恋愛倉庫

おめでたい人

６

　ここまで来るのは意外と簡単だった。
　俺はあの男の言う通りにしただけだったのに、それがこんなにも簡単に俺は
　結婚する事になったのだ。
　
　
　そもそも俺がこんな所に居れるような人間ではないという事は知っていた。
　一生を汚い路地裏で過ごす、それが俺の運命なのだとばかり思っていたのに……
　
　
「お前の夢を叶えてやるよ」


　男は俺にそう言った。
　流石にそんな馬鹿な話がある訳がない事ぐらいは分かる、だからおめでたい奴
　が何かを吹いているのだと思ったんだ、その時は。
　
　
「何、大した事はしなくていいんだ。お前さんは俺の言う通りにしてくれれば
　それだけで全てはマルっとスルっと出来上がるんだから何も心配はいらない。
　どうだい、やってみる気はないか？　」
　
　
　そんな都合がいい話があるとは思えなかったが、それでもやってみようと
　思えてしまったのはこの男のやけに自信に満ちた表情が俺でも何か出来るのでは
　ないかと思わせたのだ。
　
　
　そこからはとんとん拍子だった。
　こんなにも世界は簡単だったのかと勘違いしてしまうくらいで、少しばかり怖く
　思えてしまう。
　
　
「なあに、別に大した事じゃないって言っただろ？　ここがお前さんが居るべき
　場所ってだけなんだから自信を持て。選ばれたんだよ、お前は」
　
　
　その言葉で俺は落ち着いた。
　全てを受け入れる事が出来たし、何も後ろ暗い事はないと納得出来たのだ。
　
　
　何も生まれなんて関係ない。
　育ちなんて関係ない。
　俺は選ばれるべくして選ばれたのだ。
　
　
　これでもうあんな暮らしをせずに済むし、もうさびしくはない。