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蝶は羽ばたく
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しおりを挟む「答えを聞かせてもらってもいい? 」
「正直、驚いてはいるんだ。こんな事ってあるんだなって」
私の質問に彼は手に持ったままのラブレターを握りしめたままいう。
当然そのラブレターは私が彼の靴箱へ入れたものだった。
だからこうして彼が指定した時間どおりに体育館裏に来てくれた訳で、
私もこうして思いの丈をぶつける事が出来たのだ。
答えは何となく分かっている。
でもほんの少しの可能性に私は期待していた事は嘘ではない。
「君の気持ちはよく分かったし、凄く伝わった。
でも僕じゃそれに答える事は出来ないよ」
ダメだった。
分かっていた答え。
当然の答え。
それでも何かを期待していた私の考えは甘かったのだろう。
「ありがとう」
それは本心だった。
紳士に答えてくれた彼へのお礼。
これで私も何か変われる気がした。
「その、こんな時にどうかとは思うけど。寧ろ、こんな時だからこそ僕から君に
伝えたい事があるんだけいいかな? 」
そして彼のターンが始まった。
「今朝、僕は靴箱にこの手紙が入っていた時驚いたんだ。僕みたいな冴えない奴の
所にこんなものが入っている訳ないって、何か別なものを想像した。でも手紙に
君の名前が書いてあったのを見て、嘘でもいいって思ったんだ。騙されたって
構わないって」
彼は私のラブレターに目を落とす。
「途中までは有頂天だったよ、馬鹿みたいだろ? だって僕はロバートじゃない
んだから。間違いだって気付いた時、僕がどれだけショックだったか君には
分からないだろうけど、でもすぐに納得はいったんだ。あのロバートなら仕方が
ないかなって」
そう私は間違ってしまったのだ、ラブレターを入れる場所を。
「だから僕がここへ来たのは君への仕返しで、僕の気持ちを弄んだ君への嫌がらせ
のつもりだったんだ。でも君はそんな事なんか気にする素振りすら見せずに僕に
告白した」
私だって驚いていた。
だって思っていた相手とは違う人が来て、手には私のラブレターを持っていて
そして気付いた、間違えたんだって。
「意味が分からなかった。理解するまでどうすればいいか分からなかったし、実際
理解出来ているのかも自信がない。でも僕の答えは間違ってなかったて事なんだ
よね? 」
「ええそうね」
私の告白はあくまでもロバート相手にしたもので、彼へのものではない。
だから彼の答えは真っ当だった。
「こんな事を言うなんて僕の人生で一生無いと思っていたけど、言うよ。
僕はずっと君の事が好きだった、付き合って下さい」
それは私が求めていたものだった。
機転の利く返事に、私を時めかせる告白。
そんな全てを兼ね揃えた彼に対する私の答えなど決まっていた。
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