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遊園地
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「忠次、デート行かねぇ?」
金曜日の夜、忠次の部屋で2人でゆっくりしている時にそう言ってみた。
「で、デートですか。行きたいです」
「よっしゃ、じゃあ明日行こうぜ、どっか行きたいとことかある?」
「特にすぐに思いつくところはありませんが」
うーんと考えながら忠次がそう言った。
「じゃあさ俺、遊園地行きたい」
「遊園地ですか。いいですね」
忠次も笑って答えてくれたので遊園地に行くことになった。
高校生になって恥ずかしいと思う以前に、俺はそういう場所に連れて行ってもらった記憶がない。だから一度行って見たいと思ってたんだ。
「これも乗ってみたいし、これも!」
俺が遊園地のサイトを開いて、アトラクションを指差しながら言うと、忠次も毎回いいですね良いですねと言ってくれる。
プルルル
俺に電話がかかってきたので見てみると忠次の親父さんだった。
最近は忠次のご両親ともたまにテレビ電話で近況報告をしている。
「あ、凛太郎明日の事は」
何か言いかけた忠次よりも先に俺が電話をとってしまって、画面の向こう側からテンションの高い忠次の親父さんが映った。
『忠次~! 元気にしてるか? ゴホン、あー……凛太郎くんも』
「元気ですよ、親父さんは?」
『私は常に元気だ! 君に心配されなくともな! 忠次もちゃんと元気か?』
「元気ですよ、父さん」
「そうですよ、忠次は明日俺と遊園地行くんですから」
「あ、ちょっとま」
忠次が焦ったように横から俺を止めようとした。
『遊園地……?』
親父さんが聞き返す。
だが俺はただならぬ忠次の様子に黙ってしまった。
「父さん、遊園地は嘘です。じゃあまた!」
そう言って忠次が電話を切ってしまった。
「どうしたの忠次」
「あ……いや、ちょっと昔のことを思い出してしまって。でも私ももう子供じゃないし、父さんも昔ほど過保護じゃないだろうし……」
「何の話だよ?」
「私が子供の頃、人混みで具合が悪くなってしまったことがあって。それから遊園地の時は貸し切りにしようとするんです」
「まじ? 親父さんすげぇな。まぁでも大丈夫だよ。明日の貸し切りなんてさすがに急すぎて無理だろ?」
俺がそう言うと、しばらく考え込んだ忠次も、それもそうかとうなずいて笑った。
翌朝、軽くご飯を食べて寮を出ると、いかにもな黒い高級車が門の前に止まっていた。
そんなこともあるだろうと俺たちはその車の横を通り過ぎようとしたのだが、中から出てきた黒服の男たちに引き摺り込まれてしまった。
「忠次、元気そうで良かった。顔も見れてお父さん嬉しい!」
「父さん……」
車の中には親父さんが居て高そうなワインを飲んでいた。
「何のつもりなんですか」
俺がそう聞くと親父さんはふふんと笑った。
「遊園地までの道中、何かあったら大変だろう? だからこうやって私がわざわざ出向いて送り迎えをしてやろうと思って来たのだよ」
「父さん、念のために聞きますが、今日は貸し切ったりしてないですよね?」
「もちろんだよ忠次」
親父さんは上機嫌で答えた。
「それなら良いのですが」
忠次は送り迎えだけならと諦めたようで、俺に向かって小声ですみませんと言って来た。
『気にすんなよ、むしろ交通費浮いてラッキーだな、この浮いたお金で食べ歩きしよう』
俺も小声でそう返すと忠次も安心したようにうなずいた。
遊園地に着くと親父さんは帰りも迎えにくるから連絡するようにとは言っていたが、それまではとあっさりと帰っていった。
遊園地の中に入ってもそれなりに一般客がいてやはり貸し切りは難しかったようだと2人して安心して遊び始めた。
「あそこ、ほら凛太郎が乗りたがってたアトラクションありますよ!」
忠次がニコニコで指差した場所には俺が乗ってみたいと言ったジェットコースターがあった。
「本当だ! 乗ろ!」
そこまで行くと割と長い列ができていて、1時間待ちと書いてあった。
「あの……これ良かったらどうぞ、私たちもう帰るところなんで」
そう話しかけられて相手を見ると同年代くらいの女子だった。
その女子は俺に紙束を押し付けると走って逃げて行ってしまった。
「何だったのでしょう」
「な~」
2人で不思議に思いながらも、押し付けられた紙束を見るとアトラクションに優先的に乗れる券だった。それも他のアトラクションのも全て2枚ずつある。
その後も、俺たちが食べようと思うものを譲られたり、買おうとするものを譲られたりした。
それも年齢も性別も全くバラバラな人たちだった。
「父さん……」
忠次が呟いた。
「え?」
「これ、絶対父さんが何かやってます。すみません、凛太郎、せっかくのデートなのに」
「いや、いいけど。俺は忠次と一緒に遊園地デートができただけで超楽しいし。それに、遊園地来たことなかったから、こんなもんなのかと思ってた、ごめん親父さんか」
「すみません……」
「あ、じゃあさ次あれ乗ろう」
忠次を引っ張っていって優先的に入れる券を渡し中に入った。
薄暗い空間で2人ずつ乗れるアトラクションだ。
早速案内されて2人で乗り込む。
もともと程よく狭かったが忠次の方に寄って密着した。
「ここだったらどこで見てるか分からないってことないだろ?」
「はい」
「忠次……」
「んっ……んぁ」
忠次にキスをすると、暗いところでも分かるほど赤くなった。
