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第二章 冒険者編

第十九話 攻略完了

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 俺たちはこのダンジョンの最深部と思われる場所のすぐ手前に到着した。
 ここからはいわゆるボス戦。
 今までの魔獣モンスターとは比較にならない強さだろう。

 適度な緊張が体を震わす。

「ふぅ・・」
 少し荒ぶる呼吸を落ち着けるため大きく息を吐く。

「それじゃあ、準備は良いね」
「・・・はい」
 先導するツバキに返事を返す。

 初めてのボス戦で不安がないと言ったら嘘になる。
 だがこダンジョンを通して、今の俺にはこんなにも心強い仲間がいるんだって再確認できた。

 ・・・よし、大丈夫だ。
 武器を握りしめ、ツバキを先頭に最深部の部屋に入る。

「これは・・・」
 辺りを見渡すと今までの通路のような場所と違い、ここだけ広い空間になっていた。
 Theボス部屋という雰囲気だ。

 しかし、肝心のぬしとやらの姿が見えない。

「一体、どこに・・・」

「カイン気をつけろ!」
 ツバキの声に反射で反応し、咄嗟に回避の行動をとる。

 ズドンと、突如地面から多量の土埃が舞う。

「なっ!」
 何とか受身をとり、体勢を整える。
 さっきまでいた場所をみると、そこには透明な糸の束が降り注ぎ、地面をえぐっていた。


「カインさん、大丈夫ですか!」
「はい、なんとか・・それより」

 ばっと天井を見上げると口からキラキラと輝く糸を垂らしながら、鋭い顎同士をバチンバチンとぶつける生物。
 巨大な蜘蛛型の魔獣モンスターがそこにいた。

 その魔獣モンスターは自分の居場所がバレたことを悟ると天井から八本の足を離し、一回転して地面に着地する。

 『シャーーー!!!』

 モンスターの強烈な威嚇が全体に響き渡る。

 人の身長を優に超えるであろう大きさ。
 体高だけで三メートル近くあるだろうか。

 そして、あの大きな顎。
 挟まれたら、ひとたまりもないだろうな・・・
 想像しただけでその恐ろしさに鳥肌が立つ。

「これがこのダンジョンのボスモンスター・・・」
 一気に緊張が走る。

「いくよ!」
「・・・はい!」
 ツバキが先陣をきり、その掛け声に続くように俺も飛び出す。

 すると、それに合わせてモンスターも飛び出してきた。

「なっ、回避!!」
 ツバキの指示に合わせてそれぞれ左右に避ける。

「グラジオさん!」
 俺たちを通り過ぎていったモンスターは後衛の三人のもとへ。

「大丈夫です。任せてください」
 二人の前で盾を構えるグラジオ。
 猛烈な勢いのままモンスターはそれに向かって突進するが・・・

「ふん!」
 ゴーーーン!!と烈しい轟音とともに、何倍もある巨体を半分にも満たないその体でグラジオは一歩も動かず停止させてみせる。

「バケモンかよ・・・!」
 ツバキの言う通り、その光景をみた俺達からしたらどっちが怪物かわからなくなりそうだ。

 でもおかげさまで、微動だにしない巨体に向かって思い切り剣を振り下ろすことができる。

「くらえ!」
 渾身の一撃は確かにその大きな体に直撃する。

 が、しかしそれは『カーーン!!!』と甲高い音とともに弾き返された。

「かっ、硬すぎる・・!」
 異常な魔力密度の中成長したモンスターの外骨格は、少年の非力な力では傷一つ付けられない程の硬度を身に着けていた。

 それによって体勢を崩した人間を補足したモンスターは照準を合わせ、もう一度突進する。

「やばっ!」
 空中だと体勢をうまく戻すことができない。
 このままだと、直撃する・・・!

「カイン!!」
 その様子を見ていたツバキが跳躍してそのままカインを抱え、なんとかその攻撃を回避する。

「あ、ありがとうございます」
「ああ気にするな。そんなことより、だ」
 ツバキは俺を抱えたまま地面に着地し、投げ捨てるように俺を下ろす。

「あの機動力を封じなきゃ、だな」
 確かに、あの巨体でああも動き回られてはこちらの攻撃も十分に狙いを済ませられない、

「それなら狙うはやっぱり・・・『足』」

 あのモンスターの体全体は外骨格に覆われていて、下手に攻撃しても防がれてしまう。
 しかし、足だけは可動域を確保するためにところどころ覆われていない部分が存在する。
 そこなら俺の斬撃も通るはず。

