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お前しかいない
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しおりを挟む「三田村」
偶然にも三田村とばったり会う事になってしまった。
反射的に呼び止めてしまった形になってしまったが、私はこいつと
話した事なんてあっただろうか?
「なんや渡辺さんかいな、急に名前呼ばれたから誰かと思ったわ。
こんな所で会うなんて珍しい事もあるもんやで。ほな」
三田村はそのまま自然に行ってしまおうとするが、それでは私が困る。
「ねえ、駅ってどっち? 」
「あっちやけど。なんや道迷たんかい、気つけて帰りや」
三田村に教えてもらった方向へ行けば、ちゃんと駅があった。
まあ当たり前なのだけど……これでやっと帰れる。
そう思うと気が緩んで乗り越した。
*****
「ねえ鈴、私ね気づいたの。どうやらポンコツと話してたみたい」
「うん、知ってるよ? 」
千里が何故だか知ってることを真面目に話して来て気持ち悪い。
そもそもそれは私が教えてあげた事なのに、何を今更言っているのか
本当におかしくなってしまったのかも知れない。
「違うの、昨日家に帰って考えてみたけど、私はポンコツと話してた
訳じゃないのよ! 」
千里がいよいよマジでやばいかもしれない。
怖い、怖い、何だか寒気もしてきた。
「私は香川と話してたのよ、私は絹江でね。でも周りからはそうは
見えないでしょ? 鈴には私がポンコツと話しているように見えて
たかも知れないけど実際、あれは私じゃなくて絹江なのよ!
分かってくれた? 」
千里が言いたい事は自分は役になりきっていたので、ポンコツの事も
相手役として話していただけで、決して仲がいい訳ではないという事を
言いたいらしい。私に言われてよっぽど嫌だったのだろう、何だか
悪い事をしてしまったようだ。
「分かった、分かった。ごめんね、私が悪かった」
だから、ちゃんと謝っておいた。
何となく言った事が意外と相手を傷つけてしまう事ってあると思う。
千里にとってはポンコツと仲がいいと言われた事がそれだったのだろう。
まあ確かに、私も言われたら嫌な気持ちになるだろうしなと今更反省した。
それにしても、千里はいつの間にそんな事になっていたのだろうか?
他人になりきるとか、私には怖くてそんな事は出来そうにない、
でも、それが出来てしまうのが役者という生き物なのかもしれない。
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