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「僕のことを触ることもできないのに、どうやって付き合うって言うの?」
「それ、は。千景がそのアルファに別れを告げればいいだろ。時間が経てば、マーキングも取れる。その間、例え千景を触れなくても俺がそばにいてやるから」
「そっか。でもそれは無理だなぁ。だって僕は、僕を信じてくれない人なんかと付き合いたくないんだから」
「は……? 俺は千景を信じてるよ?」
本気でそう思っているなら、青砥との考え方の違いに、寒気がする。だから僕は静かに口を開いた。
「そうかな。僕は和樹と話したことなんてないと言ったのに、青砥は僕が和樹に嫉妬していじめてるなんて根も葉もない噂を信じて、僕がリンチされて、やめてって言ってもやめてもらえなくて、声が枯れるほど叫んで、体もボロボロで声が出なくなってた僕に、声が出ないなんてそんな嘘はやめてくれって。青砥はそう言ったんだよ」
青砥は初めて知ったみたいな驚愕の顔でうろたえた。
「それは……でも」
「でも、何? 和樹は病気だから仕方がないって? 1年の余命の和樹より、声が出ないなんて軽い症状なんだから我慢しろって?」
イライラする。
だって、僕はいつだって我慢してきた。
今、気がついたけれど、これが俗に言う反抗期と言うやつなのかもしれない。なんて、自分の怒りをどこか冷静に感じ取っていた。
「千景……」
「青砥はただ、僕と付き合ってた時も、和樹と付き合ってる今も、“可哀想な子と付き合ってる俺”って状況に酔ってるだけなんじゃないの?」
パチン!!
頬を叩かれ僕の言葉は止まった。
頬は痛かったけれど、僕の頬よりも僕に触れた青砥の手の方が悲惨なほど腫れていた。
「見損なったよ、千景。1年経ってもよりなんて戻してやらないからな」
「……そう」
青砥は腫れた手を押さえながら、顔を真っ赤にさせて教室を出て行った。
教室の入り口には和樹がいて、慌てて青砥の後を追って行った。
「千景君、大丈夫?」
クラスメイトの1人が近寄ってきて、僕の頬に濡れたタオルを当ててくれた。
「ありがとう。でも、僕を触れるんだ?」
「ちょっとピリピリするけど、俺はベータだし、千景君を恋愛的な意味で好きなわけじゃないから威嚇の範疇じゃないのかもね」
「そんなもんなのか」
「俺にも分からないけど、俺が触れるってことはそうかなって」
「ふーん。でも、ありがとう」
近くで見ていた人たちは、青砥の方がおかしかったとなったみたいだった。
青砥の評判はガタ落ちで、和樹は人気のなくなった青砥から興味がなくなったようだった。
いつからか2人が一緒にいる光景を目にしなくなったし、和樹が必死で行っていた僕への嫌がらせも鳴りを潜めていた。
「千景君。これ、読んだ?」
目の前には小説が差し出されていた。
「え……。な、なんで?」
差し出された小説があまりにも見覚えのあるカバーすぎて久々にどもりが出た。
「俺の好きな小説なんだけど面白いからまだ読んでなかったら読んで欲しくて、持ってきたんだ」
「えっと、読んだことあるよ。これ好きなんだ?」
「うん。俺、小説とかあんま読まないんだけど、この作者のだけはなんか好きなんだよな」
「へー」
胸がじんわりと暖かくなる。
そうか。
好きな人、いるのか。
僕がどこにも逃げ場がない時に、現実逃避みたいに書いていた小説。
出版してくれるという奇特な編集者さんのおかげで、世に出ることになった僕の小説たちの中の1冊が、こんなに身近なところにいる人に読まれていたんだ。
それも面白い、好きだと
恥ずかしいけれど、嬉しい。
存在を認めてもらえたみたいで、嬉しい。
「どこが一番好きだった?」
同じ小説を読んでいるという人は、確かに高校生じゃ珍しいかもしれない。
目の前のクラスメイトは共通の趣味を持つ話し相手を見つけたのがよほど嬉しいのか嬉々とした目で問いかけてきた。
「え……。え…っと、その。笹原は?」
どうにも答えるのが気恥ずかしくてそう聞き返すと、笹原は目を輝かせた。
「千景君、俺の名前覚えててくれたんだ!」
「あ、うん。まぁ、一応」
「嬉しいよ! ありがとう。それでね、俺はこの冒頭の部分が一番好きなんだけど、86ページのこことリンクしてて、好きなんだ」
「へ、へー」
「あ、もしかして気がつかなかった? じゃあ、ここも、ここは伏線でーーーー」
その後も自分の小説について熱く語られて、僕は精神をすり減らすことになった。