「そのとおり!それじゃあもう一回仕掛けるよ!」
「はい!」

 タイミングを合わせて一斉にもう一度飛び出す。
 蜘蛛は接近してくる俺を確認すると次はその大きな顎を開いた。

 それに気づいたツバキは急いで指示する。
「飛び道具!」

 その言葉通り、蜘蛛の口からは数多の糸が弾幕のように発射された。
 なんとか左右に避けながら着実に距離を縮めようとするがあまりに数が多すぎる。

 避けきれないものはツバキは切り落とそうとするが、
「やば、ネバネバして切れない!」
 ツバキの刀にネチョっとくっつく白い糸。
 その粘着力はいくら振ってもびくともしない程。

 俺に対しては、
「くっ、硬い・・」
 剣で弾くたびにキンキンと金属音が鳴り響く。
 ツバキに放たれた糸とは違い、こちらのはさっき地面を抉ったものと同じ、鋼鉄並みの硬さを持つ銀色の糸。

 弾幕の中に二種類の糸が混ぜられていて下手に防ぐことができない。
 だからといって無理して近づこうとすれば俺たちが一方的に蜂の巣にされる。

「くっそ、近づけさせてくれない」

 あまりの数に、こちらは避けるので精一杯だ。
 このままじゃ、攻めるどころじゃない。

 一体どうすれば・・・

「任せてください!!」
 その声に気づき、ばっと振り向くと、杖をかざすモモと両手を前に出して魔力を貯めているミリアの姿。

「こういう系は炎に弱いのがお決まりなんですよ!」
 モモの合図とともに2人の背後に無数の火の玉が生成される。
 それも、広い壁一面を覆い尽くすほどに。

「弾幕には弾幕です!」

「いきます! 上級魔法 フレイムバレット!!」
 2人の声が重なって放たれた魔法は中級のさらに上、上級魔法。
 俺ですらまだ扱うことのできない、優れた魔術師にしか使えない高威力魔法。

「すげえ・・・」

 詠唱にあわせて、背後に現れていたいくつもの火の玉がボスモンスターに向かって発射されていく。
 糸と火の球がぶつかることで発生する爆発音と共に、次々に白い弾幕は赤い弾幕に侵食されていった。

「よし、これなら・・!」

「キシャーーー!!」
 と、そのまま火の球が直撃し、モンスターがひるんだその瞬間。
 俺とツバキは一気に距離を詰める。

 そして、
「はああああ!」
 と二人から放たれた狙いすまされた一撃はモンスターの前足を切断してみせた。
 突如、支えるものが無くなったモンスターの体は崩れ落ち、大きな顎をもつ頭部もそのまま地面に着地する。

「それでは、トドメは私が」
 ミリアとモモの防御に徹していたグラジオも、いつのまにか俺とツバキの後に続いていた。

 でもそのモンスターは、あの硬い外骨格に包まれている。
 ただの斬撃じゃ、さすがのグラジオさんでも難しいんじゃ・・・

 そう考えているのはお見通しだったようだ。
 俺の方を見ながら、爽やかな笑みを浮かべる。

「そんなカインさんにひとつ技を見せましょう」
 グラジオは剣に手をかざす。
 するとそのかざした部分から刀身が緑色のオーラに包まれていく。

「これは『剣気』と言って、剣に魔力を纏わせる技なんですが」
 そう言って一振。

「シンプルイズベスト。最強の技と言っても過言ではありません」

 十二分の魔力濃度で異常に硬く育っているはずのボスモンスターの外骨格は先程、俺の斬撃を弾いたとは思えないほどに、いとも簡単にそれも綺麗に。

 両断されてしまった。

「まじかよ・・」
 俺とグラジオの実力の差を思い知らされた。
 俺が苦戦したあのモンスターを一撃で倒してしまった。
 たとえ足がない状態だったとしても、それでも俺には倒せなかった。

 グラジオ、それにツバキの本気は一体どれほどなのか。
 今の戦いでもこの二人だけは俺らに合わせて戦ってくれていた感じがした。
 一体二人はどれだけの力を秘めているのか。
 ・・・想像すら着かない。

 すこしでも勝てるなんて思った以前の俺を殴ってやりたいな。

 天を仰ぐように大の字で地面に寝転がる。

 ま、でも今はとりあえず・・・

「これで、攻略完了です」

 この喜びを噛み締めよう。

 ///

 戦闘が終わり、俺たちは少しの休憩を挟んだ後。
 冒険者恒例の素材採取が始まった。

 蜘蛛の魔獣の死骸を割くと中から紫色の血液が溢れ出てくる。
 毎回この作業が嫌なんだ。
 手にその液体が付着するたび、吐き気がしてくる。

 モモとミリアは早々にリタイアし、当初の目的であった魔力効率の高い金属を含む鉱石『タイト』を採取をしている。
『タイト』は戦いの場となった広い空間に点々と生えており、見つける度に掘るといったように行っている。
 そちらは二人に任せるとして。

