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第2章 佐野家
倉庫
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足を踏み入れると、地面がパキパキと音を鳴らした。暗くて見えないけど、感触でこれは落ちた枝だと分かる。しかも、一歩、一歩進む度にその音がひたすら続き、まるで手入れされた様子がない。
他の場所があれほど整備されているのだから、ここは怠っているというより、わざと手入れをしていないのだろうか。んー、でも何故……防犯上?
「あっ、怪しいのみっけ」
いつの間にか前を進むサクラが見つけたのは、俺が外に目を向けた時点であるだろうと見越していたものだ。ここまで無かったから少し不安にはなったけど。
「一、二……三つか。この家の大きさにしては少ない気もする」
それは、壁側に二つ、向かいの木に隠れるように一つ、人がギリ二人入れそうな大きさの物置。仕舞うとすればここだろう。
「アンタは手前ね。私は奥」
返答をする間もなく、サクラは豪快に扉を開けた。キーキーと錆びたレールが音を立て、勢い余ってガコンッと端にぶつかる。
そんなに乱暴に扱わなくても……なんて思った俺がどうやら浅はかだったようで、多少力を入れる程度ではびくともしない。錆びたレールに加え、ローラーがもはや機能していないみたいだ。劣化で軸が固まってしまったのか、かなりの年季を感じる。
両手で綱引きのように引っ張り、ようやく半開したところで脚を使い、やっと全開に持っていったのも束の間。その労力を返せと言いたくなる程に中身は平凡だった。
「これは……竹箒と、熊手……」
愛らしいペットのように胸元に向かって倒れてきたのがまた憎たらしい。まとめて外に放り出すと残ったのは大きいショベルと塵取りのみで、これは実質倉庫を装ったただの掃除道具入れだ。
まあまあ、落ち着け……冷静になれば至極当然か。こんだけ庭が広いんだから、掃除道具もこれくらいないと寧ろ不自然だ。
「サクラの方はどう?」
サクラはさっきから何やらポイッポイッと物を外に投げ捨てては物色を続けている。紙箱が落ちる音やバケツが転がる音、米袋でも落としたのかドサッと重たい音まで。
「小物がめちゃくちゃ多い。魚の餌みたいなのとか、麦わら帽子、踏み台、肥料っぽいやつ、スコップ、鎌、ジョウロ……でも、めぼしい物はなさそう」
「んー、なんか惜しい感じはするけどなあ……ハズレっちゃあハズレか」
「アンタの方は掃除道具だけ?」
「残念ながらね」
……となるともう、残ったこの倉庫に賭けるしかないな。
木に隠された最後の一つ。もしここに何もなければ、また家の中に入って一から探し直し……いよいよ、直近で現実に帰れない可能性が現実味を帯びてくる。
そろそろアッチがどうなっているのか心配だぞ。浦島太郎みたいな状況だけは勘弁してくれと願うばかりだ。
「あれ、開かない」
「そっちも錆が酷いのか?」
「いや、そんなんじゃ……なんか開きそうなのに引っかかってる感じ?」
「ちょっと代わってくれ」
取っ手を引くと、確かに錆とは違う感触で、何か不自然な引っかかりを感じなくもない。しかも、下からというよりは上から——
「マジか……」
「え?どうした?」
「これ、また鍵付いてる」
「……はあ!?」
サクラが言う声の方に手を伸ばすと、ブラブラとした金属の塊が指に触れた。出っ張った鉄に通されたU字のシャックル、ゴツゴツとした本体部分……残念ながらこれは、ダイヤル式の南京錠に間違いない。
「嘘だろ……どうなってんだこの家は」
「机の鍵があるかもしれない倉庫の鍵の番号を今度は探せって、中々面倒くさい展開ね」
「いやさあ、バイオの警察署の謎解きじゃないんだからさあ……」
「……アンタは一体何の話をしてるの?」
触った感じダイヤルは四桁で構成されている。細かく凹凸が分かれていることから、恐らくこれはしっかり『0』から『9』まで番号があるタイプ。組み合わせの総数は十の四乗だから、一万通り……当てずっぽうでは絶対無理だ。
「それにしても、何だか妙よね。私ら見事に謎解きのルートに入ってない?トシの新居からずっと」
「だからバイオみたいだって言ったんだよ」
「いやだからそのバイオって何よ」
いや、言われてみればそうだ。サクラの言う通り……俺たちは遠回しに動かされている。
まるで、この時代?世界?の酒の所持者が、俺たち部外者からそれを隠すように。
でも、あくまで『遠回し』なのが何処か引っかかる。……待てよ?部外者とは言っても、本当の部外者、つまり佐野家の人間じゃなければ現我が家を訪れることなんてまずあり得ない。そういう意味では、部外者から隠すことには成功しているのか。
んーしかし、根本的に隠す理由が無いよな?もしかして、自分が何処に隠したか忘れた時用にヒントを残した……?それはちょっとバカっぽいぞ。あーいや、こっちの世界では現実の記憶が曖昧になっている部分もあるから、あながちなくもない。実際、俺も来た直後は思考がフワフワしていたし、ここ最近の現実での会話とか、思い出せないところもある。
いや、でも違うな。この異世界が現実にリンクしているとすれば、隠そうとしているのは多分現実の部外者に対してだ。そう解釈する方がまだシンプルでしっくりくる。前説はあくまで副次的な意味合いに過ぎないだろう。
あれ?そうなると……この時代の所持者で、実質この世界の主導権みたいなものを握っているのは……トシのお父さんってことにならないか——
他の場所があれほど整備されているのだから、ここは怠っているというより、わざと手入れをしていないのだろうか。んー、でも何故……防犯上?
