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俺はそれから自分自身が持っていた変なプライドと自信を全て失った。
自分が心の底から千景を愛していたことにも気がつかずに、傷つけることしかできなかったから。
千景と一緒に、いつか胸を張って仕事ができるようにと、目指した会社は出版社で、そのための大学にも合格していた。もうどれだけ頑張った所で千景に会えることなんてないと思うと、何に対してもやる気が出なかった。
「まだ落ち込んでるんだ?」
「和樹」
同じ大学に進んだ和樹に、そんなふうに馬鹿にされても俺は言い返すこともできなかった。
「和樹……。元気そうでよかったよ」
「そりゃあ元気だよ。僕は生まれてこの方風邪だって引いたことないし」
ニコニコと、大学生活をエンジョイしている雰囲気の和樹は、とても宣告された余命をすぎて生きている人間には見えない。
「……は?」
「あ、いや、嘘嘘。間違っちゃった」
和樹が自分の失言に気がついて、気まずげに目をそらした。
「もしかして、余命ってのも嘘だったのか」
「だ、だって、そう言ったら付き合ってくれると思ったんだもん。あの頃、青砥と付き合ってた千景は邪魔だったしさ、何とかして僕に振り向かせたかったんだ」
殊勝に話す様は、少し前の俺ならかわいそうに見えて、また騙されていたかもしれない。けれど、今の俺にはただ計算高い化けぎつねのようにしか見えなかった。
「お前……やっていいことと悪いことがあるのが分からないのか」
「もちろん分かってるよ。でも、僕がいくら適当なこと言ったって青砥がちゃんと断ってたら、君たちは付き合ったままだったんだから、悪いのは青砥でしょ?」
悪びれない様でそう言われ、グサグサと和樹の言葉が突き刺さる。
和樹の言う通りなのは間違いない。
俺がバカだったのが全て悪い。
けれど、目の前で開き直る和樹にイライラが抑えられなかった。
「……っ、くずやろう。いっときでもお前と付き合ってたなんて反吐が出る」
「それは僕だって同じだよ。君の評判がいいから付き合ったってのに、君にはまるでいいところなんてなかったんだから」
何も言い返すことはできなかった。
本当にそうだ。
俺は見かけだけ。
運良く容姿は人より良かった。人当たりも良くすれば自然と人は寄ってきた。
本当にそれだけだった。
けれど俺には何もいいところは無かったのに、千景は俺を好きだと言ってくれた。
俺といる時は楽しそうにしてくれた。
本当に何もかも、気がつくには遅すぎて、今更すぎて、辛かった。
大学4年間、俺はただ無気力に生きた。
勉強だけをして、根暗だとか気持ち悪いとか周りから言われても気にせずに過ごし、夢だった出版社に就職した。
ここまでずっと千景が最後に書いた本を読まずにきた。
俺に対する恨み辛みが、書いてあるんじゃないかって怖かった。
けれど、就職先が決まったのを機に、持て余した時間でそれをゆっくり読んでみることにした。
ぐっと引き込まれる世界観は、今までの作品と同じ。
けれど、今までの明るいのに、どこか物悲しい雰囲気は鳴りを潜め、明るく快活でハッピーで仕方ないというような内容だった。とても、俺のイメージする千景の晩年の作品とは思えないような作品だった。
自分が心の底から千景を愛していたことにも気がつかずに、傷つけることしかできなかったから。
千景と一緒に、いつか胸を張って仕事ができるようにと、目指した会社は出版社で、そのための大学にも合格していた。もうどれだけ頑張った所で千景に会えることなんてないと思うと、何に対してもやる気が出なかった。
「まだ落ち込んでるんだ?」
「和樹」
同じ大学に進んだ和樹に、そんなふうに馬鹿にされても俺は言い返すこともできなかった。
「和樹……。元気そうでよかったよ」
「そりゃあ元気だよ。僕は生まれてこの方風邪だって引いたことないし」
ニコニコと、大学生活をエンジョイしている雰囲気の和樹は、とても宣告された余命をすぎて生きている人間には見えない。
「……は?」
「あ、いや、嘘嘘。間違っちゃった」
和樹が自分の失言に気がついて、気まずげに目をそらした。
「もしかして、余命ってのも嘘だったのか」
「だ、だって、そう言ったら付き合ってくれると思ったんだもん。あの頃、青砥と付き合ってた千景は邪魔だったしさ、何とかして僕に振り向かせたかったんだ」
殊勝に話す様は、少し前の俺ならかわいそうに見えて、また騙されていたかもしれない。けれど、今の俺にはただ計算高い化けぎつねのようにしか見えなかった。
「お前……やっていいことと悪いことがあるのが分からないのか」
「もちろん分かってるよ。でも、僕がいくら適当なこと言ったって青砥がちゃんと断ってたら、君たちは付き合ったままだったんだから、悪いのは青砥でしょ?」
悪びれない様でそう言われ、グサグサと和樹の言葉が突き刺さる。
和樹の言う通りなのは間違いない。
俺がバカだったのが全て悪い。
けれど、目の前で開き直る和樹にイライラが抑えられなかった。
「……っ、くずやろう。いっときでもお前と付き合ってたなんて反吐が出る」
「それは僕だって同じだよ。君の評判がいいから付き合ったってのに、君にはまるでいいところなんてなかったんだから」
何も言い返すことはできなかった。
本当にそうだ。
俺は見かけだけ。
運良く容姿は人より良かった。人当たりも良くすれば自然と人は寄ってきた。
本当にそれだけだった。
けれど俺には何もいいところは無かったのに、千景は俺を好きだと言ってくれた。
俺といる時は楽しそうにしてくれた。
本当に何もかも、気がつくには遅すぎて、今更すぎて、辛かった。
大学4年間、俺はただ無気力に生きた。
勉強だけをして、根暗だとか気持ち悪いとか周りから言われても気にせずに過ごし、夢だった出版社に就職した。
ここまでずっと千景が最後に書いた本を読まずにきた。
俺に対する恨み辛みが、書いてあるんじゃないかって怖かった。
けれど、就職先が決まったのを機に、持て余した時間でそれをゆっくり読んでみることにした。
ぐっと引き込まれる世界観は、今までの作品と同じ。
けれど、今までの明るいのに、どこか物悲しい雰囲気は鳴りを潜め、明るく快活でハッピーで仕方ないというような内容だった。とても、俺のイメージする千景の晩年の作品とは思えないような作品だった。
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