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菫川ヒイロ

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 使者によって王宮へと連行された私に彼は言った。
 
 
「すまないなミラルル。大変だっただろう? 」


 シルジーダ王太子が一体どの件について私に謝っているのかは分からないが、
 取り敢えず許すという選択肢は私にはなかった。あの状況の中で私は死んで
 しまってもおかしくはなかったのだ。羞恥心というものが私にだってあるのだ。
 今まで生きてきた中でこんなにも辱められた事などなかった。
 
 
 諸悪の根源であるシルジーダ王太子。
 この人の所為で私にはもう自分の人生というものが無くなってしまった。
 今まで分相応の人生しか望んで来なかった私がどうしてこんな事になってしまう
 のかが理解出来ないが、受け入れるしかないのが現実だった。
 
 
 私はいつだって現実を生きているのだ。
 
 
「シルジーダ王太子、私は貴方と結婚するのでしょうか? 」


 今の自分の状況を確認する為の質問だった。
 
 
「嗚呼、そうだ。君は私の妻となるのだ。もちろん正室として受け入れるつもりだ
 から安心してくれていい」
 
 
 何を? とは聞かなかった。聞きたい事が他にあったから。
 
 
「シルジーダ王太子には婚約者が居られましたよね? 」


「嗚呼、もちろん婚約は破棄したよ。必要な事だったからな」


 きっと私にはもう敵がいるのだと思った。絶対に私がシルジーダ王太子を誘惑
 したのだと思っている事だろう。でも私にはそんな事をした覚えがまったくない
 し、そんな事をしても私には何の利益もないのだ。きっと婚約者にいくら私が
 説明をした所で理解なんてしてはくれないのだろうけど。
 
 
 もう私に出来る事はないのだろう。
 例えこの結婚を断る事が出来たとしてそれから私が生きていけるなんて保証なん
 てありはしない。そもそもそんな大事を私は起こしたくはなかった。私にそれは
 似合わないし、これ以上話を大きくする事に何の意味も見出せない。
 
 
 これから私がすべき事は出来るだけ静かに全てを終わらす事である。
 
 
「これから父と会ってもらう事になるが君は何も言わなくていいからな。全て私が
 答える。君が答えなければならない時は私が合図するから」
 
 
 さっそくの難題が降りかかって来た。
 というかこれからずっとこんな事ばかりなのだろうと思うと最悪の気分である。
 でももう引き返す事など出来ない、私はいろいろと考えながら最善を探す。
 どうすれば私が目立たない人生を歩めるのかを。
 
 
 国王が何やら言っている間も、シルジーダ王太子が必死に何かを言っている間も
 私はずっと考えていたけど結局の所そんな事は不可能なのだと思ったのは会話を
 している二人があまりにも煌びやかだったからだ。流石王族という事なのだろう
 けど私には一切必要の無いものを彼等は持っていて、そんな人達の中で私の様な
 のがいたら逆に悪目立ちしてしまう。
 
 
 地味だからこそ浮かび上がってしまうというおかしな現象。
 
 
 でも今更のキャラ変更はあまりにも無理があり過ぎるし、痛々しい。
 どうしてこんな事になったのかさえ聞く気さえも無くなった私にはもう流される
 ぐらいしかないのかもしれないと思った。
 
 







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