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第2章 佐野家
一本道
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「何悩んでんの?」
「うェイ!」
サクラの問いかけで思わず思考の沼から引っ張り出された俺は、また何ともダサい声をあげて我に返った。
「なんちゅーキモい声出してんのよ」
「悪かったなキモい声で」
ついつい考え込んだせいで、何の話の途中だったか忘れてしまった。確かえっと……バイオの説明だっけ?このお嬢様にホラーゲームの話なんかして伝わるのか?あのツッコミどころ満載の警察署のギミックとか、プレイした人間同士でしか共感できないだろうし。一番面白いのは、鍵なんてお構いなくゴリ押しでぶち破れそうなのにちゃんと謎解きしなきゃいけないところで……。
「んで、どうやってこれぶっ壊す?」
「いやぶっ壊すんかい」
「その方が手っ取り早いでしょ?これは別に殴っても問題ないわけだし」
まあ、その通りです。ゲームじゃないから馬鹿正直に解く必要はない。
「確か鎌があるって言ってたよな?それでどうにかならねえかな」
「待ってよ……はい、どうにかしてみて」
「おいこれ、刃グラグラしてんじゃねえか」
不安ながら、試しに一振り。カキンと甲高い音がなるも、虚しくなるほど全く手応えを感じない。間違いなく鍵より先にこの鎌が壊れるだろう。
「やっぱ、ダメくせえわ」
鉄の棒みたいなものがあればまだ可能性はあるんだが、どうにも絶妙に使えないものばかり。もしかしてこれも計算の内か?流石に考え過ぎ?
「……もしさ」
少しの間を置いて、一段低い声でサクラは呟く。
「私らがここから帰れなくなったとしたら、未来は変わると思う?」
「……え?」
それは、唐突且つ核心をついた質問。俺は振り上げていた右腕を静かに下ろした。
「いや……もし帰れたとしても、か」
「…………」
「未来は分岐してるのか、それとも一本道なのかって話」
表情は分からないけど、サクラの声が至って真面目なのは分かる。
「んー……」
それは、今答えるにはあまりにも難しい質問だ。正直、俺もそれは気にならないわけではなかった。心の何処かにはいつもその手の疑問が見え隠れしている。でも極力考えないようにしていた。考えることにメリットを感じられなかったから。
楽観視すれば、未来は一本道で、俺たちは帰れる。何故なら、現に爺ちゃんは現実で九十歳まで生きているからだ。もし帰れなかったという結末なら、それはあり得ない。
じゃあ仮に、それを前提として今帰る努力をやめたとしたら……それでも未来は変わらないのか?それも多分違う。今の俺たちはきっと、帰った後の世界、そして未来が変わらないように自然と動いているだけ。俺が話す内容を今まで本能的に取捨選択できているのも、多分それに関係していると思う。全てを放棄して、俺の全知識をトシに教えたとして、それでも現実が一切変わっていないなんてことはあり得ないはずだ。
つまり、多分だけど、未来は変わる——。
「サクラは、どう思うのさ」
「まずはアンタの考えを聞きたいのよ」
「何だそりゃ」
サクラの質問に対する俺の答えはどうなのか。これは単純に『何が正解か』を訊いているんじゃない。俺はそう解釈した。だから——
「俺は……過去も現在も、そして未来も、分岐はさせないし、変えさせない。その為に動くだけさ」
過去現在未来を超越したこの空間なら、行動一つで『何か』を変えることは難しくないと思う。正直、変えたい過去なんて山ほどある。それを変えられたら、現実、ひいては未来も変わるかもしれない。
じゃあ、俺一人のその小さな願望のために未来を変えていいのか?もしもトシに変化があったとしたら、俺が生まれてこない現実だってあり得るんだ。そう考えたら、俺が変化を生むことなんてできるわけない。俺は意地でも、未来を変えずに現実に帰るべきだ。
「ハハハ!アンタらしいわ」
サクラは珍しく高笑いをして見せた。ちょっと真面目に考え過ぎたか、と一瞬後悔しなくもないけど、これが俺の望む未来で俺なりの答えだから仕方がない。
「ま、私もそう思うよ。私だって、過去も未来も変えたくないし」
「何だよ笑ったくせに」
「悪かったって。じゃあ作るとしますか!変えないための一本道を」
肩をポンと叩き、池の方へ歩いていくサクラを見て何故だかホッとした。同意してくれたからってのも当然あるだろう。でもそれ以上に、何か、言葉では表現できない意思を共有できた気がしたんだ。
「それで、どうするんだ?」
「まずはトシにあの鍵の番号に心当たりがないか訊いてみよ」
「確かに……トシなら知ってるか——」
「待て」
俺が鎌を倉庫に戻そうとした時、池の方とは反対側から突然声が聞こえた。それは、明らかに俺たち二人に対して、でもまた明らかに、俺たちが聞いたことのない声だった。
