彼の理想に

いちみやりょう

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8 家に

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和也とのデートの後、桜介は家に着いてからカップラーメンを食べて、ビールを飲み始めた。
飲みながら和也とのデートを振り返った。桜介からしたらデートに行く前の憂鬱が嘘のように楽しめたデートだったけれど、やっぱり和也を恋愛対象として見られないと思った。

ーー時間が経ったら、俺も和也さんを好きになれたりするんだろうか

そう考え、やっぱりそれはないかもなと自分で否定した。

ーーだって、俺にとって蓮さんが唯一無二なんだ。子供の頃の刷り込みだとしても俺には蓮さんが特別なんだ

ピンポーン

2本目のビールに差し掛かった頃チャイムが鳴り、桜介は首を傾げた。
桜介は今現在ネットで注文したものなどは無いはずで、来客の心当たりはなかった。
現在の時刻は19時。
決して人が訪ねて来て非常識と言われる時間じゃ無いだけに居留守を使うのは忍びなかったが、来客者は宗教勧誘か新聞勧誘だろうとあたりを付け無視をすることにした。

ピリリ……ピリリリ……

けれど間をおかずにメッセージアプリに電話がかかって来た。

ーー蓮沼 蓮

通知画面に表示された名前に心臓が一気に跳ね上がった。

「も、もしもし!」
『俺だが、今家じゃないのか。どこにいる?』
「えっ、家にいるけど」
『じゃあ鍵を開けてくれないか。凍えそうだ』
「えっ、えっ!?」

桜介が慌てふためきながら玄関まで走り鍵を開けると、スーパーの袋を持った蓮が立っていた。
蓮は一瞬驚いた顔を見せた。

「なんだ。本当にいたのか」
「本当にってなんだよっ。俺はてっきり宗教勧誘とかそっち系かと思ったからさ。来るなら連絡してくれたら良かったのに」

料理くらい作って待っておいたのにと付け加えた桜介の後を、蓮は無言で着いて来た。
桜介はとにかく平気そうに振る舞うのに必死だった。
蓮に告白してからというもの、外で飲んだり遊んだりはしても部屋に上がったりなどはなくなったからだ。

ーーこういう時って、俺ってどんな顔してたっけ

そう迷いながらも、桜介はなんとか冷静な表情を作って蓮を居間に座らせた。

「どうしたの? 急に」
「いや、理由は無いんだが、そろそろ飲みに行く頃だと思って」
「そっか。確かにそろそろだよね!」

桜介はその事に今気がついたというように、声音を上げて笑った。
もちろん、桜介が蓮と飲みに行く頻度を忘れるわけはなく、あと2、3日もしたら蓮から飲みに行こうと誘われるだろうと期待していた。

それが唐突に大幅に前倒しになり、今目の前に蓮がいるのだと思うと、桜介は居ても立ってもいられないような何だかソワソワとした気持ちになって来た。

「あっ、えーっと。この袋何? 何か買って来てくれたの?」
「ああ。酒とつまみ類だ」
「わあ、俺が好きなやつばっかり。ありがとう!」

桜介は袋を覗き込み、中に入っていたものを確認してから、冷蔵庫に入れた方が良いものを持ってキッチンに向かった。

袋の中には、銀杏と温めて食べるだけのだし巻き卵などのおつまみ類とビールやハイボールなどが入っていた。

「今日は……、仕事はうまくいったか?」
「えっ!?」
「配達。今日は平日だったが、やっぱり配達は少ないのか?」
「あ、えっと。平日は確かに休みの日に比べると注文は落ちるんだけど、今日は俺、休みだったから」

ちらりと蓮の様子を見ながらそう言った桜介に蓮はしばらく無言だった。

「あ、映画とか見る? 確かこの間蓮さんが見ようかなって言ってたやつ、借りてあるんだけど」
「……いや、あー、そうだな。点けてくれ」
「分かった!」

そうして桜介がプレイヤーにセットしたのは、恋愛系の映画だった。
蓮が最近よく補導する女子高生からお勧めされたとかで見てみようとこぼしていたのを、桜介も蓮との話のネタになるかと思い借りて来ていたDVDだった。

ーーやっぱ、この映画じゃないのにすればよかった……

自分を振った男と2人っきりで、しかも自分の部屋で恋愛系の映画を見るという行為が、かなり苦痛を強いることを、桜介は映画再生開始からわずか10分で痛感していた。
借りて来ていたDVDは他にもアクションやホラーなどがあったので、そちらにすれば良かったと後悔ばかりが頭を占める。
映画の中の主人公の女子高生は、優しい男性教諭に恋をしていて、素気無く断る教師に対して健気にアピールするという青春な内容だった。

ーー内容的に、俺たちが恋人同士だとしても男2人で見るにはしょっぱいよな

「こういう映画、桜介は好きなのか?」
「えっ、俺は……どうだろ。蓮さんは?」
「学生の時なら楽しめたかもしれないが、今の年齢になって見た感想としては犯罪だろって頭が働いて、映画だと割り切っては楽しみきれないな」
「そっか。蓮さん警察官だもんね」
「ということは、桜介は楽しめたのか?」
「いや、俺も。なんていうか、あんまり好きじゃなかったかな」

叶わぬ恋をしている女子高生に同族嫌悪のような感情が芽生え、映画を見ている最中はムズムズと嫌な感情だった桜介はそう答えた。
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