恋愛倉庫

花開く時

4

「今回は一名だ」


　そう無機質に伝えれた俺も同じように返事をする。
　
　
「分かった」


　そして俺は選ぶ事になるのだ、ここから出て行く者を。
　最初は簡単に選べた。別にここに居る者達への思い入れなんて何一つとして
　無かったから、適当に選んで送り出した。それがいつの頃からだろうか？　
　気持ちに変化が出て来たのは。
　
　
　自分がこんな下層の者達と馴れ合うなんて事があるとは思っていなかったのに、
　ここで生活をしていれば自然とそうなってしまった。無駄に知り合いが増えて
　しまった。顔と名前が一致するようになってしまった。そうなってしまえばもう
　誰かを選ぶ作業が苦痛になって来たのだ。
　
　
　確かに俺は選べる立場には居るけど、だからってここでの生活がしやすいかと
　言えばそれはまた別の話である。失格者の集まりだからこそのつながりがあった
　りするし、こんな狭い場所でも複雑だった。いっその事決めてくれればいいのに、
　選ばないといけないという仕組みが安全なはずの俺を苦しめる。
　
　
「もういいか」


　そして俺はもう考える事さえやめる事にしたのだ。
　
　
　
　
　＊＊＊＊＊
　
　
　
　
　ゆっくりと橋が下ろされる。
　ギギギギと音を立てながら何処にもつながっていない橋が止まった。
　旅立ちの時間だった。
　
　
　今回、ここから出て行く事になったのは俺だった。
　もちろん自分で選んだのだ、ここから出て行くと。
　もうここでの暮らしはいい、俺は下界へと降りる事にした。
　
　
　見送る者は誰もいない。
　誰にも伝えなかったから。
　この後の事は知らない。
　誰かが勝手にすればいい。
　俺はもうこことは関係ないのだから。
　
　
　そして俺は橋の先端まで来ると立ち止まった。
　これからどうなるかなんて分からない。
　でもここに居るよりはずっといいと思うから俺は飛んだ。
　
　
「レン！　」


　誰かの声が聞こえたがもう誰かは分からない。
　あっという間に浮遊都市アルドラバルノが遠くへと行ってしまう。
　生まれて初めて自分の故郷を見た。もう戻って来る事がない故郷。
　
　
　そして俺は落ちて行く。
　下界へ向かって落ちて行く。
　
　
　これからの未来への期待を胸に、
　また恋が出来るのかなんて考えながら、
　パッと花は開いた。