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『話がある。放課後屋上に来て』

青砥から連絡が来たのは、僕がトイレで泣いている時だった。
僕がリンチされたのをどこかで知って、心配してくれてるのかもしれない。
なんて淡い期待を抱きながら体の痛みに耐えて放課後になるのを待った。

屋上の扉を開くと、青砥が先に待っていた。

「千景。和樹を虐めているって聞いたけど」
「っ」

虐めてない。そう言おうとした言葉は、口から音に乗っては出なかった。
そうだ、僕今声出ないんだった。
急いでスマホを取り出して、文を打つ。

『ごめん。今声が出ないから、これで話すね。僕は和樹くんと話したこともないんだ。だから虐めてないよ』

青砥は渋い顔でその文面を読んだ。2年も付き合ったんだから僕は青砥が信じてくれると、疑わなかった。

「あのさ。和樹が言ってたんだよ。千景にいじめられてるって」

その声は、少しも僕を信じていなかった。

『僕は、本当に虐めてなんかない。信じてよ』
「その声が出ないってのもさ、俺に構ってもらうための嘘だろ? いいよそう言うの」
『これは、さっき殴られて叫んでたら出なくなって』
「いいって。千景、どこかで聞いたんでしょ? 俺と和樹が付き合うことになったきっかけ」

青砥の苛立った言い方に僕は打ちひしがれた。
文面にせずに、分からないと首を振った。

「だから、そう言うのもういいって。和樹はそんな嘘なんかじゃなくて、本当に病気なんだ。1年持つか分からないって心臓の病気。可哀想だろ?」

ドクリと心臓が跳ねた。
それじゃあ僕と同じじゃないか。
和樹もそうだったの?

「和樹が俺のことが好きだから1年でいいから思い出として付き合って欲しいって。だから俺は和樹と付き合うことにしたんだ。千景は元気だから大丈夫でしょ? 1年くらい我慢できるでしょ? 1年したら戻ってきてあげるから虐めなんてするなよ。ね?」

青砥の言っていることが理解できなかった。
青砥は誰にだって優しいけど、その優しさはきっと青砥にとってより“可哀想な子”に対して働くんだ。今までの僕に対する優しさだって全部僕が“可哀想な子”だったからだ。なんだ。そうだったのか。好きだの愛してるだのも全部嘘っぱちだったんだ。
だったら僕は今のままでいい。

青砥に“可哀想な子”だから大切にされるなら、今のままでいい。
なんだ。そうか。
僕はこの世に未練なんか残して行きたくないけど、僕が死んで誰も悲しむ人がいないことを、素直に喜んだりはできない。
自分が死ぬときに笑って見送って欲しいって、そう言えるのは悲しんでくれる人がいる人だけの特権だ。
きっと僕がこんな性格なことをみんな見破っていたんだ。
だから僕は誰からも愛されなかったんだ。

黒い感情が湧き上がってくる。
僕は世界が憎い。
誰も僕を愛さない、そんなこの世界が憎い。

僕は、愛されたい。死を惜しまれたい。僕はひどく傲慢だ。
笑って見送って欲しいなんて絶対に言えない。
僕は世界が憎いから、だから、いろいろな人に愛される努力をしようと思った。
沢山の人に愛されて、それで死ぬんだ。
きっとみんな辛い。悲しい。
そうして、僕はやっとみんなの心に残るんだよ。


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