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菫川ヒイロ

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 夢なんてなかったし、どうせ叶いもしないものを思い続けるよりは現実をどう
 生きるかを考える事の方が重要な気がしていたから夢を聞かれたら伯爵になる
 事だと言っていた。まあそれぐらいの方が夢っぽくて良いラインだと思った
 かのだ、丁度いい塩梅でしょ?
 
 
 だから実際にその為の努力なんてした事は一度もないし、する必要を感じていな
 かったので何を言われた所で何も思わなかった。所詮は絵空事である。そこに
 何を期待するというのだろうか? そもそも夢なんて語らせる事に何の意味が
 あるのかが分からないのだ。
 
 
 自分の考えを伝えられるようにする為? 言ったら周りが協力してくれるように
 なる? ただ人の夢に乗っかて自己実現したように勘違いしたい? その結果が
 何か全て気持ち悪くなるものばかりだから関わり合いにならないように生きて来
 たのだ。
 
 
 出来るだけ目立たないように、地味に生きて来た。
 みんな最後に死ぬのだからこそ、浮き沈みのない人生を。
 特別な事なんて要らないから、何も無かった人生だったと終わりを迎えたい。
 それが今を生きる私の最終目標だった。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
 どうしてこうなった? 


 私の人生の中で一番の汚点かもしれないそれは勝手に始まってしまっていた。
 
 
「私はコリジアス・ミラルルを愛しています」


 それは国内の全ての人がその発言を耳にした。
 何故ならその発言をした人物が王太子だったからで、当然のように全ての
 メディアがそれを報道したのは必然だった。何せ次の国王になる者の発言で
 スキャンダルである。盛り上がらない方がおかしな話だった。
 
 
「何を言っているんだこの馬鹿は……」


 私はそのよく知った人物の発言にそう反応するのが精一杯だった。
 だってそう言ってすぐに玄関のドアを叩く音がしたからで、のぞき穴から外を
 確認すればうじゃうじゃと人が集まっていたのだ。今はシルジーダ王太子に対す
 る罵倒を考えている場合ではないという事は分かる。
 
 
 rururururu
 
 
 そして電話が鳴り響く。
 もう全てがうるさかったし、こんなにうるさい中で考え事など出来る訳がない
 のだ。だから私は何もしない事にしたのだ。考える事も止めたし、この家から
 出る事も止めた。電話も切ったし、チャイムも鳴らないようにした。
 
 
 取り敢えずキッチンに行ってお湯を沸かした。
 落ち着く為にお茶を入れる準備を始めたのだ。それっぽい食器を引っ張り出して
 きてお湯にティーバッグを入れた。何かしらお供が欲しかったので探したが何も
 無く、まあそんな物を準備しているような人間ではなかったと私は思い出し、
 とりあえずのパンを出して来たがこれではただの食事の風景だった。
 
 
 それでもういい事にして私は濃い紅茶とパンを食べる。
 もう自分でも何をしているのかが分からないけど、取り敢えず何かしていないと
 落ち着かなかったのだ。だから食事をしたのだがそれが間違いだったとすぐに
 思い至った。
 
 
 便意をもよおしたのだ。









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