モゾモゾと俺に近づいてそっと手を繋いだ。
外に出たら繋げないのでドキドキするし嬉しい。
そうしているうちにアトラクションは出口に近づいて、俺たちは名残惜しくも手を離した。
金曜日の夜、忠次の部屋で2人でゆっくりしている時にそう言ってみた。
「で、デートですか。行きたいです」
「よっしゃ、じゃあ明日行こうぜ、どっか行きたいとことかある?」
「特にすぐに思いつくところはありませんが」
うーんと考えながら忠次がそう言った。
「じゃあさ俺、遊園地行きたい」
「遊園地ですか。いいですね」
忠次も笑って答えてくれたので遊園地に行くことになった。
高校生になって恥ずかしいと思う以前に、俺はそういう場所に連れて行ってもらった記憶がない。だから一度行って見たいと思ってたんだ。
「これも乗ってみたいし、これも!」
俺が遊園地のサイトを開いて、アトラクションを指差しながら言うと、忠次も毎回いいですね良いですねと言ってくれる。
プルルル
俺に電話がかかってきたので見てみると忠次の親父さんだった。
最近は忠次のご両親ともたまにテレビ電話で近況報告をしている。
「あ、凛太郎明日の事は」
何か言いかけた忠次よりも先に俺が電話をとってしまって、画面の向こう側からテンションの高い忠次の親父さんが映った。
『忠次~! 元気にしてるか? ゴホン、あー……凛太郎くんも』
「元気ですよ、親父さんは?」
『私は常に元気だ! 君に心配されなくともな! 忠次もちゃんと元気か?』
「元気ですよ、父さん」
「そうですよ、忠次は明日俺と遊園地行くんですから」
「あ、ちょっとま」
忠次が焦ったように横から俺を止めようとした。
『遊園地……?』
親父さんが聞き返す。
だが俺はただならぬ忠次の様子に黙ってしまった。
「父さん、遊園地は嘘です。じゃあまた!」
そう言って忠次が電話を切ってしまった。
「どうしたの忠次」
「あ……いや、ちょっと昔のことを思い出してしまって。でも私ももう子供じゃないし、父さんも昔ほど過保護じゃないだろうし……」
「何の話だよ?」
「私が子供の頃、人混みで具合が悪くなってしまったことがあって。それから遊園地の時は貸し切りにしようとするんです」
「まじ? 親父さんすげぇな。まぁでも大丈夫だよ。明日の貸し切りなんてさすがに急すぎて無理だろ?」
俺がそう言うと、しばらく考え込んだ忠次も、それもそうかとうなずいて笑った。
翌朝、軽くご飯を食べて寮を出ると、いかにもな黒い高級車が門の前に止まっていた。
そんなこともあるだろうと俺たちはその車の横を通り過ぎようとしたのだが、中から出てきた黒服の男たちに引き摺り込まれてしまった。
「忠次、元気そうで良かった。顔も見れてお父さん嬉しい!」
「父さん……」
車の中には親父さんが居て高そうなワインを飲んでいた。
「何のつもりなんですか」
俺がそう聞くと親父さんはふふんと笑った。
「遊園地までの道中、何かあったら大変だろう? だからこうやって私がわざわざ出向いて送り迎えをしてやろうと思って来たのだよ」
「父さん、念のために聞きますが、今日は貸し切ったりしてないですよね?」
「もちろんだよ忠次」
親父さんは上機嫌で答えた。
「それなら良いのですが」
忠次は送り迎えだけならと諦めたようで、俺に向かって小声ですみませんと言って来た。
『気にすんなよ、むしろ交通費浮いてラッキーだな、この浮いたお金で食べ歩きしよう』
俺も小声でそう返すと忠次も安心したようにうなずいた。
遊園地に着くと親父さんは帰りも迎えにくるから連絡するようにとは言っていたが、それまではとあっさりと帰っていった。
遊園地の中に入ってもそれなりに一般客がいてやはり貸し切りは難しかったようだと2人して安心して遊び始めた。
「あそこ、ほら凛太郎が乗りたがってたアトラクションありますよ!」
忠次がニコニコで指差した場所には俺が乗ってみたいと言ったジェットコースターがあった。
「本当だ! 乗ろ!」
そこまで行くと割と長い列ができていて、1時間待ちと書いてあった。
「あの……これ良かったらどうぞ、私たちもう帰るところなんで」
そう話しかけられて相手を見ると同年代くらいの女子だった。
その女子は俺に紙束を押し付けると走って逃げて行ってしまった。
「何だったのでしょう」
「な~」
2人で不思議に思いながらも、押し付けられた紙束を見るとアトラクションに優先的に乗れる券だった。それも他のアトラクションのも全て2枚ずつある。
その後も、俺たちが食べようと思うものを譲られたり、買おうとするものを譲られたりした。
それも年齢も性別も全くバラバラな人たちだった。
「父さん……」
忠次が呟いた。
「え?」
「これ、絶対父さんが何かやってます。すみません、凛太郎、せっかくのデートなのに」
「いや、いいけど。俺は忠次と一緒に遊園地デートができただけで超楽しいし。それに、遊園地来たことなかったから、こんなもんなのかと思ってた、ごめん親父さんか」
「すみません……」
「あ、じゃあさ次あれ乗ろう」
忠次を引っ張っていって優先的に入れる券を渡し中に入った。
薄暗い空間で2人ずつ乗れるアトラクションだ。
早速案内されて2人で乗り込む。
もともと程よく狭かったが忠次の方に寄って密着した。
「ここだったらどこで見てるか分からないってことないだろ?」
「はい」
「忠次……」
「んっ……んぁ」
忠次にキスをすると、暗いところでも分かるほど赤くなった。
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