双子の兄になりすまし単位を取れと言われたが、おいおい何したらこんなに嫌われんの?

いちみやりょう

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42 数学第二準備室

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黒月さんは肩で息をしながらも、俺をまっすぐ見上げていた。
ずいぶんと疲れた様子ではあるけど、黒月さんの姿が見られて俺は心が湧き上がってくる。
黒月さんは俺のために。俺の歌を聞くために一生懸命駆けつけてくれたんだろう。
額に汗を滲ませている様子は、いつも涼しい顔の黒月さんらしくない。だけど、そんな黒月さんの様子を見て俺の中を何か暖かいものが、じんわりじんわり満たしていくような気がした。

ずっと子供の頃から学校の行事では1人だった。

運動会も学習発表会も親が見に来てくれている友人を横目に俺はずっと一人だった。
その時々で友人はいたけれど、友人たちはみんな家族と過ごす。
それを寂しいと思っていたことも忘れるくらいの歳になって、やっと俺を見てくれる観客ができた。

俺を優しい目で見守る黒月さんから目を逸らす。
そこには、なぜだか俺を応援してくれているらしい知り合いたち……、いや、友人たち。
今までは家を出ること以外、目標という目標もなく、あまり頑張るということをしない俺だったけど、最近は我ながらとても頑張ったから、周りにもそれが伝わったのかもしれない。

バンドは大成功で終わり、その後の時間は森たちと一緒にチェキやらグッズやらを販売した。
それは意外にも大盛況だった。
ものの一時間で完売したが、客の中には、それなりに名のしれた社長たちがいて、森たちが言っていた誘い文句通り、俺は人脈を広げることができた。

「はぁ~。疲れたぁ」

どかりと久々のソファに座って一息ついた。

「お疲れ様です紫様。とてもかっこよかったですよ。間に合って本当に良かった」

黒月さんはにこやかに言った。
文化祭で賑わう本校舎から離れ、いつも通り静かな第二数学準備室で俺たちは久しぶりに向かい合っていた。

「本当、俺も黒月さんに見てもらえて良かったよ。ここ最近、頑張った甲斐があった。それにしても、3ヶ月も帰ってこられないなんて、すごく忙しかったんだね」
「ええ。会社の方で少々めんどくさいことが起こっていましてね。多少てこずりましたが、全て解決しましたのでご安心ください」
「ご安心くださいったって、何が起こったのかは気になるよ。いずれ俺が継ぐわけだし」

そういうと、特に秘密にするつもりはないのか、黒月さんはひとつ頷いた。

「そうですね。特に面白い話というわけではないので、心苦しいのですが」

話ずらそうな黒月さんに、俺は1枚、取っておいたチェキを取り出した。

「これ、いる?」
「こ……これは……、もちろん、いただけるのなら、欲しいです。いただいてよろしいんですか……?」

黒月さんが恐る恐るというような手つきで、チェキに触れる。
もう、それだけで黒月さんが俺のことを相当好いてくれていることが伝わってきて嬉しくなる。小さなことでウジウジ悩んだりもしたけど、この3ヶ月という会えない時間は、黒月さんを心の底から想い、適切な距離を築くためには必要な期間だったのかもしれない。

「このチェキは黒月さんにあげるために取っておいたんだよ。でも渡すのはこの3ヶ月の黒月さんの話を聞き終わった後だけど」
「……なるほど」

そんなことをしなくても、全てお話ししますのに、と不満げな顔の黒月さんは俺の前にコーヒーを置いてくれた。


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