羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

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番外編:子どもができても先輩の愛はいろいろと重すぎる

19-3

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 家に戻ると、コーヒーを淹れ、健人さんに渡す。

「二人きりの日って久しぶりだね。あかりがいないのはちょっと寂しいけど、みゆと二人でゆっくりできるのも嬉しい」

 健人さんがそう言って、まぶしいイケメンな笑顔で笑った。
 後になって気付いたのだが、この人は年齢を重ねるに従って、どんどんイケメン度が増していく恐ろしさを秘めていた。よく考えたら、お父さんもイケオジだもんなぁ……。

 神様は一人にいろいろ与えすぎだ。そんなことを思う。


(く……、でも、そんなまぶしい笑顔に誤魔化されないんだから……!)


 私は唇を噛むと、息を吸って話し始めた。


「あかりって、この環境が『普通』だって思ってるのが困るの」
 私が言うと、健人さんはきょとんとした表情で、
「え? どういうこと? 普通じゃん」
と言いだした。

 どこからどう見たらそうなるの……と思いながら、私は健人さんを睨む。

「まず、健人さんが過保護でしょ」
「普通でしょ」
「まだ私にキスしまくるし。あかりの前でも普通にキスするの良くないと思う」
「それも普通だよね」

(……普通の次元が違う)


 そう思ったとき、私は一番問題だと思った最近の出来事を話しだした。

「SPだってさ3人でも多いのに、4人目、本場のSPって……多すぎませんか? 異色だしまた目立ちますよ。私のSPも入れたら7人ですよ?」
「みゆ、忘れたの? 一時期10人いたじゃん」
「そこを基準にされると困るんですけど……」

 確かに一時期、私には10人のSPがいた。
 健人さんは本当に意味が分からないように首を傾げる。私は息をついて話し出した。

「この前、公園でお友達と遊んでたとき……あかりが無理矢理誘って、SPの三人巻き込んだ鬼ごっこが始まったんです」
「まったくかわいいよね、あかりって」

(これ、微笑ましい話じゃないですけど……)

 そう思いながら続ける。

「基本的にうちの事情知ってる人ばっかりだったから見慣れてるけど、たまたま通りがかった人がびっくりして通報しそうになったんですよ⁉ それ必死に止めました」

 私が言うと、健人さんは少し戸惑ったような顔になる。
 世間と自分の『普通』はズレてるって、そろそろ自覚してくれないと困る。

 私は続けた。「仕方ないから全員私服にしてもらったら、次は『どなたが旦那さんですか』って聞かれるし」

 まぁ、これはいいんだけど、と言おうとしたら、眉を寄せた健人さんは、

「それは困るね」
と低い声で言った。

「やっとわかってくれました⁉ じゃ、もうSPはナシで……」
「みゆが外でいちゃいちゃしたら怒るから遠慮してたけど、もっと俺が外でもくっついておかないとだめだね」

 その決意したような声に、
「……ちがう」
 私は思わずつぶやいた。


「SPだけじゃなくて、一樹さんと健人さんのお父さんが甘やかしてとんでもない値段の服とかお土産買うでしょ! あれ、あかりが普通だと思って受け入れてるのも心配です!」
「あの人達は金に糸目つけないしね」
「この前なんて、3歳の誕生日プレゼント、マンション一棟にする? とか言われましたよ。絶対いらないです、って言っておいたけど、あのパターン、マンション持ってきそうな気がします。下手したら建設しますよ⁉」
「まぁ、仕方ないよね。もらっておけばいいじゃん。あかりがかわいすぎるんだと思う」
「それだけが理由にならないと思いますけど」

 私がつぶやくと、健人さんは反撃のように、

「でもみゆのお父さんもさ」

と口を開いた。「みゆの実家で、『この人、酷いねぇ……』ってあかりがニュースで見て泣いた容疑者、3日後に検挙してなかった?」

「日本が平和になるのはいいことじゃないですか」
「警視庁だけでなく交番とかいろんなとこでお父さんがあかりの写真見せまくってるから、道行く警官まであかりのこと知ってるし。よくあかりと歩いてると敬礼されるよ?」
「防犯になるしいいじゃないですか」

