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終章 残された運命
Epilogue⑦ 意志
しおりを挟む「何だか、数日は経ってる気がする」
現実の感覚にして恐らく数時間後の実家は、それはとても同日とは思えないほどノスタルジックな空間だった。この家特有の匂いは感じないくせに、記憶が勝手に生成する。
でも、残念ながらそれを共感してくれる人は誰も居ない。ましてや、この暗黒の世界を先陣切って進んでくれる人も。パーカーのフードを握ってるだけでよかったあの気軽さが懐かしい。
右手で壁をつたい、ドアノブに手がかかったところで扉を開ける。
「お邪魔しまーす……」
正直な話、お邪魔なんかしたくない。でも、流石に目隠し状態で落ちるよりは、私の意思で決められるこの場所の方がマシ。
と、思ったけど……いざここまで来てみると、やっぱり怖いわね……。私ってもしかして、自分のタイミングで飛べるより後ろから蹴飛ばされるバンジージャンプの方が向いているのかしら。落ちても大丈夫なのはお墨付きとは言え、やっぱり万が一を想像してしまう。痛覚が残っているのが良くない。痛みを感じないと分かっていればまだ気楽なのに。
……いや、もしかして逆?気楽に時間跨ぎをさせない為に『痛み』があるのかな?それならもう少しこの世界明るくしないと、気づかずに落ちちゃうおっちょこちょいも居るんだから。
にしても、改めて振り返ると腹立たしいわ。なーにが『落ちろとは言わん』よ。どう考えても落ちる以外選択肢ないじゃん。次会ったら文句言ってやる……とはいかないのが本当に残念。今日より後のお爺さんには、もう逢えないからなあ。
…………今日より後の——。
何かが繋がりかけた気がして、私は一度、崖っぷちに腰を下ろした。
よくよく考えてみると、これから私が逢う可能性がある人物って、『お爺さんのお父さん』と……今日より前のお爺さんの二人だけよね……?
んー、ちょっと待ってよ——
私ってもしかして、これから二人に逢わなきゃいけない感じ?
それ、可能なの?時間を跨ぐ度に記憶は薄れていくのに。
いや、違うか。可能かどうかなんて問題じゃない。私がやるかやらないかってだけか。
そう思った瞬間、最早『何か』を通り越して笑いが込み上げてきた。
「もー……私今日誕生日なんだって」
ここでの時間経過が現実にどのくらい影響するのか、それは結局分かっていない。でもやっぱり、ここでの旅はもう少しかかりそうね。まったく、散々なバースデイだわ……こんだけ頑張っても誰にも祝ってもらえないんだから。
しゃーなし、この後の二人に祝福の言葉だけでも頂くとしようか。
「あっ……なるほど!」
あの鍵の番号は、私が自分の誕生日を押し付けたのね。ま、美人なお姉さんに「覚えろ」って言われたら忘れないだろうし。さすが私。
再び、私は崖の縁に立ち上がった。ポケットから先ほどの花びらを取り出し、右手で握りしめる。
「絶対に、やり遂げるから」
もう、私の中に恐怖は無い。僅かに吹き抜ける風が背中をそっと押し、私は静かに目を閉じた。無限に広がる漆黒の闇は、きっと私を迎え入れようとしている。私が向かうべき、次の時代へ。
深く息を吸い込み、そして、一歩前へ進んだ。もう足が地面を捉えることはない。崖の縁を離れた瞬間、全ての感覚が研ぎ澄まされ、時間がゆっくりと流れ始める。空と、闇と……全てが溶けて同化していく中で、私はもう一度だけ、右手の一枚に想いをのせた。
過去と未来を、繋げる為に——。
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