「うェイ!」
サクラの問いかけで思わず思考の沼から引っ張り出された俺は、また何ともダサい声をあげて我に返った。
「なんちゅーキモい声出してんのよ」
「悪かったなキモい声で」
ついつい考え込んだせいで、何の話の途中だったか忘れてしまった。確かえっと……バイオの説明だっけ?このお嬢様にホラーゲームの話なんかして伝わるのか?あのツッコミどころ満載の警察署のギミックとか、プレイした人間同士でしか共感できないだろうし。一番面白いのは、鍵なんてお構いなくゴリ押しでぶち破れそうなのにちゃんと謎解きしなきゃいけないところで……。
「んで、どうやってこれぶっ壊す?」
「いやぶっ壊すんかい」
「その方が手っ取り早いでしょ?これは別に殴っても問題ないわけだし」
まあ、その通りです。ゲームじゃないから馬鹿正直に解く必要はない。
「確か鎌があるって言ってたよな?それでどうにかならねえかな」
「待ってよ……はい、どうにかしてみて」
「おいこれ、刃グラグラしてんじゃねえか」
不安ながら、試しに一振り。カキンと甲高い音がなるも、虚しくなるほど全く手応えを感じない。間違いなく鍵より先にこの鎌が壊れるだろう。
「やっぱ、ダメくせえわ」
鉄の棒みたいなものがあればまだ可能性はあるんだが、どうにも絶妙に使えないものばかり。もしかしてこれも計算の内か?流石に考え過ぎ?
「……もしさ」
少しの間を置いて、一段低い声でサクラは呟く。
「私らがここから帰れなくなったとしたら、未来は変わると思う?」
「……え?」
それは、唐突且つ核心をついた質問。俺は振り上げていた右腕を静かに下ろした。
「いや……もし帰れたとしても、か」
「…………」
「未来は分岐してるのか、それとも一本道なのかって話」
表情は分からないけど、サクラの声が至って真面目なのは分かる。
「んー……」
それは、今答えるにはあまりにも難しい質問だ。正直、俺もそれは気にならないわけではなかった。心の何処かにはいつもその手の疑問が見え隠れしている。でも極力考えないようにしていた。考えることにメリットを感じられなかったから。
楽観視すれば、未来は一本道で、俺たちは帰れる。何故なら、現に爺ちゃんは現実で九十歳まで生きているからだ。もし帰れなかったという結末なら、それはあり得ない。
じゃあ仮に、それを前提として今帰る努力をやめたとしたら……それでも未来は変わらないのか?それも多分違う。今の俺たちはきっと、帰った後の世界、そして未来が変わらないように自然と動いているだけ。俺が話す内容を今まで本能的に取捨選択できているのも、多分それに関係していると思う。全てを放棄して、俺の全知識をトシに教えたとして、それでも現実が一切変わっていないなんてことはあり得ないはずだ。
つまり、多分だけど、未来は変わる——。
「サクラは、どう思うのさ」
「まずはアンタの考えを聞きたいのよ」
「何だそりゃ」
サクラの質問に対する俺の答えはどうなのか。これは単純に『何が正解か』を訊いているんじゃない。俺はそう解釈した。だから——
「俺は……過去も現在も、そして未来も、分岐はさせないし、変えさせない。その為に動くだけさ」
過去現在未来を超越したこの空間なら、行動一つで『何か』を変えることは難しくないと思う。正直、変えたい過去なんて山ほどある。それを変えられたら、現実、ひいては未来も変わるかもしれない。
じゃあ、俺一人のその小さな願望のために未来を変えていいのか?もしもトシに変化があったとしたら、俺が生まれてこない現実だってあり得るんだ。そう考えたら、俺が変化を生むことなんてできるわけない。俺は意地でも、未来を変えずに現実に帰るべきだ。
「ハハハ!アンタらしいわ」
サクラは珍しく高笑いをして見せた。ちょっと真面目に考え過ぎたか、と一瞬後悔しなくもないけど、これが俺の望む未来で俺なりの答えだから仕方がない。
「ま、私もそう思うよ。私だって、過去も未来も変えたくないし」
「何だよ笑ったくせに」
「悪かったって。じゃあ作るとしますか!変えないための一本道を」
肩をポンと叩き、池の方へ歩いていくサクラを見て何故だかホッとした。同意してくれたからってのも当然あるだろう。でもそれ以上に、何か、言葉では表現できない意思を共有できた気がしたんだ。
「それで、どうするんだ?」
「まずはトシにあの鍵の番号に心当たりがないか訊いてみよ」
「確かに……トシなら知ってるか——」
「待て」
俺が鎌を倉庫に戻そうとした時、池の方とは反対側から突然声が聞こえた。それは、明らかに俺たち二人に対して、でもまた明らかに、俺たちが聞いたことのない声だった。
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