173 / 425
逃避行
3
しおりを挟む「海に行きたいからよ」
別に海でないといけない訳でも無かったけど、それでも最初にそう決めた以上は
行きたかったの。でもこのままじゃあきっと着かないと思ったから私が自分で
運転する事にしただけで。だから彼が車に戻って来た時に私はそう答えたのよ、
私の方が海に行きたい訳だしね。
拘る必要はないでしょ? 着けばいいのだし。
それに悪いと思ったの、ずっと運転させるのは。
運転する私の横で静かに座っている元運転手。
その姿はなんだか愛らしくて、
「仕事の帰りだったの? 」
だから少しだけ興味がわいたの。
「まあ、そうですけど」
でも帰ってくる言葉はそっけない。
「こういう事ってよくしてるの? 」
それでも私は諦めなかったわ。
「? 」
「嗚呼、ヒッチハイクしてる人を乗せたりしてるのかって事」
「初めてです」
「そうなんだ。その割には結構スムーズに止まったように思えたけど? 」
「本当に初めてです」
「そっかそっか。私も初めてなのよ、ヒッチハイク。本当に乗せてくれる人って
居るのね。驚いちゃった」
結局碌に会話なんて続きやしない。
そもそも私がそんなに話すような人間ではなかったから当然の結果なのだけどね。
それでもやってみようと思えたのは少しばかり私が変わって来たという事なのか
もなんて考えていたら言われたのよ。
「道、間違ってますけど海に行きたいんですよね? 」
何だかやたら木が目に入るとは思ってはいたけど、ほら防風林的なものかと
思っていたけど違ったみたいで、本当に山の麓まで来てしまってどうしたものか
と考えていたの。ここまでの道のりなんて一々覚えてなかったから、目印なんて
ものも見つけられなくて帰り道が分からなくなってしまったの。
結局何処にも行けないのかと思った私達が行きついたのはホテルだった。
*****
「ねえ、どう思う? 」
そう聞いても眉をよせるだけである。
「馴れ初めを聞いたらそんな話を聞かされてさ、ゆきづりの相手との間に出来た
のが私だったっていうそんな恋の話。もっと愛のある物語を期待していた私の
気持ちを見事に踏みにじったのよ、どう思う? 」
親からそんなぶっ飛んだ話をされるなんて普通は思っていないものでしょ?
「残念ながら僕にはそれに対する答えを持ってはいないよ。それにその話は僕に
するような話じゃないよ、姉ちゃん」
漸く口を開いた真面目な弟の返答に私は思う。
強く生きろよ、弟よ。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる