妖怪達の薬屋さん

いちみやりょう

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10 祓酒

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キオウはケイとダンダーと別れ、シオの屋敷に向かった。
屋敷に着いた時、門の前にはサネユキがいた。

「お。キオウじゃないか! 奇遇だなぁ……1人か?」

ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべキオウを見るサネユキを、キオウは無視して脇を通り過ぎた。

(奇遇なわけあるか)

昔からサネユキに事あるごとに絡まれているキオウだが、今は祓酒がないことでサネユキの相手をしている余裕はなかった。だが、相手にされなかったサネユキは今日に限っては余裕の笑みを浮かべている。

「おーい。シカトかー? お前がここに来たのってこれの為じゃねぇの?」

キオウが振り向けばサネユキの手には祓酒のビンが握られていて、キオウにアピールするかのようにプラプラと揺らしている。
それはキオウがシオの屋敷に置き忘れていた祓酒だった。

「返せ」
「あっはは。返せと言われて俺が素直に返すと思うか?」
「いいから返せ。俺は今虫の居所が悪い」
「これがないだけでそんな焦って、哀れなもんだな。あ? 祓酒に選ばれたから雷帝家当主だと? 冗談じゃない。半妖のくせに」

押し殺した声には怒りがにじみ出ていた。

「なぁサネユキ、俺はもう跡取りじゃねぇよ……。いい加減俺に絡むのはよせ」
「お前さえ……。お前さえ生まれなければ、俺が跡取りだったんだ」
「ああ、そうかもな。だが、それを俺に言われても困る。厳格な決まりの元選ばれただけだ。その上、もう俺はその座を降りている。そもそも雷帝家の跡取りになぜそこまで執着する」
「はは。なぜ執着するだと……? 生まれつき力を持って、跡取りにも選ばれたお前には俺の気持ちなんて分かるわけない」
「ああ。さっぱり分からんね。なにせ俺は半妖だからな。罪もない妖を殺して回る奴らのトップになるなんて虫唾が走る」
「おいおい。人聞きの悪い言い方はよせ。俺らが殺すのは瘴気に侵された奴らだけだ」
「瘴気だけを祓う薬がある。殺す必要はない」
「瘴気に侵された妖は、正気を保てず人を殺している可能性がある。人を殺しておいて瘴気に侵されていたからなんて、言い訳は通用しない」
「そもそも瘴気は人間の負の感情や言葉から生まれたもんだ。その瘴気に侵されていたから殺すってんじゃ、お前らのやってることはあまりにも不合理すぎる。瘴気だけを祓う薬が広まれば、正気を失い人間を襲う妖怪も減っていく。人と、妖怪はもっとうまく付き合えるはずだ」
「お前はいつもいつも偉そうだな。その余裕ぶった態度が気にくわねぇ……そうだ……」

ニヤリと笑ったサネユキは手に持った祓酒を頭上に掲げた。

「おい、よせ」
「ははっ」

パリン!!!

キオウの静止の声も聞かずサネユキは祓酒の入った瓶を地面に叩きつけた。
瓶は割れ、中の酒は地面に吸収されていく。

「……はぁ。お前は本当にどうしようもねぇな。ほら、気はすんだろ。どっか行けよ」

怒り狂うキオウを想像してニヤニヤしていたサネユキは、キオウの反応に面白くなさそうに口元を歪め、それからまたニヤリと口の端を上げた。

「余裕ぶるのも大変だな。まぁせいぜい頑張るこった」

サネユキがプラプラと後ろ手に手を振る背中を見てキオウは小さくため息を吐いた。
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感想 1

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