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天秤は傾く

１

「俺と付き合って欲しい」


　そんな言葉を私へ向けた殿方はそれはそれは素晴らしいお方で、家柄もよく
　品行方正で周りからの評価もすこぶるよくて、外見も非の打ちどころがない様な
　整った外観をしているという完璧超人。
　
　
　だからこそ誰もがそんな彼の行動に疑問を持った事であろう。
　どうして私なのだろうと。別に大した取り柄がある訳でもないそんな何処にでも
　居るような女に告白するには釣り合いが取れていないのでは？　と誰もの頭の中
　に浮かんでいるのが分かる。
　
　
　そんな空気が漂う中でも彼が私を見る目は真剣だった。
　そう言う所が好感度の高い証明なのだろうと思える対応であったし、
　まあそうするのが王道なのだろうと私は考える。誰もがそうあって欲しいと願う
　理想像のままの行動をとるのが彼の生き様なのだろう。
　
　
　悪くはない。
　
　
　そんな生き方を私は否定したりはしない、今の所は。
　もちろん身に危険が迫れば話が変わる、降りかかる火の粉は払わないといけない
　というのは当然の発想であろう。
　
　
「本当によかったのですか？　」


　家に帰った私にお付きのメルドルルが珍しく聞いて来た。
　質問の意味は分かっているが、彼女からそんな事を聞かれるのは少々残念では
　あった。もっと私の事を分かってくれているものだと思っていたから。
　
　
「貴女から見て彼はどう見えて？　」


「それは……とても素晴らしいお方だと思いますよ？　」


　彼女は少し考えてからそう答えたが、それが私の答えでもあった。
　
　
「だからです。確かに素晴らしい人なのでしょう。誰からも慕われ好かれるような
　そんな殿方だからこそ私はお断りをしたの。だってそうでしょ？　誰からも愛さ
　れているような人とか存在するなんておかしいじゃない。そんな気持ち悪い事が
　この世にあっていいはずがないの。だから私は断ったのよ、私ぐらい彼を嫌いな
　存在がいないと釣り合いがとれないから。まあ、好いた相手に嫌われる程度で
　釣り合いがとれているのかは分からないけどね」
　
　
　私はいつだってバランスをとる、天秤が傾かないように。
　それがこの世界での私の生き方だから。