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おめでたい人

４

「ご結婚おめでとうございます！　」


　そう言われる度に不安だった。
　私は今うまく笑えているのだろうか？　と。
　はっきり言ってどうでもよかったのだ、出し物とかそんな無意味な事をされて
　誰が喜ぶのだろうか？　せいぜい苦笑い程度しか引き出せないのならそんなもの
　止めてしまえと言いたい。
　
　
　こんな結婚など止めてしまえと言いたい、自分に。
　
　
　きっかけは父親への嫌がらせだったのだ。
　何だかんだと口を出してくる父親に嫌気がさしていた私が、突然現れた彼と
　結婚しようとすぐに決めたのはそれが理由だった。だから別に相手が彼じゃ
　なくてもよかった。そう言う意味では運命の相手なのかもしれない。
　
　
　とはいえ、ここまで順調に話が進むなんて事を私は予想していいなかったのだ。
　どうせ何かしらの理由をつけて反対すると思っていたし、私はそれをきっかけに
　して家を出るつもりでいたのだが、何故か首を縦に振ったのだ。
　
　
「俺が育てた娘が選んだ相手だ、間違いなどあるはずがない」


　ここに来ての信頼されるという予想外の行動に驚いたのは私だけじゃなく母親も
　だった。
　
　
「あなた、本当によろしいのですか？　」


　父親に聞き返すなんて事を母親がするのを私はこの時初めて見た。
　
　
「お前は娘を信じていないのか？　」


「そんな事はありませんが……」


　そんな父親の問いにはそう答えるしかなかっただろう事は私も理解している。
　でも残念な事にアナタの娘はそんな信頼を得られるような娘には育っていない
　のですよとは言えなかった。寧ろ父親の気持ちが分かってしまった事が私を
　惑わす。
　
　
　その結果こんな所までやって来てしまった。
　
　
　今ならまだ間に合うと思ってずるずるとここまでやって来た私がここから
　何かを変えるなんて事は出来そうにない。だって私は彼と結婚したのだ。
　これから何が起こればこの結婚がなくなるのだろうか？
　もう波瀾はなしだ。