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お前しかいない
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しおりを挟む撮影が始まってからというもの、罵声を浴びせられる日々に
正直もう俺は限界を感じていた。
自分の演技を否定され続けるのはとても辛い。
どうして俺がこんなに目に遭わないといけないのだろう?
そんな言葉が頭をよぎってしまえばもう、続ける事なんて出来ない。
これで最後にしようと思っていた矢先に
「やれば出来るんじゃない! 」
と渡辺さんから言われ、その時の嬉しさときたら、
漏らしてもおかしくないくらいの幸福感。
ドーパミンはドバドバと零れ出る程の量が分泌され、許容量を超えた。
何せ、あの渡辺さんからのお褒めの言葉が頂けるなんて
俺はその一言で今までの全てが吹き飛んでしまって
ヤバい、何だろうこれ、完全に胸がときめいていた。
*****
ようやくあの日々が戻って来た。
あの苦しくてどうしようもない日々の中で生まれる快楽。
確かにそこに現れる私じゃない私が動き出すこの感覚。
これを知ってしまったらもう戻る事なんて出来やしないのだ。
でも私一人ではそこへは至れないのだ、今はまだ。
私にには栄ちゃんが必要である、私には。
「千里、まだ違う。そこはそんな言い回しはしないよ。
絹江はもっと繊細なんだよ感覚が、だから… 」
「分かった分かったから、それ以上はいいわ」
栄ちゃんに導かれながら私はどんどんお話の主人公になって行く。
こうなってしまえば撮影はすぐに終わっている事が多い、
時間の感覚が変わってしまうからだ。
「はい、カット。今日はここまでです。お疲れ様でした」
栄ちゃんが言ってようやく私は気づくのだ、これが現実ではなく
偽物の世界だったのだど。
そして私は、絹江ではなく渡辺千里なんだと理解する頃には
自分の部屋に帰って来ている。
私はベット上に仰向けになって天井をぼんやりと見つめていた。
脱力感がある中で天井に右手を伸ばし、ギュッと握りしめる。
「決めた、私には栄ちゃんが必要なんだ」
決心してしまえばなんだか急にお腹が減ってきたのでリビングに向かう。
「今日のご飯何? 」
「何って見れば分かるでしょ、ってあんた何かいい事でもあったの? 」
「えっ、いや、別に」
母親に言われて、私はそんなにも浮かれているのかとちょっと恥ずかしく
なってしまい、また自分の部屋へと戻ってしまった。
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