羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

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番外編:子どもができても先輩の愛はいろいろと重すぎる

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 ゆっくりと唇が重なる。
 あ、やっぱりこの人のこと好きだなぁって思ったら、離れかけた唇に自分からキスをしていた。それを見て、健人さんが嬉しそうに笑って、私もまた微笑む。


―――幸せ。私も幸せだよ。これからもっと幸せになる気がしてる。


 そう思ったとき、

「さっき一樹の家を出る時に、『今日はみゆとゆっくり愛し合いたいし、迎えが少し遅くなるかも』って言ったら、『あかりは泊まっていけばいいよ、そのために準備もしてるし、泊まっていってくれた方が嬉しいし』って言ってたよ? 二人とも」
と健人さんが言った。


 その言葉の意味を一瞬飲み込めず、飲み込めたところで意味が分からず、やっと意味が分かったところで私は顔を青くした。


「ちょ、待って。二人って……まさか……」


とつぶやくと、

「一樹と父」

と当たり前のように健人さんが笑う。


「……え」

 ちょ、待って……。
 そういえば見送られた時、一樹さんとお義父さんに、『仲良くね』と言われたけど、あの意味が今、明確にわかった。


「なんてこと言ってくれてんだぁあああああーーーー!」
「え? だって本当のことじゃん」
「そうでも!」

 泣きそう! いや、泣いてる。
 ありえない! どうしてこの人は、こんなにデリカシーがないのだろう。



「もう二人に顔が合わせられない……!」
「何言ってるの。大丈夫だって」

 ふふ、と笑って健人さんが私を抱きしめる腕に力を籠める。

「久しぶりに朝までこうしてられるね」
「ちょっと待て。私、怒ってるの」
「怒ってても何してても、もう待たないよ」

 そう言って、健人さんの唇が重なる。くちゅ、と舌が口内に当たり前のように差し入れられると、条件反射のように身体が熱くなった。
 泣きそうになって目の前の健人さんを見つめると、健人さんは熱い瞳で私の目を捉えた。

「今日は朝までいっぱい愛を注がせてね」

 そう言って、健人さんは心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
 そんな健人さんの顔を見て、私は諦めて重い愛を受け取る覚悟を決めた。



 その日、夢を見た。
 部活の帰り、二人一緒に夜道を歩いていた夢。

 あの日からずいぶん経った。
 あの日からずっと、私の心はこの人に捕らわれたままだ。


 再会した時も、とんでもない告白を聞いた時も、
 初めての夜も、結婚した時も、出産した時も……。

―――ずっと、ずっと……。



 まだ明るくなる前の早朝、起きたら目の前に愛しい顔があった。

「……ん、先輩?」

 寝ぼけて、呟くと、ふふ、と健人さんは嬉しそうに笑う。

「久しぶりに『先輩』って呼ばれたかも」

 そう言って抱きしめられる。子どもができてから何度も訓練され、私は『先輩』を『健人さん』と名前で呼べるようになったのだ。呼び慣れてくると、次は先輩、とは呼ばなくなっていた。

 そんなことを思って目線を落とすと、健人さんの裸の胸板が目の前に来て、やけに恥ずかしくなってしまい目線をそらした。

「みゆ? もしかしてまだ恥ずかしがってるの? 昨日の夜もさ何度も顔隠すし。それ見たらまた興奮しちゃったけど」
「わぁああああああ! もう、やめて! やめてぇ!」

 泣きそうな私の頬にキスを落として、次は唇に軽く触れるだけのキスを繰り返す。
 そしてまだ、ぎゅう、と抱きしめられた。


「……幸せだな」
 健人さんが心の底からつぶやいたような言葉がやけに胸に染みた。


 そのまま私の髪をなで、健人さんは言う。

「あかり迎えにいったら、そのままみんなで水族館でも行こっか?」
「はい、いいですね」
「じゃ、お弁当作ろうかな」
「じゃあ、私おにぎり作ります」
「俺は卵焼きだね」
「そういえば健人さんの作る卵焼き、お父さんと同じ味です」
「柊家秘伝の作り方教わったから」
「秘伝……そういえばそんなことお父さんが言っていたような……」

 私が何度言っても、父はちょっと甘い卵焼きを作っていた。
 今は同じものを健人さんが作ってくれている。

「あれ、昔、みゆのお母さんが作ってくれてたみたいだよ。お父さん、そのレシピ見て作ってたんだって」
「え……」

 秘伝ってそういうことか……。そんなの初めて聞いた。

「じゃあ、私に作り方教えてくださいよ! 私も作れるようになりたい!」
「だーめ」


 健人さんはそう言うと続ける。「お父さんの代わりにみゆに愛情を注ぐの、俺の役割って決まってるから教えない」


 そう言われて言葉に詰まる。
 この人はいつだって、私に愛情を注いでくれる。重い重い愛情を……。

 それを私はいつの間にか、重く感じなくなってた。

 あかりの『普通』が変わってるって言ってたくせに、私の『普通』だって変わってきていたのかもしれない。

 でもそれはそれでいい気がして、私は抱きしめてくれている健人さんの背中に腕を回した。


「みゆ?」
「健人さんが私を愛してくれて嬉しい、です」

 そう言って、やっぱりちょっと恥ずかしくなって、そのまま顔が見られないように、健人さんの胸に顔をうずめた。


 すると、突然、視界が反転する。
 目の前に健人さんと寝室の天井が見えた。

「それ、ほんとやばい。また止まらないんだけど……煽るみゆが悪いんだよ」
「えっ……え……? もう十分したでしょ!」
「ごめん」

 そう言って唇が重なる。そのまままた当たり前のように何度もキスを繰り返し、そのまま唇は、首筋に、鎖骨に、進んでいった。
 止めようと腕を突っぱねてみたけど、その腕もとられて、ベッドに縫い付けられ、その腕にもキスを落とされる。そうされているうちに、また自分の身体も反応しだす。


(これ、際限ないですけどーーーー⁉)


 泣きそうになった私の顔を見て、嬉しそうに笑った健人さんは、

「重い愛情、まだまだ受け取ってもらうから覚悟してて」

と言って、また全身にキスを落としはじめたのだった。



―――それから少しあと、双子の男の子の妊娠が発覚するのだけど……。
それはまた、別のお話……。


<END>

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