彼の理想に

いちみやりょう

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12 車

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「おい、そいつの肩に気安く手なんて回してんじゃねぇよ」

桜介に絡む男の肩を後ろからぐいっと引っ張り、低い声でそう言ったのは蓮の声だった。

「は? なんだよおっさん。横取りすんなよ。この子は俺が目つけてんの」

男は悪びれる様子もなく蓮に向かって突っかかる。

「目つけてるもクソもあるか。あんま聞き分けねぇならしょっぴいちまうぞ」
「しょっぴくって……、何? おっさん警察……?」
「そう見えねぇのか」

その時になってようやく蓮の服装を見たのか男は青ざめて、桜介の肩に回していた手をどかした。

「お、俺、用事があったんだった! じゃ、じゃあね。君、また今度会ったら相手してよ」

男はそう言ってそそくさと去っていった。

「大丈夫か?」
「ありがとう、蓮さん。なんかしつこくて困ってたんだ。けど、今日は非番って言ってたのになんでそんな格好してるの?」
「あー、急に呼び出されちまってよ。今は落ち着いたからもういる必要もないんだが、ま、今日は呼び出されて良かったわ」
「ほんとありがとう。お礼に今度飲む時は俺がおごるよ」
「こういうのは俺の仕事なんだから礼なんて言葉だけで十分だ。気にすんな」

桜介の頭をワシャワシャとかき回して、蓮はたくましい笑顔でニカっと笑った。
けれどその瞬間に桜介の頭にはあの写真の女性の顔が浮かんだ。
和也から送られてきた、新しい蓮の彼女の写真に写っていた女性。
桜介は、その新しい彼女を羨む反面、彼女の立場で考えて蓮のことを好きな桜介が蓮と触れ合うのは嫌なのではないかと思った。

「じゃ、じゃあ、また連絡するよ! ほんとありがと」
「あ、おい」

桜介は頭に乗っていた蓮の手から逃れるように1歩下がり、それから駅の方に向かった。

ーー俺が女だったら……いや、そうだったとしても俺はきっとないか。

写真の女性の顔を思い出して桜介はそう思った。
綺麗な女性だったが、今までの蓮の付き合ってきた女性とは少しタイプの違う女性に見えた。
今までの蓮の彼女は、笑顔を絶やさなそうなふわっとした印象の女性ばかりだったと桜介は知っている。それがここにきてガラリと印象の違う女性と付き合ったとなれば、今回のおつき合いに対する連の本気度が窺える気がした。
好きなタイプではないけれど、それでも好きになったというのは恋愛経験の少ない桜介からしてみれば運命のようだとすら感じた。

「うわ、終電行ってる……」

駅の中に人はまばらにいたので桜介は気がつかなかったが、終電は30分も前に行ってしまっていた。
とは言っても、桜介の自宅とは1駅しか離れていないので桜介は歩いて帰ることにした。

「はぁ~。でも流石に今日は疲れたな」

近くに人が居ないことを良いことに、桜介は盛大なため息をついた。
それもこれもあのナンパ野郎のせいだとうんざりする。

トボトボと歩いていると、俺の後ろからゆっくりと車が走ってきた。
その走り方が、ただ普通に通り過ぎようとするものではなくて、桜介の後ろにわざわざ着いてきたように感じ、桜介は先ほどのナンパ男の仕業かと疑った。

「おい、乗れよ。ったく」

予想に反して桜介の横に並んできた車の助手席側の窓が開き、運転席側から声をかけてきたのは蓮だった。

「え、な、なんで?」
「今日はもともと非番なんだから、用件が終われば帰れるんだよ。送ってってやろうと思って声かけてんのに、お前、スタスタ行っちまうし。慌てて着替えて車回した」
「そんな、いいのに」
「いいから乗れよ。男だって言ってもこんな夜中に危ないだろ?」

蓮が運転席側から身を乗り出して助手席側のドアを開けてくれ、桜介は少し歩いたし1駅の距離なら蓮にそう負担はかからないはずだとありがたく乗せてもらうことにした。

車内には落ち着いた洋楽が流れていて、2人の間の無言の間を埋めてくれる。

そして、なぜかお互い無言のまま、車はすぐに桜介の家へと着いた。
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