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結局はなにも分かってなんかいない恋
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しおりを挟む木漏れ日の中を歩く私はいつもよりも少しだけ速度が遅い。
こんな気持ちのいい日に走り去ってしまうのがもったいないと思ってしまった
からだが、それにしてもとても気候がいい。
こういう日は気分も良くなるものだ。
だから鼻歌なんて口ずさんでしまった。
ルルルル~♪ 腸をぶちまけて~♪
すると向こうから老夫婦が犬をつれて歩いて来るのが見えたので、
私はすぐに歌うのを止めて何も無かったように通り過ぎようとしたのだ。
でもそんな事をその老夫婦は許してはくれなかった。
「こんにちはお嬢さん。お散歩ですか? 」
なんて声を掛けられてしまった。
何故に声を掛けて来た?
なんて思いながらも返事をする私は臆病者だった。
「はい、そうです」
私の返事に何も反応を示さない二人。
急に時間がヘドロのようにゆっくりと進む世界へと誘われた私は今すぐにでも
酸素が欲しかった。
「むにゃむにゃむにゃ」
お爺さんは何かを話していた。
ただ私が聞き取れない程の声だったと言うだけで、
会話は続いていたようだった。
でもこういう場合はどうすればいいのだろうか?
聞き返すべきなのだろうが、それはそれで失礼になるのではないだろうか?
とはいえ何も言わないと言う訳に行かない。
「ははっ」
そして私のターンに愛想笑いを繰り出した。
それぐらいしか手持ちが無かった。
ここで一発逆転の手があればいいが、そんなものは存在するのだろうか?
きっとプレミアがついてアホみたいな値段になっているだろう。
「ごめんなさいね、この人歯を忘れて来てしまったのよ。なに? え? あ?
ああ、そうね。わかったわかった」
私が聞き取れていない事を察したお婆さんがお爺さんの口元に耳を寄せる。
二人の近距離での言葉のやり取りはなかなかにダイナミックで、
胸が熱くなるものがあった。
「歌、お上手ですねって言ってるみたいよ」
鼻歌を聞かれてしまっていたという事実よりも、そんなに近距離でも確定では
ないという事実の方が私には衝撃的だった。
「あ、ありがとうございます」
「もしかして歌い手さん? 」
「まあ一応、生業にさせてもらっています」
「そう、頑張ってね」
そう言って二人は行ってしまう、犬に引きずられるようにして。
そうアレは確かジャーマン・シェパード・ドッグ。
警察犬などとしてしられている大型犬である。
あの犬の顔を見て私は不意に彼の事を思い出してしまった。
私との婚約を破棄したあの男の事を。
「そうか、あいつジャーマン・シェパード・ドッグに似ていたのね」
長年の謎が解けた気分だった。
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