「よし、それじゃあ・・」
 ぶすっと死体の中に手を突っ込む。
 変な感触が手全体を覆っていて既に抜きたい・・・
 急いで手探りで探していると硬い物体があったので思い切り引き抜いてみる。

 ズボっ・・・
 生々しい音と共にそれは引き抜かれた。

「お、なかなかの大きさじゃん」
 俺が引き抜いた物体は、ツバキはそう言うが、俺からしたら過去に見たことがないくらいに大きい魔核だった。
 モモの杖にはめられているものと同じくらいだろうか。
 拳大くらいは超えるだろう。

 今までに倒した魔物からは絶対取れないサイズ。
 このダンジョンを攻略したんだと改めて実感する。

 離れ離れになったときは一時はどうなることかと思ったけど、結果的にはすごく成長できた時間だったな。

「こっちも終わったみたいですね」
 そんな余韻に浸っていたら、グラジオがこちらに向かってゆっくり歩いて来た。

「二人も既に終わったようですし・・・」
 グラジオが見ている方を見るとバックいっぱいの鉱石を持ったミリアとモモの姿。
 顔に土がついているのにも気づいてない様子だ。

「ダンジョンは帰るまでがダンジョンですからね」
「はい」

 素材が詰まった袋を背負って俺たちは、ボス部屋を後にするため、もと来た道を戻ろうとしたときだだった。

「ん?あれは・・」
 入口付近に生えているタイトの中に一つだけ、他とは明らかに違う鉱石があった。

 近寄ってみるとそれはタイトの橙色とは違って透明な比較的小さい鉱石だった。

「これって・・」
「お!『ミスリル』じゃん。カインよく見つけたね」

 後ろから師匠がこの鉱物の正体を言う。
 ミスリルって、たまに小説とかで聞くやつじゃないか。
まさかこの世界でも同じ様な物あるとは。
 いや、ドラゴンがいるならいてもおかしくないか。

「カインさんすごいじゃないですか!」
ツバキに続いてグラジオも駆け足でこちらに向かってきた。

「これは鉱石の突然変異でできるものなので滅多に見つけることができないんです」
グラジオいわく、手の平に収まる程度しか生えていなかったが、それでも十分珍しいものらしい。

「ミスリルは異常なまでに硬く、武器に使えば絶対に折れることはないことで有名なんです」
「それならグラジオさんが使ってみてはどうですか」
「いえ、私は今使っている武器が気に入っているので、ぜひカインさんが使ってあげてください」

 武器の損耗が激しいグラジオにぴったりだと思ったが、すんなりと断られてしまった。

「ツバキさんもそれでいいでしょうか?」
「ああ、もちろん。こういうのは見つけたやつのもんだからな」

 まあ、グラジオと師匠がそう言ってくれるなら、ありがたく使わせてもらおう。

 こうして、想定以上の収穫を得て、俺たちは今度こそボス部屋を後にした。

 ///

 来た道を戻るように歩いて数時間。
 通路の先にまばゆい光が見えた。

「外だーーー!」
 最初にこのダンジョンに入った入口から、俺たちは大量の荷物を持って倒れこむように外に出た。

 入ったときの倍以上の荷物量のせいと、ただでさえ疲労が溜まっているのもあいまって、帰りは俺とミリアはもうぶっ倒れる寸前だった。

 道中の魔獣と主の素材に当初の目的の『タイト」。
 そしてたまたま見つけた『ミスリル』

 ミスリルは良いとして、まだ七歳のガキにこんな重いものを大量に持たせてはいけないと思う。
 まあ、俺達の倍以上持っている他の三人にそんなこと言えるわけないけどね・・・

「一刻も早く宿に戻りましょう」
「賛成です」
 うつ伏せに倒れている俺とミリアを見て、爆笑する三人。

 すると師匠が何やら荷物からゴソゴソとものを取り出す。

「そういえば、カイン。忘れ物だ」
 そういってひょいと師匠が投げたものを受け取る。
 確認するとそこには赤色の甲羅のようなものが。

「これって・・あの時の変異種の!」」
 それは調子に乗った俺を成敗した変異種のキラーアントのものだった。

「変異種の素材は武器や防具にするには最高級だ。
 戒めの意味も込めて使ってあげるんだな」
 ツバキはケラケラ笑っているが自分としてはなんとも複雑な気持ちだ。

「わかりましたよ・・・」
 その反応を見てくすくすとミリアが笑う。
 それを見て、ふと俺も釣られて笑ってしまった。

「さ、いきましょうか」
「はい!」

 こうして、俺たちは無事五人揃ってニースに戻るのであった。
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