平和になったこの時代で

いちみやりょう

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それから俺はそのバーに通って、佐倉とは随分仲が良くなった。
佐倉と話す中で佐倉はまだ結婚相手も恋人もいないという情報を得た。

嬉しかった。

「お前ら、本当仲良いなぁ~。特に吏人くんは佐倉さんにベタ惚れだよなぁ」

あはははと冗談のように笑う常連のおじさんに俺はどきりとする。
バーに佐倉がいると俺が嬉しそうに話しかけるせいで周りの常連客からはよくこうやってからかわれる。だが、実際のところ本当にベタ惚れであるから、俺の心はいちいち反応するのだ。

「まぁね~、だけど俺も負けねぇくらい吏人にベタ惚れよ?」

こんなことを佐倉は簡単に言ってしまうのだから、俺の意識されてなさっぷりと言ったらない。
そしてその軽口に俺はいちいちときめいてしまうのだ。

「何言ってんだ。俺のが佐倉のこと好きに決まってんだろ?」

ようやく落ち着いて俺も軽口を返してみんなでガハハハと笑った。
ふと他の人が見ていないタイミングで佐倉を見るとバチッと目があった。
佐倉は優しそうに愛おしそうにこちらを見て笑った。

なんだ?

何だかいつもの佐倉とは違う気がして不思議と心がざわついた。

「佐倉先生じゃないですか!」

後ろから女性の声がして振り返ってから俺はその訳がわかった。

ああ、彼女だ。

彼女は佐倉の前世の奥さん。
佐倉が大事にして、愛してた。
俺のせいで佐倉が最後まで守り切ることができなかった女性だった。

佐倉は俺に対して笑ったんじゃなくて俺の後ろにいた彼女を見てあの笑顔になったんだ。

「おう、山下せんせ。こんなところで会うなんて珍しいね」

佐倉は先ほどの笑顔を引っ込めていつも通りの笑顔で彼女に話しかけた。
先生と呼ぶからには同僚なのだろう。

「ええ、急に予定が潰れてしまって。せっかくだから一人で飲もうと思って」
「そうかぁ。ここの店にいるのは気のいいやつばかりだから仲良くしてやってくれ。みんなー、この人は俺の同僚の山下さんだ」

佐倉がそう言ってみんなに山下さんを紹介すると山下さんも「よろしくー!」と元気に言った。
俺も含め酔っ払いしかいないのでみんなほぼ叫んだ状態で自己紹介を済ませた。

彼女は前世の頃から明るく人情味あふれる人でたくさんの人に愛されていた。
そんな人だからきっと前世でも、今世でも佐倉の心を射止めたのだろう。

だけど、今の俺には妻子はいない。
今の佐倉にも妻子はいない。

叶うはずもないこの思いだけど、それでも伝えるだけは伝えたい。

佐倉はきっとからかわずに受け止めてくれるだろう。
高校の先生なんてやってるくらいだしな。

だけど、もう少し、もう少し仲良くなってからじゃないと。

もう少し仲良くなったら、俺は佐倉に告白して、そして200年前からの片思いを終わらせるんだ。
でも俺は告白するからには全力で行きたいんだ。
だから好かれる努力は怠るつもりはない。
まぁフラれる覚悟はするけれども、ワンチャン付き合えないかと狙ってみるつもりだ。


俺が佐倉を惚れさせることができなければ佐倉は前世の奥さんとまた結婚するのかな。
そうなったら俺はおめでとうと言えるだろうか。




ーーーーー

ちなみに俺の元奥さんは俺の従姉妹になっていて、今は旦那さんと見てるこっちが恥ずかしくなるくらいイチャイチャをかましている。
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