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菫川ヒイロ

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逃避行

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 たまたま目に入ったサムズアップ。
 気が付いたら止まっていて、女は勝手にドアを開けて乗って来たのだ助手席に。
 俺はえ?ってなったけど女は俺に海へ行くようにと指示をした。ただそれだけ。
 別に従う理由は俺には無かったはずなのに、それでも車を走らせてしまった。
 それだけその言葉に力があったという事なのかもしれない。
 
 
 ヒッチハイクをしている奴が居るなんてきっと都市伝説的なものだとばかり思っ
 ていたけど、実際に目にしてこうして助手席に収まっている現状からどうやら
 本当に存在するという事が分かった俺はどう対応していいのかまだ分からずに
 いたのは、その女がちゃんと人間なのかという重要な事が確認出来ていなかった
 からだ。
 
 
 まだホラー的な要素が残されている。
 そんな事が頭を過ると怖くて仕方がなかった。
 これから俺がどうなるのかが不安で仕方がなかった。
 普通、ヒッチハイクした奴って後ろの席に座るものじゃないのか?
 でもそれはそれで凄く怖い事だと思い直す。


 どうしよう。俺、死ぬかもしれない。
 
 
 死の匂いが充満する車内で俺は泣きそうになっていた。
 別に悪い事をしたとは思って居なかった。人助けのつもりだったのだ。
 否、少しくらいは邪な感情があったかもしれない……
 でもそれは、それくらいはいいじゃないか!
 みんなそれくらいの事は考えているし、やっているんだろ?
 俺にだってそれくらいは許されるだろ?
 今まで真面目に生きて来たのだ。
 だというのに、どうしてこんなにも報われない人生だったのだろうか?
 
 
 これが走馬灯?
 
 
 昔の事を次々と思い出してしまう。
 あの時、あの瞬間、その選択をしていなければ今頃は俺はこんな事になんて
 なっていなかったのにと何度も何度も思い出すのはそんな記憶ばかりだったから
 俺はもう止めた。我慢するのを止めた。
 
 
 ウインカーをだしてコンビニの駐車場に車を止めた俺は何も言わずに車を降りた。
 初めて空気が美味いと思ったのはこの時だったのをよく覚えている。
 空気が美味いなんて表現は食感が楽しいと同じぐらいの感覚で言っているのだと
 ばかり思っていたから感動したんだ。
 
 
 コンビニの中が適温だった事なんて一度も無かったのに、この時だけは適温で
 だから一応缶コーヒーを二つ買ってから車に戻った。
 出来る事なら助手席がびちょびちょになっていて欲しいと思ったが、車には
 ちゃんと人間が存在していた。
 
 
「どうして……」


 それは存在理由を問うた訳ではなかったけど、そう言う意味もあったのかもしれ
 ないと後から思い直した。
 






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