57 / 57
番外編:子どもができても先輩の愛はいろいろと重すぎる
19-4
しおりを挟むゆっくりと唇が重なる。
あ、やっぱりこの人のこと好きだなぁって思ったら、離れかけた唇に自分からキスをしていた。それを見て、健人さんが嬉しそうに笑って、私もまた微笑む。
―――幸せ。私も幸せだよ。これからもっと幸せになる気がしてる。
そう思ったとき、
「さっき一樹の家を出る時に、『今日はみゆとゆっくり愛し合いたいし、迎えが少し遅くなるかも』って言ったら、『あかりは泊まっていけばいいよ、そのために準備もしてるし、泊まっていってくれた方が嬉しいし』って言ってたよ? 二人とも」
と健人さんが言った。
その言葉の意味を一瞬飲み込めず、飲み込めたところで意味が分からず、やっと意味が分かったところで私は顔を青くした。
「ちょ、待って。二人って……まさか……」
とつぶやくと、
「一樹と父」
と当たり前のように健人さんが笑う。
「……え」
ちょ、待って……。
そういえば見送られた時、一樹さんとお義父さんに、『仲良くね』と言われたけど、あの意味が今、明確にわかった。
「なんてこと言ってくれてんだぁあああああーーーー!」
「え? だって本当のことじゃん」
「そうでも!」
泣きそう! いや、泣いてる。
ありえない! どうしてこの人は、こんなにデリカシーがないのだろう。
「もう二人に顔が合わせられない……!」
「何言ってるの。大丈夫だって」
ふふ、と笑って健人さんが私を抱きしめる腕に力を籠める。
「久しぶりに朝までこうしてられるね」
「ちょっと待て。私、怒ってるの」
「怒ってても何してても、もう待たないよ」
そう言って、健人さんの唇が重なる。くちゅ、と舌が口内に当たり前のように差し入れられると、条件反射のように身体が熱くなった。
泣きそうになって目の前の健人さんを見つめると、健人さんは熱い瞳で私の目を捉えた。
「今日は朝までいっぱい愛を注がせてね」
そう言って、健人さんは心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
そんな健人さんの顔を見て、私は諦めて重い愛を受け取る覚悟を決めた。
その日、夢を見た。
部活の帰り、二人一緒に夜道を歩いていた夢。
あの日からずいぶん経った。
あの日からずっと、私の心はこの人に捕らわれたままだ。
再会した時も、とんでもない告白を聞いた時も、
初めての夜も、結婚した時も、出産した時も……。
―――ずっと、ずっと……。
まだ明るくなる前の早朝、起きたら目の前に愛しい顔があった。
「……ん、先輩?」
寝ぼけて、呟くと、ふふ、と健人さんは嬉しそうに笑う。
「久しぶりに『先輩』って呼ばれたかも」
そう言って抱きしめられる。子どもができてから何度も訓練され、私は『先輩』を『健人さん』と名前で呼べるようになったのだ。呼び慣れてくると、次は先輩、とは呼ばなくなっていた。
そんなことを思って目線を落とすと、健人さんの裸の胸板が目の前に来て、やけに恥ずかしくなってしまい目線をそらした。
「みゆ? もしかしてまだ恥ずかしがってるの? 昨日の夜もさ何度も顔隠すし。それ見たらまた興奮しちゃったけど」
「わぁああああああ! もう、やめて! やめてぇ!」
泣きそうな私の頬にキスを落として、次は唇に軽く触れるだけのキスを繰り返す。
そしてまだ、ぎゅう、と抱きしめられた。
「……幸せだな」
健人さんが心の底からつぶやいたような言葉がやけに胸に染みた。
そのまま私の髪をなで、健人さんは言う。
「あかり迎えにいったら、そのままみんなで水族館でも行こっか?」
「はい、いいですね」
「じゃ、お弁当作ろうかな」
「じゃあ、私おにぎり作ります」
「俺は卵焼きだね」
「そういえば健人さんの作る卵焼き、お父さんと同じ味です」
「柊家秘伝の作り方教わったから」
「秘伝……そういえばそんなことお父さんが言っていたような……」
私が何度言っても、父はちょっと甘い卵焼きを作っていた。
今は同じものを健人さんが作ってくれている。
「あれ、昔、みゆのお母さんが作ってくれてたみたいだよ。お父さん、そのレシピ見て作ってたんだって」
「え……」
秘伝ってそういうことか……。そんなの初めて聞いた。
「じゃあ、私に作り方教えてくださいよ! 私も作れるようになりたい!」
「だーめ」
健人さんはそう言うと続ける。「お父さんの代わりにみゆに愛情を注ぐの、俺の役割って決まってるから教えない」
そう言われて言葉に詰まる。
この人はいつだって、私に愛情を注いでくれる。重い重い愛情を……。
それを私はいつの間にか、重く感じなくなってた。
あかりの『普通』が変わってるって言ってたくせに、私の『普通』だって変わってきていたのかもしれない。
でもそれはそれでいい気がして、私は抱きしめてくれている健人さんの背中に腕を回した。
「みゆ?」
「健人さんが私を愛してくれて嬉しい、です」
そう言って、やっぱりちょっと恥ずかしくなって、そのまま顔が見られないように、健人さんの胸に顔をうずめた。
すると、突然、視界が反転する。
目の前に健人さんと寝室の天井が見えた。
「それ、ほんとやばい。また止まらないんだけど……煽るみゆが悪いんだよ」
「えっ……え……? もう十分したでしょ!」
「ごめん」
そう言って唇が重なる。そのまままた当たり前のように何度もキスを繰り返し、そのまま唇は、首筋に、鎖骨に、進んでいった。
止めようと腕を突っぱねてみたけど、その腕もとられて、ベッドに縫い付けられ、その腕にもキスを落とされる。そうされているうちに、また自分の身体も反応しだす。
(これ、際限ないですけどーーーー⁉)
泣きそうになった私の顔を見て、嬉しそうに笑った健人さんは、
「重い愛情、まだまだ受け取ってもらうから覚悟してて」
と言って、また全身にキスを落としはじめたのだった。
―――それから少しあと、双子の男の子の妊娠が発覚するのだけど……。
それはまた、別のお話……。
<END>
22
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる