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38:ジョーダンの企み
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次の日、俺はなんとか終わらせた宿題を手にジョーダンの授業を受けていた。
部屋の外からは、なぜかいつもよりも騒がしい声が行き交っている。
けれどもこの部屋の中はシンと静まり返っていた。
「……まさか終わらせるとは」
俺が渡した全て終わらせた宿題の山を見たジョーダンは、わずかに悔しそうな顔をしてそう呟いた。
「ちょっと頑張ってみました」
「なるほど……まぁ、よろしいでしょう。国を上げて保護されるオメガ男性の割には、皇太子妃としてのご自覚があるようで何よりでございます」
割にはだって? めっちゃバカにされてるな。俺を見下ろす冷たい目は2回目にしてすでに初日よりもだいぶ感じが悪い。
確かに俺はドマゾだが、興奮するタイプの暴言と、萎えるタイプの暴言がある。今のははっきり言って萎えるタイプの暴言だ。
「……そうだ。バトラル様は、殿下と大変仲がよろしいようで結構ですが、番関係はまだ結ばれておりませんよね?」
「え?」
「婚姻前の番契約は、皇族貴族の恥となりますから、皇太子妃ともあろう貴方様がしてはいけませんよ」
「も、もちろん。弁えてます」
勢いで慌てて否定したが、俺は内心動揺していた。
えぇ? そうなの? バイロンとクライブのやつ、俺が番契約の儀式について教えられてないのを良いことに勝手に。全く。まぁちょっと意思に反してみたいなのは興奮するが、ちょっとだけ特殊な性癖の俺が相手じゃなきゃ立派な犯罪だ。
というかジョーダンもジョーダンだよな。高位貴族のアルファだから多分番契約の儀式について教わっているはずだ。それなら、俺の意思で番契約がどうこうできるはずもないことを知っているはずなのに。確かに、俺が少しでも番契約を望む気持ちがなければ、番になることは出来ないと言っていたが、それでもさすがに婚約者相手なら、心の中で番関係を拒否していたりはしないだろうから向こうが契約の針を仕込んできた時点で番になってしまうじゃないか。それで俺が警告されるのはちょっと理不尽なんじゃないの。
コトリと目の前に紅茶が置かれ、俺の思考はそこで止まった。
「ありがとう」
紅茶を入れてくれた侍従は、新人なのか見たことのない男性だ。彼は無表情でペコリとお辞儀して部屋の隅に戻ってしまった。侍従が待機する時の定位置だ。
「これはわざわざ西の国から取り寄せた茶葉でして。今回、宿題を頑張ってこられたバトラル様を少しでも労うことができればと、入れさせたのですよ」
ジョーダンの前にも置かれているカップは、同じ色の茶が入っていて、彼はそれをスッと口に入れた。
「そうなんですか。それは、ありがとうございます」
付き合いで一口飲むだけにしようと口をつけ、一口口に入れると、ピリリとした刺激の後に一瞬で体に力が入らなくなった。
「……ぇ」
なんだ、この感覚。何が起こった?
本当に指の先まで全くと言っていいほど力が入らない。
あ、そうだ……。西の国といえば戦争が始まるかもしれない相手だってバイロンが言っていた。
ジョーダンはどうしてそんな場所から茶葉を取り寄せられた?
ジョーダンは西の国と通じている?
くそ。気をつけていれば分かったはずなのに。
バタっと机に突っ伏す形になった俺を、ジョーダンがクスクスと笑う声が聞こえる。
「ふ、くく。それ、よく効くでしょう。大丈夫、体に力が入らないのと、声が出ないこと以外何も問題のない薬です。本当、バトラル様はちょろいですね。本当、上手く行きすぎて笑いが止まりませんよ……さあ、運びなさい」
「ぅ……ぁ」
口からはまともな声は出ず、俺はされるがまま先ほどの無表情の侍従に担がれた。
「ほら。バトラル様の筆跡を真似させて作らせた置き手紙ですよ。これをこちらに置いておきます」
ジョーダンは弾むような声でそう告げた。
部屋の外からは、なぜかいつもよりも騒がしい声が行き交っている。
けれどもこの部屋の中はシンと静まり返っていた。
「……まさか終わらせるとは」
俺が渡した全て終わらせた宿題の山を見たジョーダンは、わずかに悔しそうな顔をしてそう呟いた。
「ちょっと頑張ってみました」
「なるほど……まぁ、よろしいでしょう。国を上げて保護されるオメガ男性の割には、皇太子妃としてのご自覚があるようで何よりでございます」
割にはだって? めっちゃバカにされてるな。俺を見下ろす冷たい目は2回目にしてすでに初日よりもだいぶ感じが悪い。
確かに俺はドマゾだが、興奮するタイプの暴言と、萎えるタイプの暴言がある。今のははっきり言って萎えるタイプの暴言だ。
「……そうだ。バトラル様は、殿下と大変仲がよろしいようで結構ですが、番関係はまだ結ばれておりませんよね?」
「え?」
「婚姻前の番契約は、皇族貴族の恥となりますから、皇太子妃ともあろう貴方様がしてはいけませんよ」
「も、もちろん。弁えてます」
勢いで慌てて否定したが、俺は内心動揺していた。
えぇ? そうなの? バイロンとクライブのやつ、俺が番契約の儀式について教えられてないのを良いことに勝手に。全く。まぁちょっと意思に反してみたいなのは興奮するが、ちょっとだけ特殊な性癖の俺が相手じゃなきゃ立派な犯罪だ。
というかジョーダンもジョーダンだよな。高位貴族のアルファだから多分番契約の儀式について教わっているはずだ。それなら、俺の意思で番契約がどうこうできるはずもないことを知っているはずなのに。確かに、俺が少しでも番契約を望む気持ちがなければ、番になることは出来ないと言っていたが、それでもさすがに婚約者相手なら、心の中で番関係を拒否していたりはしないだろうから向こうが契約の針を仕込んできた時点で番になってしまうじゃないか。それで俺が警告されるのはちょっと理不尽なんじゃないの。
コトリと目の前に紅茶が置かれ、俺の思考はそこで止まった。
「ありがとう」
紅茶を入れてくれた侍従は、新人なのか見たことのない男性だ。彼は無表情でペコリとお辞儀して部屋の隅に戻ってしまった。侍従が待機する時の定位置だ。
「これはわざわざ西の国から取り寄せた茶葉でして。今回、宿題を頑張ってこられたバトラル様を少しでも労うことができればと、入れさせたのですよ」
ジョーダンの前にも置かれているカップは、同じ色の茶が入っていて、彼はそれをスッと口に入れた。
「そうなんですか。それは、ありがとうございます」
付き合いで一口飲むだけにしようと口をつけ、一口口に入れると、ピリリとした刺激の後に一瞬で体に力が入らなくなった。
「……ぇ」
なんだ、この感覚。何が起こった?
本当に指の先まで全くと言っていいほど力が入らない。
あ、そうだ……。西の国といえば戦争が始まるかもしれない相手だってバイロンが言っていた。
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「ぅ……ぁ」
口からはまともな声は出ず、俺はされるがまま先ほどの無表情の侍従に担がれた。
「ほら。バトラル様の筆跡を真似させて作らせた置き手紙ですよ。これをこちらに置いておきます」
ジョーダンは弾むような声でそう告げた。
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