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ネガティブモード
しおりを挟む家に入ると春樹くんがリビングでくつろいでいた。
「終わったー? なんか助けてくれちゃってありがとう。でも君が彼らに連れて行かれて犯されたらいいのにと思っちゃった……よ……」
春樹くんはテレビを見ながら話していたことで迅英さんがいることに気がついていなかったようだ。
「迅……、帰ってきてたんだぁ。俺、また襲われるって思って怖かった……」
春樹くんは目に涙を浮かべて迅英さんに訴えた。
すごいな。
と、感心してしまうほどの切り替えの速さに、だけど、テレビ見てくつろいでて、今更猫被り直すのは無理でしょと、呆れた。
「春樹、なぜここにいる」
「えー? だってそろそろ約束の時じゃん! 迅と早く結婚したくて来たんだよ」
「その話は無くなっただろう。もう別れようと告げたはずだ」
迅英さんが春樹くんに冷たくそう言った。
「迅英さん、それはあまりにも無責任なんじゃないですか。春樹くんはあなたの子を身篭っているんですよ」
「ちょ、ちょっと、お前、余計なこと言うなよな!」
なぜだか春樹くんが慌てている。
「身篭ってる? だとしたら少なくとも俺の子じゃないな。大体、菜月くんと結婚してから君には一度も会っていない」
は……? 一度も会ってない? そんなことありえないでしょう。
だって、海外に居たって言ってもご両親はこちらにいるはずだから、何回かは里帰りもしているはずだしその間にできた子なんじゃないの?
春樹くんは無言になった。
そこに追い討ちをかけるように迅英さんが話し出した。
「そもそも、菜月くんと離婚するまでは会わないでいようと言ったのは君だ。海外に三年間行くからそれまではと。だが、お前は海外になど行っていなかった。そうだろう。いろいろな知人からお前の目撃談が上がった」
「そんなのっ、嘘に決まってるだろ!? 何で俺じゃなく周りの奴らを信じるんだよ!」
「探偵を雇った」
「は?」
「お前の行方を調べさせた。お前は色々な男を渡り歩いて遊んでいた。αに関わらずβまでも手を出して、それで妊娠したから托卵にでも来たのか?」
「そんな……。俺のこと探偵に調べさせてまで愛してくれてたのか? 俺、嬉しいよ! 俺も、迅のこと愛してる!」
僕は2人の会話を黙って聞いていて春樹くんの話の通じなさが怖いと思った。
「それに、迅の奥さんは迅のこと愛していないんだし、迅と俺が一緒になったら全て丸く治るじゃん!」
「愛して、いない? そうかもな。だが俺はもう失敗したくない。もしも菜月くんが俺を愛していなかったとしたら、俺は菜月くんに愛されるよう努力するだけだ。菜月くんは俺の運命の番だからな」
え。迅英さんは気づいてくれたの?
僕の薬の効果はもう切れてたの?
「今更無理だよ、だって奥さんの記入済みの離婚届、俺預かってるもん。こんなもの書いておいたってことはもう迅は愛されてないって証拠だよ」
「だから、今愛されてなくても構わない。俺が菜月くんを愛しているんだから」
愛してる……?
僕を……?
運命の番だから……?
迅英さんは僕のことを運命の番だと気がついたから愛してるんだ。
僕が運命の番じゃ無かったら、僕のことなどどうでもいいまま?
迅英さんと一緒に暮らしてきて、最近優しくなって、仲良くなって。
それは迅英さんのラットの事件の償いだと思っていたけれど、そうじゃ無かったのか。
僕は迅英さんのことを運命の番など関係なく好きになってしまっていた。
だけど、迅英さんは運命に惑わされているだけかもしれない。
僕があのままあの薬を飲み続けていれば、迅英さんは僕が運命の番だと気がつくことはなくて、そのまま春樹くんと結婚していたのかもしれない。
迅英さんが僕のことを好きだと言ってくれるのは嬉しいけど、僕はこのままここにいていいんだろうか。
僕がここから離れれば、迅英さんと春樹くんは元の通り全てうまくいくんじゃないだろうか。
分かってる。
僕の考え方は卑屈すぎる。
きっと僕の考えを迅英さんに言ったらめんどくさいと思われるんだろう。
だけど、そう考え出したら止まらなかった。
この家で僕だけが邪魔者な気がした。
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