「あっ、怪しいのみっけ」
いつの間にか前を進むサクラが見つけたのは、俺が外に目を向けた時点であるだろうと見越していたものだ。ここまで無かったから少し不安にはなったけど。
「一、二……三つか。この家の大きさにしては少ない気もする」
それは、壁側に二つ、向かいの木に隠れるように一つ、人がギリ二人入れそうな大きさの物置。仕舞うとすればここだろう。
「アンタは手前ね。私は奥」
返答をする間もなく、サクラは豪快に扉を開けた。キーキーと錆びたレールが音を立て、勢い余ってガコンッと端にぶつかる。
そんなに乱暴に扱わなくても……なんて思った俺がどうやら浅はかだったようで、多少力を入れる程度ではびくともしない。錆びたレールに加え、ローラーがもはや機能していないみたいだ。劣化で軸が固まってしまったのか、かなりの年季を感じる。
両手で綱引きのように引っ張り、ようやく半開したところで脚を使い、やっと全開に持っていったのも束の間。その労力を返せと言いたくなる程に中身は平凡だった。
「これは……竹箒と、熊手……」
愛らしいペットのように胸元に向かって倒れてきたのがまた憎たらしい。まとめて外に放り出すと残ったのは大きいショベルと塵取りのみで、これは実質倉庫を装ったただの掃除道具入れだ。
まあまあ、落ち着け……冷静になれば至極当然か。こんだけ庭が広いんだから、掃除道具もこれくらいないと寧ろ不自然だ。
「サクラの方はどう?」
サクラはさっきから何やらポイッポイッと物を外に投げ捨てては物色を続けている。紙箱が落ちる音やバケツが転がる音、米袋でも落としたのかドサッと重たい音まで。
「小物がめちゃくちゃ多い。魚の餌みたいなのとか、麦わら帽子、踏み台、肥料っぽいやつ、スコップ、鎌、ジョウロ……でも、めぼしい物はなさそう」
「んー、なんか惜しい感じはするけどなあ……ハズレっちゃあハズレか」
「アンタの方は掃除道具だけ?」
「残念ながらね」
……となるともう、残ったこの倉庫に賭けるしかないな。
木に隠された最後の一つ。もしここに何もなければ、また家の中に入って一から探し直し……いよいよ、直近で現実に帰れない可能性が現実味を帯びてくる。
そろそろアッチがどうなっているのか心配だぞ。浦島太郎みたいな状況だけは勘弁してくれと願うばかりだ。
「あれ、開かない」
「そっちも錆が酷いのか?」
「いや、そんなんじゃ……なんか開きそうなのに引っかかってる感じ?」
「ちょっと代わってくれ」
取っ手を引くと、確かに錆とは違う感触で、何か不自然な引っかかりを感じなくもない。しかも、下からというよりは上から——
「マジか……」
「え?どうした?」
「これ、また鍵付いてる」
「……はあ!?」
サクラが言う声の方に手を伸ばすと、ブラブラとした金属の塊が指に触れた。出っ張った鉄に通されたU字のシャックル、ゴツゴツとした本体部分……残念ながらこれは、ダイヤル式の南京錠に間違いない。
「嘘だろ……どうなってんだこの家は」
「机の鍵があるかもしれない倉庫の鍵の番号を今度は探せって、中々面倒くさい展開ね」
「いやさあ、バイオの警察署の謎解きじゃないんだからさあ……」
「……アンタは一体何の話をしてるの?」
触った感じダイヤルは四桁で構成されている。細かく凹凸が分かれていることから、恐らくこれはしっかり『0』から『9』まで番号があるタイプ。組み合わせの総数は十の四乗だから、一万通り……当てずっぽうでは絶対無理だ。
「それにしても、何だか妙よね。私ら見事に謎解きのルートに入ってない?トシの新居からずっと」
「だからバイオみたいだって言ったんだよ」
「いやだからそのバイオって何よ」
いや、言われてみればそうだ。サクラの言う通り……俺たちは遠回しに動かされている。
まるで、この時代?世界?の酒の所持者が、俺たち部外者からそれを隠すように。
でも、あくまで『遠回し』なのが何処か引っかかる。……待てよ?部外者とは言っても、本当の部外者、つまり佐野家の人間じゃなければ現我が家を訪れることなんてまずあり得ない。そういう意味では、部外者から隠すことには成功しているのか。
んーしかし、根本的に隠す理由が無いよな?もしかして、自分が何処に隠したか忘れた時用にヒントを残した……?それはちょっとバカっぽいぞ。あーいや、こっちの世界では現実の記憶が曖昧になっている部分もあるから、あながちなくもない。実際、俺も来た直後は思考がフワフワしていたし、ここ最近の現実での会話とか、思い出せないところもある。
いや、でも違うな。この異世界が現実にリンクしているとすれば、隠そうとしているのは多分現実の部外者に対してだ。そう解釈する方がまだシンプルでしっくりくる。前説はあくまで副次的な意味合いに過ぎないだろう。
あれ?そうなると……この時代の所持者で、実質この世界の主導権みたいなものを握っているのは……トシのお父さんってことにならないか——
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