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しおりを挟む俺は佐倉の好みを知っている。
佐倉の好みはあの頃とほとんど変わっていないらしかった。
日本酒からウイスキーを好んで飲むようになってはいたが、好きな食べ物は焼き魚だったり、趣味は釣りだったり。
変わっていない部分がかなりあった。
だから俺は今の山下さんより分がある部分もある。
佐倉の好みに合わせてデートに誘ったらいつも簡単にきてくれる。
まぁ俺相手にデートだと思っていないからだが。
常に笑顔で話すことを心がけたりした。
今の佐倉は教師をしているからなのかやたらと頭を撫でてくる。
俺はそれが嬉しかった。
ある日、バーの酔っ払いのおっさんたちの悪ノリで王様ゲームをすることになった。
そこには山下さんもいて、多分おっさんたちは山下さんと佐倉の恋のキューピットにでもなるつもりだったんだろう。佐倉も山下さんもそれには気がつかずに笑って参加している。
多分何か細工をされているだろうクジの棒を俺もひかされた。
「王様だーれだぁ!!!」
おっさんたちはノリノリで叫んで自分のくじをみる。
俺も見てみらたら3と書いてあった。
「俺だったぁ!」
おっさんの中の一人がわざとらしく叫んだ。
「んじゃあ、1番と2番の人ぉ、キス!!」
「俺、1だ」
「あ、私2番です」
おっさんたちの思惑通り2人のキューピットはうまくいきそうだった。
「んだよ、こういうのってセクハラになんじゃねぇの?」
佐倉は複雑そうな顔でそう言って困っていた。
「あの、佐倉先生が気になさらないなら私は別に平気ですけど」
山下さんがそう言った。
途端、おっさんたちは「うぉーーー!!」と盛り上がり、「キース、キース」と学生のノリで囃し立てている。
俺は盛り上がっているみんなを尻目に、マスターにお金をそっと渡してバーを抜け出た。
俺1人がいなくなっても酔っ払いしかいないあの場所じゃ誰も気づかないだろう。
帰り道を歩きながら目から滲み出る涙を拭った。
2人はもうキスしたかな。
頑張ろうと思った俺の心はすでに瀕死状態になっていた。
俺の方が佐倉のことを好きなのに……なんて意味のない張り合いを心の中で呟いて笑った。
あの2人が付き合えばみんなから祝福される。
それに比べて俺と付き合ったところで佐倉が幸せになるとは思えない。
前世の頃に比べて差別は少なくなったけれど、やはり男女の恋愛の方が多数派なのだ。
今世こそ佐倉には長生きしてもらって人生を幸せに過ごしてもらった方がいい。
俺はそう思い直した。
なにが叶うはずもないこの思いだけど、それでも伝えるだけは伝えたいだよ。
俺の気持ちを伝えるなんてそんな野暮なことはしない方がいい。
今世では佐倉と山下さんを絶対に幸せを応援することにするよ。
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