この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

64サセックス領の暴動（改）

今日は楽しい感謝祭！
一年の作物の実りがたくさんあったことを神に感謝する日！
子供も大人も今日だけは日ごろの憂さを忘れて祭りを祝おう！
家々ではご馳走を作りケーキを焼き今日この日を祝う！
通りはだしを出して練り歩き厄払いをしよう！
今日この日を祝う感謝祭、毎年なら通りに屋台が列をなして並び、大人も子供も屋台の料理を買い求めほおばるのに、今年はどうしたことだろう。
屋台があまり出てないよ、とおりがいつもより見物人が少ないよ、それでも人々はひそやかに興奮を秘めているよ。
もうすぐ暮れ六つが鳴る。
教会の鐘が暮れ六つの鐘を突くよ。
さあ、始めよう、真なる祭りの始まりだ。
日頃の領主への恨みを込めて俺たちは決起する！
あるおかみさんは麵うちぼうを根棒代わりにもち、隣のおかみさんはフライパンをかかげ、
ある旦那は鍬を抱え、ある冒険者はそれこそ剣を腰に差し赤々と燃えるタイマツを掲げていた。
さあ始めよう、真なる祭りの始まりだ、目指すは領主邸そして領主一家の首、神への供物として人でなしの領主一家の首を切り落とし、領主邸の壁の上にさらし首としよう。
今日この日に領主一族への恨みをはらそう・・・・・・さあ祭だ祭りだ、これから本当の祭りが始まるよ・・・・・・・・・・・・・



「暴動、いやこれはもう民の反乱と言っていいわね。」
サセックス領領主夫人ルーシーはすっかり農夫の女将にすがたをかえて、藁をたくさん乗せた幌馬車の荷台に揺られていた。幌馬車やら農夫の女将の恰好などを用意したのはミュラー領主ヘンリー・ミュラーであった。馬車の御者と隣に腰かけてる農夫はミュラー家の密偵達であった。彼らは剣の腕も体技にも優れており、こういう時は格好の人選であった。
荷台には他にルーシーの侍女であるカミラや、おつきの護衛騎士達二人が剣を藁の下に隠し、これまた農夫の青年達の恰好をして二人乗っていた。
さすがに氾濫軍の群れを通り過ぎるときは全員が緊張した。ルーシーとカミラは生まれて初めてといって位緊張し背中にはびっしょり冷や汗をかいたのである。護衛の騎士たちは藁の下に隠した剣がいつでも抜ける状態に手を床に置いていた。
どうかこのまま通り抜けますように・・・・・ルーシーは生まれて初めてといって位、神に必死に祈った。
暴徒の群れを無事通り越し、町の検問を無事突破したとき彼ら全員ホーと安どの息をはいた。
後は各村々の反乱軍に巻き込まれないようにして一路サセックス領を目指すのだ。
途中彼らは夜のとばりが降りる頃、野宿するために馬車から降り焚火を囲い、御者が素早く料理した熱々の肉と野菜の入った具だくさんのスープを飲み、パンをかじる。
焚火のはじける音を聞きながらルーシーは今後を考えた。
彼女は逃げるとき宝飾品を持ち出してきた。これを換金すればある程度の金になるだろうが、その先どうやって生活を立てるべきかルーシーは考えた。
こういう時貧乏貴族家のうまれの自分は、裕福な貴族家の令嬢と比べ生きるために生活する力があるわねと思った。ミュラー家で雇ってもらえるかわからないけど侍女もやれる。
市井に生きることになるなら料理人やウエートレスもいい。ま、何とかなるでしょと彼女は
楽観的に考えた。
食事を終えると見張り番の騎士を除き、馬車の荷台の藁の上に身を横たえ毛布をかぶる。
そういえば私って野宿は初めてなんだわとルーシーは思った。

＜そもそも王都から出たのは、結婚することが決まってサセックス領に向かった時が初めてだった。あの時はこんなことになるとは夢にも思っていなかったわ。＞

＜今頃屋敷は暴徒たちに襲われ、夫と愛人は塀に仲良く首をさらしてるのかしら。もし私がミュラー領主様に助けを求めなければ私もそうなっていたかもね、このさきどうなるかはわからないけどこの世に生まれた限りは生きていかなくちゃね、そういったのは死んだお母様だったかしら・・・・・・・・・・・ねむ・・・・スー・・・・・・・・＞



その日の夜、2００年の歴史を持つサセックス家は、暴徒たちによって襲撃され、残された領主一族は騎士たちの反乱も加わり全員首を切り落とされ、屋敷のめぼしいものは収奪され屋敷は火をつけられて焼け落ち、ここにサセックス家はほろんだのだった。



翌朝鳥の鳴き声で目を覚ました彼らは、食事を終えるとミュラー領の領都屋敷を目指して馬車を足らせた。



その日のうちにはこのことは、近隣の領主や領民の知ることとなり、衝撃を持って受け止められるのであった。