黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実

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第8章 告白

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 浩大は後ろポケットから長財布を取り出し、札入れの隙間から四角い包みをつまみ出す。アルミ箔にうっすら丸い輪郭が浮かんでいて、見慣れない僕には妙に生々しく見えた。

「とりあえずこれやるわ。財布にでも入れとけ」

「え?いや、今日財布持ってきてないし……」

「はぁ?ほんと間が抜けてんな……年上カレシやっつけたんだろ?あとは河西さんを放課後誘って、自販機で飲み物奢って、そのまま家でよろしくヤる流れ——」
「ちょッバカ声がデカいって!」

 慌てて教室を振り返る。幸い、彼女の姿はまだなかった。けれど、もし戻ってきていたら……危うく全部丸聞こえだ。深くため息をつき、貰ったゴムはひとまず何も入っていない左ポケットへ。ハンカチを取るときに落としたら最後、学年集会は確定。副会長の僕だとバレたら……考えるのも嫌だ。

「にしてもよ。結局立石さん、どこ行ってたんだろうな」

 今度は浩大がポツリと呟き、教室に視線をやる。

「お前の話を聞くに、家族の用事だろうが……身内の話はあまりしたくないって言ってたし、ちょっと訊き辛えな」

「あっ、そうなんだ……」

「おお。それこそプールで聞いたんだが、何でも婆ちゃんとは市内に引越してから一度も会ってないらしいぞ」

「……へっ!?」

 思わず声が裏返り、ベランダに響いた。何事かと隣のクラスの数人が壁越しに顔を覗かせてくる。

「あ、今の話、黙っとけよ?口止めはされてねえけど、本人も深入りされたくないだろうからな」  

「あ、ああ……」

 胸の奥がざわついた。会う機会が少なくても、お母さんが亡くなった時には一度くらい顔を合わせているはずだ。それなのに、未だに会っていないだって……?彼女にとっては、数少ない家族で、しかもお婆ちゃんはずっと独りで暮らしている。僕なら心配で、放ってはおけないけど——。

「ま、とにかくだ。ばっくれた理由が家庭の事情なら全然問題ねえ。それよりも、俺としては告白のタイミングを逃した方が痛い。今週末はテスト直前だから遊ぶの厳しいだろうしな。……あ、テスト勉強って名目でウチに呼ぶか!」

「いや……絶対やらないよな?」

「あ?そりゃ勿論やれたらよ」

 何とも曖昧なやり取りの後、僕らはしばらく一昨日のことを語り合った。いつも朝ギリギリに登校する僕らが、こうしてのんびり話すのは新鮮だった。でも、僕も浩大も、これが目的で早く来たわけじゃない。特に浩大にとっては、今日が大事な場面になるはずだ。ヤツの立場なら、どんな表情で、どんな言葉を選ぶんだろう……僕には分からなかった。

 ところが、そこから事態は思わぬ方向に転がった。彼女が——朝読書の時間になっても、朝礼が終わっても、一向に姿を見せない。そのまま時間は過ぎていき、気づけば昼休みに入っていた。


 胸の奥に不安がじわじわ広がっていく中、僕は眠気に沈みかけた頭で、昨日の別れ際のやり取りを思い返す。


『私教室に忘れ物あるから、先に出てて』

『まだ自習はするの?』

『もちろん。いつも閉館まで居るから』

『そっか。……僕も何か持ってくればよかった』

『ふふ。じゃあ今度で勉強する?』

『い、家!?それは、麻美ちゃんの……?』

『そんなわけないでしょ。明希君の家か、或いは……』

『或いは……?』

『……ま、それはまた今度決めよ。そろそろ戻らないと、荷物が心配』

『あ、一応心配にはなるんだ』

『……一応ねっ。じゃ、また明日』


 あの「また明日」に嘘はなかったと思う。だから、そういう意味では一昨日のような心配は必要ない。必要ないが——昨日の通路での話を聞いた手前、来てない理由が“負の感情”だと予想できてしまう。それなのに、僕は何もしてあげられない。ただ黙って待つしかない。その無力さが、ただただ嫌になった。


 やがて、ぼんやりした意識の底に、五限目のチャイムがうっすら届く。




「明希くん、明希くん!」

 前の席から聞こえてくる栞ちゃんの声で、ハッと目が覚めた。少し急かすような響きだったから、てっきり寝過ごしてクラスの注目を集めているのかと思った。

 けれど、違った。

 開けた視界の中には、栞ちゃんと、その隣に——麻美ちゃんの姿があった。

「あ、麻美ちゃん!?」

「ふふ。おはよ」

 彼女は小さく笑って、それから何事もなかったように席へ向かって歩いていく。どうやら僕は、重要な瞬間を見逃したらしい。

「麻美ちゃん、今来たの……!?」

 慌てて尋ねると、彼女はコクリと頷いた。

「何か話した?」

「『一昨日はごめんね』って」

「そっか。……浩大とは何か話してた?」

「いや、私も最初気づかなくて……でも、私も同じこと訊いたら『あとで話す』って言ってた。だから、少なくとも言葉は交わしたんだと思う」

 いつもの調子なら、僕の目の前には浩大もいて、僕を叩き起こしたのもヤツだったと思う。でも、その当人は何故か机に座ったまま、腕を組んで天井を見上げている。何かを考え込むような、そんな素振りだ。遠目に映る二人が醸し出す雰囲気は、先ほどとは違う不安を僕に抱かせる。二人が一体、何を話したのか。
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