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さよなら
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しおりを挟むブンッ ブンッ ブンッ
身体がだんだん自分の物ではないようなそんな感覚になって来て俺は問いかけた
んだ。
「なあ、ばあちゃんよ。これに何の意味がある? 」
「けっ! そんな事を考える余裕があるのならあと30回追加だ。さっさとその棒を
振ればいいんだよガキが! 」
孫の質問に対しての答えがどう考えてもおかしいと思うのは俺がおかしいのか?
だって本当ならもっと孫は可愛がるものじゃないのか?
ヒロシなんて馬鹿みたいに甘やかされてるんだ、俺にだって少しぐらいの愛を
分け与えてくれてもいいんでないの?
そもそも俺はミチャ子にフラれて傷心なんだ。
だからこうしてばあちゃんに慰めてもらおうと思っていたのに、ばあちゃんと
きたら俺の話を聞いてそうそう奥へと消えたと思ったらバットを一本持って来て
俺に押し付けると「振れ! 」って一言。
俺も何も疑わずに言われた通りにバットを振ったけど、流石にこんな大人用の
バットなんて子供には重すぎてそうそう上手く振れはしない。寧ろバットに俺が
振り回されているような状況だった。
「ばあちゃん。今はそんな時代じゃないんだ。こんなスパルタみたいな事をする
なんてあり得ないってもんだぜ? 」
「あ゛? これだから最近のガキは。これがスパルタだとかどんなぬるま湯で生き
て来たんだろうね? この程度の事も出来ないような奴が一丁前に何を偉そうに
言っているんだ? 実際に受けた事がない奴に何がスパルタかなんて分かる訳が
ないんだよ。いいからさっさと振りな、それがビリーの今すべき事なんだから」
結局俺が何を言った所で何も変わりはしない。
ばあちゃんにはこれが正解なのだから。
ブンッ ブンッ ブンッ
「そうだ、いいぞ! その調子だ! 」
「なあ、ばあちゃん。もう少し俺がやる気が出るようにしてはくれないもんか? 」
寝転びながら新聞紙を広げて煙草を吸う、そんな姿で応援されたってやる気が
出る訳がなく、寧ろ減退する一方である。
「なんだい、まったく我が儘なガキだね。今日はカレーだよ、頑張りな! 」
そんな投げやりな……もう食べ物でつられるようなガキではない。
そもそもカレーは今日で三日目である。
「まだ文句があるのかい? まったく最近のガキときたらこれだからいけない。
アタシが子供の頃はまだ何にもなくて……」
そしてばあちゃんのいつもの昔話が始まる。
もう俺の昔話みたいな気分だった。
ブンッ ブンッ ブンッ
「ホームランも打てないような奴が恋なんて出来る訳がないだよ! 」
それがばあちゃんの口癖だった。
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