平和になったこの時代で

いちみやりょう

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幼い頃からずっと夢に出てくるあいつを探している。
多分俺たちがいたのは江戸時代で、俺もあいつも幕臣で帯刀している。
俺はあいつが好きだった。
だけど生涯それを伝えることはなかった。

お互いに家族がいた。
妻がいて子供がいた。
あいつは奥さんのことが大好きで大事にしていた。
それに男が好きなどと言えるような時代じゃなかった。

家のために働き、家のために結婚し、家のために生きる。
それがあの時代の俺たちの生き方だった。

ある日、辻斬りに襲われた俺をあいつが助けてくれた。
そいつを斬り殺してあいつはお前が無事で良かったと笑った。
だがその辻斬りの正体は幕府のお偉いさんの一人だった。

あいつはその責任を取って切腹することになった。
俺は何回もお上に訴えた。
だが、結局あいつを救うことはできなかった。
俺はあいつに救われたのに、あいつのおかげで生きているのに、あいつは死んじまった。
その後は俺は必死に働いた。
あいつの残した嫁さんや子供を養う金も俺が稼いだ。
そして俺は天寿を全うして死んだ。


そんなあいつはきっとこの世界に居て、きっと俺と同じで記憶を持って生まれてる。
俺はそう信じて今までどこかにあいつの気配がないか探して生きてきた。

そして俺はついに見つけることができた。

バーの片隅で1人であいつはちびちびとウイスキーのロックを飲んでいた。
日本酒を飲んで騒いでいた頃が懐かしい。
随分とおとなしく飲めるようになったもんだ。
俺はあいつの隣に移動して話しかけた。

「よお」
「ん? あー、知り合いだっけ? わり、どこで会ったかな」
「覚えて……ないのか?」
「んー、悪いね」

あいつは困ったように笑ってそう言った。
そうか……そうだよな。
困ったように笑うそんな顔も、何もかもあいつと同じなのに、俺を知らないあいつはどこか他人行儀で少しだけショックだった。

でもまたこれから知り合えばいいよな。出会えたことに感謝して今度こそ俺はこいつに思いを告げるんだ。

俺はそう決意した。

「あー、なんか知り合いに似てたから間違えました。はは、すみません」
「いやいや、いいよ。良かった。俺、人の顔覚えんのは割と得意だからさ、忘れてんのかと思ったらめっちゃ失礼だし不安だったけど、あんたの勘違いなら良かった。でもせっかくの縁だし、一緒に飲まねー?」
「いいですね!」
「俺は佐倉っていう名前。佐倉 壱夜。あんたは? ってか敬語じゃなくて良くね? 飲みの席だしよ」
「わかった。俺は秋元 吏人。好きに呼んでくれ」
「おう、吏人。よろしくなぁ」

佐倉から”一応な”と名刺を渡されて俺も名刺を返した。
高校の教師をしているらしく佐倉らしいなと思った。
昔から人に教えたりするのもうまかったし、年下からいつも慕われたたな。
今もそうなのだろうか。

佐倉の美味しそうにウィスキーを飲む横顔を見ながら自然と口角が上がった。

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