「……みゆって、自分のお父さんには甘くない?」
「そんなことないです」

 私が言うと、健人さんは、

「そもそもさ、子どもが1人だから愛情が分散しないんじゃないかな?」
と言い出した。
 その言葉に、背中がヒヤリと冷える。


「……えぇっと」
「あかり産んでから、次はもう少しあけたいって、なかなか前向きになってくれないじゃん」
「それは……」

 今、それを突かれると痛い。
 私はあかりを出産してから、次の子が欲しいと言う健人さんにずっと待ったをかけているのだ。それには私なりに、いろいろと理由がある。


「いまどき一人でも普通じゃないですか? 私、もともと一人っ子だし……」
「また『普通』って言ってる」
「子育てが大変って言うのもあります。思ってた以上でした」

 人一人育てるのは想像以上に大変だ。それは、子どもを産むまでわかっているようでわかっていなかった。
 一つの命が家庭に増えるのは、喜ばしい反面、責任も負担ものしかかる。


 健人さんは、
「でも、俺はそれを二人で経験できて良かったと思った。みゆの方の負担が大きかったと思うから無理は言えないけど」
と言う。

 私はそれを聞いて首を横に振った。
 もちろん私も大変だった。でも……。

「そういうことじゃないの」
「え?」
 私は健人さんを見つめると、
「健人さん、無理してたでしょ。ずっと」
とはっきり言う。

「……どういう意味?」


 恵まれた環境のクセに甘ったれの私は、何度も泣くあかりの夜中の授乳が辛くて泣いたことがある。そのとき、あかりは昼間でもほんとうによく泣いていて、その泣き声にイライラしたのも事実だ。
 その時、健人さんは、『あかりが哺乳瓶でも飲めるようにしようよ。俺もさ、あかりにミルクあげてみたいしさ』と笑った。

 色々な情報を見て、母乳が出るなら絶対に100%授乳しなきゃいけない、と思い悩んでいた私をいとも簡単に説得して、まだ煮え切らない私に、『お願い一回だけでもいいからあげてみたいんだよ』と何度も言ってきた。

 あれが転換期となり、あかりはミルクも飲めるようになって、私以外の人があかりを見ておける時間も長くなった。そして私は眠るときはしっかりと眠れるようになった。
 すると、不思議とあかりの泣き声に、イライラすることもなくなっていたのだ。


 でも、あのとき、次に心配になったのは健人さんのことだった。
 健人さんは、あかりのことも私のこともずっとフォローしてくれていた。

「健人さん、あかりが夜泣きひどかった時も、夜は見てくれて、休日もずっと見てくれてましたよね。仕事もあるのに……あの時、健人さんの身体も心配でした」

 そう言う私に健人さんは少し悩んだ顔をして、それから優しい笑顔で笑う。

「でも俺が望んだんだよ? 大変だったけど、幸せだったし、できればもう一度体験したいって思う」
「……なんで」

 するとリビングにある多くの家族写真に健人さんは目線を移した。

「あかり、みゆに似てるよね。俺にもちょっと似てる」

 そう言って続けた。「俺たちさ、二人とも母親亡くしてるでしょ。俺は父とも長く一緒にいなかった。だからこうやって家族で、全員で過ごせるの、嬉しいんだ。それにあかりが他の家族もつないでくれて、前より俺自身、兄さんや父さんのこと大事な家族だって思えてる」


 私は言葉に詰まった。言ってることが、すごくわかるから。
 私もそんな風に思ってた。

 健人さんは私をぎゅう、と抱きしめると、

「二人の時ももちろん幸せだったよ。でも、あかりいたらもっと幸せでさ。もう一人いたらどうなるのかなって、想像しただけでもっともっと幸せになる」

と笑う。「まぁ、もちろん、直接みゆを感じたいって下心もあるけど」

 その言葉に、私は泣きそうになって思わず身体を固くした。



「ね? みゆ」
そんな蕩けるような優しい顔で私のこと見ないでよ。
私はいつだって、結局絆されちゃうんだから……。

「……健人さんがいいなら」
 私は思わず言っていた。

「やったぁ!」
 健人さんはガッツポーズのあと、笑う。
 私もそれを見て、思わず笑っていた。

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