「それ、は。千景がそのアルファに別れを告げればいいだろ。時間が経てば、マーキングも取れる。その間、例え千景を触れなくても俺がそばにいてやるから」
「そっか。でもそれは無理だなぁ。だって僕は、僕を信じてくれない人なんかと付き合いたくないんだから」
「は……? 俺は千景を信じてるよ?」
本気でそう思っているなら、青砥との考え方の違いに、寒気がする。だから僕は静かに口を開いた。
「そうかな。僕は和樹と話したことなんてないと言ったのに、青砥は僕が和樹に嫉妬していじめてるなんて根も葉もない噂を信じて、僕がリンチされて、やめてって言ってもやめてもらえなくて、声が枯れるほど叫んで、体もボロボロで声が出なくなってた僕に、声が出ないなんてそんな嘘はやめてくれって。青砥はそう言ったんだよ」
青砥は初めて知ったみたいな驚愕の顔でうろたえた。
「それは……でも」
「でも、何? 和樹は病気だから仕方がないって? 1年の余命の和樹より、声が出ないなんて軽い症状なんだから我慢しろって?」
イライラする。
だって、僕はいつだって我慢してきた。
今、気がついたけれど、これが俗に言う反抗期と言うやつなのかもしれない。なんて、自分の怒りをどこか冷静に感じ取っていた。
「千景……」
「青砥はただ、僕と付き合ってた時も、和樹と付き合ってる今も、“可哀想な子と付き合ってる俺”って状況に酔ってるだけなんじゃないの?」
パチン!!
頬を叩かれ僕の言葉は止まった。
頬は痛かったけれど、僕の頬よりも僕に触れた青砥の手の方が悲惨なほど腫れていた。
「見損なったよ、千景。1年経ってもよりなんて戻してやらないからな」
「……そう」
青砥は腫れた手を押さえながら、顔を真っ赤にさせて教室を出て行った。
教室の入り口には和樹がいて、慌てて青砥の後を追って行った。
「千景君、大丈夫?」
クラスメイトの1人が近寄ってきて、僕の頬に濡れたタオルを当ててくれた。
「ありがとう。でも、僕を触れるんだ?」
「ちょっとピリピリするけど、俺はベータだし、千景君を恋愛的な意味で好きなわけじゃないから威嚇の範疇じゃないのかもね」
「そんなもんなのか」
「俺にも分からないけど、俺が触れるってことはそうかなって」
「ふーん。でも、ありがとう」
近くで見ていた人たちは、青砥の方がおかしかったとなったみたいだった。
青砥の評判はガタ落ちで、和樹は人気のなくなった青砥から興味がなくなったようだった。
いつからか2人が一緒にいる光景を目にしなくなったし、和樹が必死で行っていた僕への嫌がらせも鳴りを潜めていた。
「千景君。これ、読んだ?」
目の前には小説が差し出されていた。
「え……。な、なんで?」
差し出された小説があまりにも見覚えのあるカバーすぎて久々にどもりが出た。
「俺の好きな小説なんだけど面白いからまだ読んでなかったら読んで欲しくて、持ってきたんだ」
「えっと、読んだことあるよ。これ好きなんだ?」
「うん。俺、小説とかあんま読まないんだけど、この作者のだけはなんか好きなんだよな」
「へー」
胸がじんわりと暖かくなる。
そうか。
好きな人、いるのか。
僕がどこにも逃げ場がない時に、現実逃避みたいに書いていた小説。
出版してくれるという奇特な編集者さんのおかげで、世に出ることになった僕の小説たちの中の1冊が、こんなに身近なところにいる人に読まれていたんだ。
それも面白い、好きだと
恥ずかしいけれど、嬉しい。
存在を認めてもらえたみたいで、嬉しい。
「どこが一番好きだった?」
同じ小説を読んでいるという人は、確かに高校生じゃ珍しいかもしれない。
目の前のクラスメイトは共通の趣味を持つ話し相手を見つけたのがよほど嬉しいのか嬉々とした目で問いかけてきた。
「え……。え…っと、その。笹原は?」
どうにも答えるのが気恥ずかしくてそう聞き返すと、笹原は目を輝かせた。
「千景君、俺の名前覚えててくれたんだ!」
「あ、うん。まぁ、一応」
「嬉しいよ! ありがとう。それでね、俺はこの冒頭の部分が一番好きなんだけど、86ページのこことリンクしてて、好きなんだ」
「へ、へー」
「あ、もしかして気がつかなかった? じゃあ、ここも、ここは伏線でーーーー」
その後も自分の小説について熱く語られて、僕は精神をすり減らすことになった。
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