅうと握りしめる。
たった一言。その、たった一言の勇気は、きっと、先輩がこれまでくれたたくさんの愛の言葉のおかげで……伝えられそうな気がした。
私は恥ずかしくてこれまで言葉にできずに来たけど、それも超えるくらい、今、先輩と自分を示す『関係』の言葉が欲しいと思ってしまっていることに気づく。
意を決すると先輩の目を見た。そして息を吸うと、
「……おねがいします」
と返事をしたのだった。
でも結局恥ずかしくなって目をそらす。すると先輩は、
「みゆ。それ、ちょっとかわいすぎない?」
「へ?」
意味が分からない、と思って顔を上げると、先輩は私の腕を引いて自分の方に寄せると、そのまま顔を近づけてくる。
「ちょ、ちょっと、待ってください!」
「待たない」
その返事に驚いて目を開くと、そのまま唇が合わされた。
「んっ……!」
(ちょっとまってーーーー! 外ですからぁああああ!)
慌てて先輩の胸板を押す。でもなかなかやめてくれなくて、泣きそうになると、先輩が諦めたように唇を離してくれた。
「先輩、人前だけはやめて……!」
そう言って先輩を見ると、先輩は、それも反則、と呟いて、自分の口元を手で覆う。
「……なら、これからうちにきてくれる?」
(うちって……先輩の家⁉)
つまりそれは、そういうことで。あれをすることだろうか。
困っていると、先輩は私の背中に腕を回して、
「ごめんね、金曜あれだけしたのに。でもあれからちょっとおかしいんだ」
と耳元で苦笑する。「俺、あれからずっとみゆの体温ばっかり、思い出してる」
熱に浮かされて、うんと言ったのか、言えなかったのか……
とにかく何も覚えてないけど、先輩の家に一緒に歩いたのは覚えている。
「ちょ、待って……!」
先輩の部屋に入って扉が閉まる瞬間、玄関で靴も脱がないまま、頭の後ろに手を這わされ、そのまま有無を言わさないようなキスを交わされる。くちゅ、と唾液の混じるような音がして泣きそうになったところで、やめてくれるわけでもなく、何度もキスを交わし、やっと唇が離れた。
「待たないって言ったでしょう? もう付き合ってるんだよ?」
先輩は自信満々に言う。
うぅ……なんかこの人に自信を与えてはいけなかったような気がしてきた。
「でも、ここ玄関だし」
「うん、だから、ごめん」
「明日も会社だから……」
だってまだ月曜だしね……?
そう思って、泣きそうになる。
やっぱり平穏な毎日じゃないですよね! なのに私は先輩との日々が必要なのだと、これを自分で選ぶようなことをしたのだ。
私は意を決して、先輩の背広の背中を掴んで、先輩を見上げる。
「お願い……。いっかいだけ、にして?」
「みゆからそんな言葉聞けるの、くるな……」
くるって、何? と泣きそうになると先輩はクスリと笑う。
そしてまたキスをすると私を抱き上げた。
「なら、濃い一回にしないとね」
「濃くしなくていいですってば!」
「うん、分かってる」
「その顔、絶対わかってない!」
私が腕の中で暴れても、先輩は楽しそうに笑う。
でもその顔をみて、私はもう一度キスをしたくなって、先輩の首に自分の腕を回した。すると、先輩は嬉しそうに笑って、うん、みゆの言いたいことはわかってるよ、と私の唇に甘い甘いキスを落としてくれた。
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