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「笹原、お前、千景と仲良かったよな」
「うん。仲良くしてもらってたよ」

笹原に連絡を取ると、簡単に会ってもらえることになった。
目の前の笹原は何たらフラペチーノが入った容器を持ち、居心地悪そうにストローを噛んでいる。

「千景が最後に書いた本、読んだ?」
「ああ、もちろん。俺は千景君のことを知る前から、小説家の千景のファンだったから」

笹原は懐かしむようにそう言った。
もう4年も前の出来事だ。
いまだに悲しみを忘れられないのは俺だけなのかもしれない。

「そうか、これ、最後の小説だけ他のと雰囲気違うの気がついた?」

俺がそう聞くと、笹原は嬉しそうな顔をした。

「そう。千景くんはきっと見つけたんだよ。心安らげる場所を」

その言い様に俺はむかついた。

「心安らげる場所って、死ぬことがかよ」
「死ぬことがって言うか……まぁ、そうとも言うよね。この小説のカバーを取ると、メッセージが書かれているのには気がついた?」
「は? ……いや」

驚き、急いでカバーを外してみると確かにそこにはメッセージが印刷されていた。

『僕は最愛の人に会うために、もう行かなくちゃいけない』

ただそれだけ。
それは小説の中の一文を抜粋しただけの一言だった。
なんてことない一文だ。

「これが?」

素直にそう尋ねると、笹原はニヤリと笑った。

「千景くんはあの頃、余命宣告されていることを俺に教えてくれていたんだ」

ぴくりと体が震えて、そのことについて詳しく聞きたくなる。
けれど、話の腰をおることはしたく無かったので大人しくして笹原の話の続きを促した。

「……それで?」
「死ぬなんて話を随分と軽く言うものだから、俺は何でって聞いたんだ。そしたら、待っててくれる人がいるって……。千景くんは幸せそうな顔をしていたよ。そしてそれは、あの頃、千景くんにマーキングしていたアルファだって教えてくれた」
「待っててくれるって……あの化け物級のマーキングアルファは後を追うか先に逝ったってことかよ」
「千景くんが言ったことがどういう意味だったのかは今となっては分からないけど、それって、どちらだとしても、そのアルファは間違いなく千景くんのことを愛してるよね。君なんかよりずっと」
「っ」
「君も見たんでしょう? 千景くんは最後すごく穏やかな顔してたって、俺はあの時すぐには駆けつけられない状況だったけど、どんな顔してたとかは後から聞いた。きっと千景くんは今頃、あの世でそのアルファと仲良くやってるよ」

笹原はそう言って穏やかに笑った。
笹原のその考えが俺にも不思議としっくりきた。間違っていないように思えた。
故人を惜しむときに話すような、きっと天国で幸せにしてるよみたいな残された人への慰めなんかじゃなく、千景が本当にどこかで楽しそうにしている気がした。
その時、カフェの向かい側の道に、楽しそうに笑う千景とそれを微笑ましそうに見つめる銀髪の美丈夫が見えた気がした。一瞬だったし、見間違いの可能性が高いけれど、俺にはそれが見間違いには思えなかった。


千景は本当に最後まで1人で逝ってしまった。そうさせたのは、間違いなく俺だったと思っていた。けれど、笹原の言うことが正しいなら、千景は逝く時も一人では無かっただろう。
だからあんなに満ち足りた顔をしていたのだろう。
18歳の若すぎる死にしては、千景はあまりにも悔いのない表情をしていた。

嫌われているよりも、興味を持たれていないことの方が辛いなんてことを、俺は最後に千景に教えられた。
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