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「ぁっ、ぁ……はぁ…んっ」

誰か女の子が僕の近くで喘いでいる。
浮上した意識の中で聞こえる声は艶っぽくて甘い。

「千景……千景……」

途切れ途切れに僕を呼ぶ声。
この声はフェルレントだ。

「ぁあっ!!」

目を開けるとフェルレントが赤い目を光らせて僕を揺さぶっていた。

「目が覚めたのかい? まだ、日が変わったばかりだ。もう少し眠っていても大丈夫だよ」
「ひっんんっ……ぁあっ」

先ほどまで日は高く登っていたはずのに、外を見れば真っ暗闇だった。
フェルレントの口調や声は優しいけれど、それでも昼間から日が変わる夜中まで一度も離してはくれていない。それどころか僕が気絶している間にラットに入りかけてしまっているようで、ギラついた目はどこか虚に見えた。

僕が気絶しても揺さぶり続けたり、押さえ込んで離さない様はいつもよりやや乱暴な仕草に感じるけどラットだと思えば自然だ。けれどフェルレントの意識はまだ残っているから、優しい口調と声のままで、それがアンバランスで異質に聞こえて少しだけ怖かった。

「私が……怖いかい?」

不安そうに、けれど優しい顔をして僕を見つめるフェルレントに僕は首を振った。
僕が怖いといえば、フェルレントはラットを起こしかけているくせに理性を総動員させて僕を解放するのだろう。
けれど。

「少しだけ……でも、フェルレントが相手だから、大丈夫だよ」

髪を掻き上げられ、額にキスをされて、それからそのキスは唇まで降りてきた。
顔を離して安心したように微笑むフェルレントは、その日ラットになることはなかった。

最後まで優しく丁寧に抱いてくれたけれど、開放してもらえたのは明け方だった。
2人で倒れ込むようにベットに沈んで、まるで蛇の交尾のように縺れ合って眠った。

昼前に目を覚ますと、フェルレントは僕をとろけるように甘い笑みで眺めていて、目が合うと幸せそうに目を細めた。心なしか肌艶もツルリとしている気がする。

「千景……おはよう。体は大丈夫?」
「おはよう。ちょっと腰はだるいけど大丈夫だよ」

出した声は少しかすれていたけれど、体は思ったほど辛くはなかった。

「そう。昨日はありがとうね。本当に最高のプレゼントだったよ」
「喜んでもらえたなら、僕も嬉しい」
「間違いなく今までで一番幸せな誕生日だったよ。今日はゆっくり過ごそうか。お昼を食べて、夕方になって千景が起き上がれるようだったら、庭でお茶をしよう」
「うん。ありがとう」

低く甘いフェルレントの声は、アレの時に僕の腰をゾクゾクさせるだけではなくて、こういう時は、安眠効果もあるのかもしれない。フェルレントが話すだけで心地よく微睡んだ。
人が永眠した時が仕事なわけだし、もしかしたら死神はみんなこんな魅惑的な声の持ち主なのかもしれない。

そっと抱き寄せられて、暖かいフェルレントの腕の中で二度寝をして幸せな惰眠を貪った。
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