恋愛倉庫

蝶は羽ばたく

２

　エバーに彼氏が出来た。
　はっきり言って見た目は冴えないが、彼女が言うには「最高にクール」なのだ
　そうだ。一体何が？　と聞きたい所ではあったが、彼女のその笑顔を見てしまえ
　ばその必要はないと確信出来た。
　
　
　目の前のそれが全て、なんて幸せそうなのだろう。
　私にそんな彼女は羨ましかったのだろう。
　だから少し愚痴みたいになってしまう。


「それでね、その相手が冴えない男でね。まったくといっていい程、何処がいいの
　か分からない男だったの。そもそもあの子、あんなのじゃなくてもっとイケてる
　男子が好きだったはずで、あんなの趣味じゃなかったと思ったのに。いつの間に
　趣味が変わったんだろう？　」
　
　
　そう言えばあの子、面食いだったんじゃなかったか？
　なんて恋愛遍歴をたどってみるが、明らかに今までとは違うタイプの男だったし
　エバーも今までとは違う感じがする。
　
　
「人って変わってしまうのかな……」


　そんな言葉が不意に出てしまい、でも自分は違うと言い聞かせる。
　
　
「もちろん私は違うわ、変わらない。だって貴方に永遠の愛を誓ったのだもの。
　きっとこれからも変わらないから安心していいからね」
　
　
　そんな事を言うのはきっと彼の為じゃなくって、自分の為だって事は分かって
　いるけど、それでも口にする。口にせずにはいられない。
　
　
「お嬢様、そろそろお時間です」


　メイドが私を急かす。
　分かっている、この後の予定に遅れてはいけない事は。
　でもだからこそ彼に会いに来たのだ。
　
　
「じゃあね。また来るからちゃんと待ってなさいよ」


　彼からの返事はない。
　墓標に何を言ったって言葉が帰ってなどは来ない。
　でも私はここへきて話すのだ。
　大好きだった彼が聞いてくれていると信じているから。
　
　
　そして私はお見合いの場へと向かう。
　今度の相手はどこぞのお貴族様らしいが、そんな事など関係はない。
　私はもう彼以外に誰も愛さないと決めているから。