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パシ
歩いていると手を掴まれた。
「うぇ!? な、何ですか」
驚いて素っ頓狂な声をあげて振り向くと佐倉が立っていた。
「吏人」
「佐倉……なんで」
「お前がいきなり帰るから」
「あ……えっと、悪い。急に仕事が入ってさ。心配してくれたのか? ありがとな」
なんとかそれだけは伝えられた。
「仕事?」
「あ、ああ。仕事! じゃあ、もう俺行かないといけないから行くな! 佐倉もバー戻れよ? 盛り上がってただろ?」
「俺は戻らない」
「え?」
「俺は、ああいうのは好きじゃないんだ」
「あ、あー。そうなんだ」
「飲み直さないか?」
「へ? 俺と?」
「どうせ、仕事っつうの嘘なんだろ?」
「うそ、じゃないよ」
「俺なぁ、夢を見るんだ」
佐倉の突然の話題チェンジに意図がわからず黙って聞いていると佐倉は感情の読めない表情で俺を見た。
「多分、前世の頃の俺の記憶だと思う」
「前世」
「ああ。そんで俺はどうしようもなく好きな奴がいたんだよ」
「そ……うなんだ」
心臓がズキズキと痛んだ。
そうだよ佐倉。
お前にはいたよ。
お前は奥さんのこと大事にしてた。
どうしようもなく好きな奥さんがいて、その人のことをちゃんと大事にしてたよ。
「そんでな、俺は今もそいつが好きなんだよ。どうやら脈ありだと思ってんだ」
「そっか。よかったね、本当に、よかった」
だけどなんでそれを俺に言いに来るんだよ。
俺に追い討ちをかけんなよ。
「泣いてんのか?」
佐倉は俺の頬に手を当てて涙を拭った。
俺はその手を慌てて振り払って自分で目元をゴシゴシと擦った。
「あ、ドライアイが、最近ひどくてさ」
「なぁ。俺な、その前世の」
「前世の話なんてもういいよ」
佐倉が続けようとした言葉を遮った。
もう聞きたくないんだ。
頼むから。
「俺の前世の好きな人な、男なんだ」
「え?」
俺が止めたのにも関わらず佐倉が続けた言葉は俺の想像とは違っていて驚きすぎて時が止まったような感覚になった。
「そんで、今世でも男だ」
「う、嘘だ。だって佐倉は奥さんを大事にしてたろ! 子供もいたろ!」
そこまで言ってハッとして佐倉を見るとニヤリと笑った。
「やっぱり。お前記憶あんだな」
「……そうだよ。だからお前が俺のこと好きだったなんて嘘だって知ってる」
「嘘じゃない。あの頃はお前にだって妻と子供がいたろう。あの時代はそう生きなければいけなかった。だが今は違うだろ」
「でも、山下さんとまた付き合うんだろ? あの人は前も今も変わってない。いい女性だ」
「ああ。俺もそう思うけどよ、だからまた俺なんかが相手じゃかわいそうだろ」
「なんでだよ。山下さんは佐倉のこと好きだろ」
「そうかもしれない。だが、俺は吏人が好きだ」
「っ」
「吏人……200年前から俺はお前を愛してる」
止まっていた涙が溢れ出した。
ずっと
ずっと欲しかった言葉だった。
佐倉はまた俺の涙を拭ってくれて「お前はどうなんだ?」と聞いてきた。
「俺も……200年前から佐倉のことが好きだった」
佐倉は俺を強く抱きしめた。
「佐倉、ごめん。俺のせいでお前が」
「俺はあの時、好きなやつを守って死んだんだ。満足だったぜ」
「だけど、お前奥さん大事にしてただろ」
「ああ。結婚したからにはってちゃんと大事に扱ってたな。俺が死んだ後は大丈夫だったか?」
「俺が働いて佐倉の奥さんと子供もちゃんと養ったよ」
「そうか……苦労かけて悪かったな」
「俺のせいだろっ!」
「吏人のせいじゃねぇよ。お前はちゃんと最後まで生きたか?」
「大往生だったよ」
「そうか。よかった」
「好きだ。佐倉、大好きだ」
「俺も好きだ。やっとお前を手に入れられる」
佐倉は本当に嬉しそうに笑った。
きっと俺も同じ表情をしているんだろう。
