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少女abc

ｄ1

「ただいま。流石の私も今日はまいったわ。とりあえず夕食はそうね、豪華にして
　くれない？　なんだかそんな気分なのよ、お願いね」
　
　
　私は家に帰ってそうそうにジョアにそう言いつけた。
　もちろん私の命令に背くなんて事をするはずもなくジョアはすぐに厨房へと
　行ってしまう。私はそんな彼の後ろ姿を見届けると食堂へと移動した。
　
　
　私はジョアがどうして我が家へやって来たのかを知らない。
　両親が急に連れて帰って来たのだ。だからその事に反対なんて出来るはずもなく
　彼との生活が始まった。とはいえそこには上下関係なんてものはなく、ただ弟が
　出来たような感覚だった。
　
　
　でもいつからだろうか、彼への気持ちが変わっていったのは。
　ただの生意気な男の子がいつの間にか使用人として生活するようになったのは
　本人の希望だった。それに両親は反対しなかったが、私にはどうしてそんな事に
　なったのかさっぱり分からなかった。
　
　
　別にこのままで何も問題なんてないじゃないかと思った。
　私の弟でいいじゃないかとそれに何の不満があるというのだろうか？
　私みたいな姉は嫌だったのだろうか？　
　
　
「お嬢様」


　ジョアが私の事をそう呼ぶようになってから慣れるまで結構かかった。
　むずむずして居心地が悪いったらありゃしない。でも時間がそれにすら慣れさせ
　てしまった。それにいつの間にか私よりも小さかったジョアに身長を抜かされて
　いる事に気が付いた時、私は彼が男だったのだと認識した。
　
　
　両親がいなくなって、使用人たちも去って行った。
　それは当然の事で、私のような小娘だけではそんな人数を養うなんて事は出来な
　いし、必要がないのだ。だからそれは彼等の優しさだったのだろう。
　
　
　だから私はこれから一人で生きて行くのだとばかり思っていたし、これからどう
　するのかを考えていたらジョアがまだ居てくれた。それがなんだか嬉しくて、
　恥ずかしくて、私はジョアにメイド服を着るように命じた。
　
　
　どうしてこんな昔の事を思い出しているのだろうか？
　
　
　温かい料理が目の前に並べられていくその様子を見ながら私は匂いを嗅ぐ。
　とてもいい匂いで、これをお腹一杯食べる事が出来たならどんなに幸せだろう
　と思う。でもそれは叶わないのだ。最後くらいはジョアの顔を見てとも思った
　けどもう視界すらはっきりしない。
　
　
　だからこれでいいのだ。
　この温かい匂いの中で終わりを迎えた。
　いつかはこうなるって両親を見て分かっていたし、これが私の最後だった。
　かっこいいでしょ？