恋愛倉庫

まだ恋をした事がない

９

　私はこの人の事を好きだと思った事が一度もない。
　それでもこうして一緒に生活が出来ているし、結婚もしている。
　更には子供だっているけど、それでも好きだと思った事は無かった。
　
　
　だからと言って嫌っているという事もないのだ。
　当然だ、嫌いな人と一緒に生活なんて出来る訳がないのだから。
　そんな修行でもしている人でもなければ意味が分からない事を私はしない。
　まあ、修行も意味が分からないけど。
　
　
　子供に対しての愛情もない。
　子育てはただの義務感からしているだけである。
　あとはまあ世間体という奴だろうか。
　別に他人にどう思われようともどうでもいいとは思っているが、他人に干渉され
　るよりは自分でする方がマシだという理由で育てている。
　
　
　だからなのか手がかからない子に育ってくれた。
　これは嬉しい誤算である。子育てって奥が深い。
　
　
　
　
　初めての相手は友達だった人の紹介だった。
　正直私はそれがどういう場所なのか分からないまま連れて来れれて、
　そこで紹介された男は何か腐ったチーズのような顔していた事は覚えている。
　
　
　やたらと馴れ馴れしい人だとは思った。
　やたらと距離感が近い人だとは思った。
　そしてやたら眠いなとも思った。
　
　
　そして気が付いた時には全てが終わっていた。
　何かの違和感と共に目覚めた朝は最悪な気分だった。
　だって私は何も感じる事もなく全てが終わっていたのだ。
　初体験ってとっても大事なもののはずなのに、私の与り知らぬ間に何もかもが
　終わっているなんて酷過ぎる。


　だから私は今でもあの男を憎んでいる。
　私から大切なものを奪っておいて、何も差しださないなんて事が許される訳が
　ないのに。見つけたら必ず私も奪ってやろうと思っていた。
　あの男の大切なものを。
　
　
　何がいいだろうか？　
　友達だった人はフリマで売り払ってやったので今は何処で何をしているのかは
　分からなくなってしまったけど、フリマで売れるとはとうてい思えないから
　心臓で我慢しておこうと思った。
　
　
　
　
　どうして今更なんて思うかもしれないけど、そんなものは知った事ではない。
　たまたまみつけてしまったのだからこればかりはどうしようもないのだ。
　何を大切にしているかなんて人によって違うし、そもそも人間なんてそんなもの
　ではないのか？　これが私の生き方なのだから仕方が無いのだ。
　
　
　一応、迷惑は掛からないようにはしたつもりだ。
　それでも自分勝手だとか自己中心的だとか言う他人がいるけど、お前らの価値観
　なんて知った事ではないのだ私は。私は自分の人生を真剣に生きているだけだし
　自分の人生の糞さを他人で誤魔化そうと必死な奴らなどにかまってなどやらない。
　
　
「意外と面会にくる奴が多いな」


　ここに収容されてからというもの私は意外と忙しい日々だった。
　今日もわざわざ私に会いに来た者がいるらしい。
　刑務所にわざわざ来るなんてもの好きは大体頭がおかしい人達なのだ。