完
歩いていると手を掴まれた。
「うぇ!? な、何ですか」
驚いて素っ頓狂な声をあげて振り向くと佐倉が立っていた。
「吏人」
「佐倉……なんで」
「お前がいきなり帰るから」
「あ……えっと、悪い。急に仕事が入ってさ。心配してくれたのか? ありがとな」
なんとかそれだけは伝えられた。
「仕事?」
「あ、ああ。仕事! じゃあ、もう俺行かないといけないから行くな! 佐倉もバー戻れよ? 盛り上がってただろ?」
「俺は戻らない」
「え?」
「俺は、ああいうのは好きじゃないんだ」
「あ、あー。そうなんだ」
「飲み直さないか?」
「へ? 俺と?」
「どうせ、仕事っつうの嘘なんだろ?」
「うそ、じゃないよ」
「俺なぁ、夢を見るんだ」
佐倉の突然の話題チェンジに意図がわからず黙って聞いていると佐倉は感情の読めない表情で俺を見た。
「多分、前世の頃の俺の記憶だと思う」
「前世」
「ああ。そんで俺はどうしようもなく好きな奴がいたんだよ」
「そ……うなんだ」
心臓がズキズキと痛んだ。
そうだよ佐倉。
お前にはいたよ。
お前は奥さんのこと大事にしてた。
どうしようもなく好きな奥さんがいて、その人のことをちゃんと大事にしてたよ。
「そんでな、俺は今もそいつが好きなんだよ。どうやら脈ありだと思ってんだ」
「そっか。よかったね、本当に、よかった」
だけどなんでそれを俺に言いに来るんだよ。
俺に追い討ちをかけんなよ。
「泣いてんのか?」
佐倉は俺の頬に手を当てて涙を拭った。
俺はその手を慌てて振り払って自分で目元をゴシゴシと擦った。
「あ、ドライアイが、最近ひどくてさ」
「なぁ。俺な、その前世の」
「前世の話なんてもういいよ」
佐倉が続けようとした言葉を遮った。
もう聞きたくないんだ。
頼むから。
「俺の前世の好きな人な、男なんだ」
「え?」
俺が止めたのにも関わらず佐倉が続けた言葉は俺の想像とは違っていて驚きすぎて時が止まったような感覚になった。
「そんで、今世でも男だ」
「う、嘘だ。だって佐倉は奥さんを大事にしてたろ! 子供もいたろ!」
そこまで言ってハッとして佐倉を見るとニヤリと笑った。
「やっぱり。お前記憶あんだな」
「……そうだよ。だからお前が俺のこと好きだったなんて嘘だって知ってる」
「嘘じゃない。あの頃はお前にだって妻と子供がいたろう。あの時代はそう生きなければいけなかった。だが今は違うだろ」
「でも、山下さんとまた付き合うんだろ? あの人は前も今も変わってない。いい女性だ」
「ああ。俺もそう思うけどよ、だからまた俺なんかが相手じゃかわいそうだろ」
「なんでだよ。山下さんは佐倉のこと好きだろ」
「そうかもしれない。だが、俺は吏人が好きだ」
「っ」
「吏人……200年前から俺はお前を愛してる」
止まっていた涙が溢れ出した。
ずっと
ずっと欲しかった言葉だった。
佐倉はまた俺の涙を拭ってくれて「お前はどうなんだ?」と聞いてきた。
「俺も……200年前から佐倉のことが好きだった」
佐倉は俺を強く抱きしめた。
「佐倉、ごめん。俺のせいでお前が」
「俺はあの時、好きなやつを守って死んだんだ。満足だったぜ」
「だけど、お前奥さん大事にしてただろ」
「ああ。結婚したからにはってちゃんと大事に扱ってたな。俺が死んだ後は大丈夫だったか?」
「俺が働いて佐倉の奥さんと子供もちゃんと養ったよ」
「そうか……苦労かけて悪かったな」
「俺のせいだろっ!」
「吏人のせいじゃねぇよ。お前はちゃんと最後まで生きたか?」
「大往生だったよ」
「そうか。よかった」
「好きだ。佐倉、大好きだ」
「俺も好きだ。やっとお前を手に入れられる」
佐倉は本当に嬉しそうに笑った。
きっと俺も同じ表情をしているんだろう。
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