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第1章
66.神器が来る
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淡々と告げるフルードの言葉に、ラモスとディモスが期待に満ちた眼差しになった。
『父親と一緒に主を散々貶めて来た輩だ。骨と皮だけになるほど厳しい追求を受ければいい』
『大神官様、ミハロの罪は重くなるのでしょうか?』
「ええ、おそらく。神器の管理を怠ることは、それを下賜した神への冒涜です。しかも、暴走を意図的に隠蔽しようとしたわけですから。最終的な処分を決めるのはテスオラ王国の神官府ですが、相当な厳罰になるかと。その後は、二度と日の当たる場所には出て来させません」
それを聞いた聖獣たちは、二匹で絡まり合って歓喜の舞を踊り始めた。フレイムとラミルファ、従神たちが肩を震わせて笑う。
「こ、こら、ラモス、ディモス!」
慌てて制止するアマーリエの横では、動じないフルードがミハロに続きを告げている。
「捜査官が来るまでそのまま動かず待機しなさい。逃亡や自害あるいは神官府にとって望ましくない言動は一律で禁じます」
『は、はい……はい』
ミハロがうわ言のように追従の返事を繰り返す。聖威を発動させた命令に、人間は逆らうことはできない。
「暴走したという神器は、抑え込んだ状態のままテスオラ王国の王都にある神官府に提出しなさい。規模の大きな神官府には、今回のような事態を想定し、神器を鎮め元の状態に戻すための神器というものが設置されています」
過去の聖威師が天の神に請うて賜った、神器を鎮めるための神器。いくつか授かったそれは、世界各国の神官府に配られている。その神器を使えば、事態を打開できるはずだった。
「高位の霊威師が在籍していなくとも、専用の神器があれば、暴走している神器の鎮静化と正常化に対応できるでしょう。正常化が完了するまでは、決して抑えを解いてはいけませんよ」
『い、いえ、それは……無理かと……』
もごもごとミハロが言う。フルードが僅かに眉を上げた。決して逆らえないはずの、聖威を含めて放った命令に反撥されたからだ。
「何故です。何か不都合がありますか」
『う、あの……神器はもう抑えられませんので、今の指示には従うことが不可能なんです』
「…………」
斎場に沈黙が流れた。一瞬後、アマーリエは反射的に割り込んでいた。
「ど、どういうことですか? きちんと抑え込んだと言っていたでしょう?」
『抑えている神器も限界が来ちまって、もう壊れかけてるんだ……後いくらも保たない』
「えぇ!?」
『そんでこっちも絶体絶命になってよ、こうなったら今すぐダライの次女に何とかしてもらうしかないと思って、通信霊具で連絡したんだ。なのに急に切れちまって』
ラミルファの神威が場を制圧したため、霊威の通信が遮断されてしまったためだ。ミハロがしどろもどろで言葉を継ぐ。
『どうしようと焦ってたらまた通じるようになったから……これはチャンスと思ってよ、つい今しがた、転送霊具に暴走した神器を詰めて起動させちまった』
ひゅるるー、と斎場に生温い風が吹き抜ける。アマーリエは絶句した。あまりに身勝手な独断に声も出ない。
『ダライの通信霊具を到着地点の座標に指定したから、もうすぐ、暴走した神器が抑えなしでダライの通信具がある場所に転送される』
「嘘でしょう!? そんな勝手なこと……大体、神官府には結界が張ってあります! 結界に危険物と判断されたものは、強制的に送り主に返送される設定になっているんです! それでも送りたいなら、神官府に事前申請して正規の手続きを踏んでいただかないと!」
冷静に話そうとしても、声が高ぶってしまう。それにつられたように、ミハロも口調を荒らげた。
『そんなこと知るかよ! いいか、お前の父親は……ダライはな、神器のことはサード家に任せとけって明言して請け合ったんだ! だったらサード家の奴が何とかすんのが筋だ、お前だって能無しでもサード家の一員だろが!』
ラモスとディモスがグルルと唸り、ラミルファがクスクス笑う。
『愚かな身内を持つと他の家族に皺寄せがいく。これはまさにその典型だ』
ラミルファの従神たちがウンウンと頷き、フレイムは据わった目で通信霊具の向こうを睨んでいる。
『ミハロとかいうクソ野郎、灰も残さず焼き尽くしてやろうか。つーかあのバカ親父なんざ助けなきゃ良かったぜ……今からでも浄化の火を消してやりたい気分だ』
その物騒な言葉を止める余裕もなく、アマーリエは半泣きで言い返す。
「う、うちの力で神器をどうにかできるはずがないでしょう!」
『サード家の奴らは神官なんだろ! 鎮静化も正常化も、神官の初期教育で習う基本技能だから大丈夫だって、ダライは言ってたぜ!? 次女が聖威師か云々は置いといても、神官なら何とかできるってことだろ!』
「それは格安量産型の簡易霊具が対象の場合です! 暴走した神器を元に戻すなんて離れ技、対神器用の専用神器を使っても最高難度に決まっているでしょう! 神器は天の御稜威を宿す神具なんですよ!?」
おそらくダライは、運命神の寵と加護を受けたミリエーナならば力押しでいけると見込み、楽観的な言葉で安請け合いをしたのだろう。その結果がこれである。
『知るか、とにかくお前が何とかしろ無能! ダライとの会話は音声記録霊具に録ってあるからな! もし失敗してみろ、サード家が対処を約束した案件でしくじったから被害が出たと裁判で訴えるぞ!』
むちゃくちゃだ。元は自分が神器をきちんと管理していなかったせいで起こったことなのだが、そのことは頭から抜けている。
『ここまでの厚顔無恥を堂々と晒せるとは、人間とはすごい生き物だ。そう思わないか、フレイム』
『そうだな……これは一周回って才能だぜ』
呆れ顔のラミルファと、怒りを帯びた表情のフレイムが会話している。先ほどまで剣を交えていたとは思えない距離の近さだ。やはり先ほどは本気で争っていたのではなく、お遊びの喧嘩の範疇だったのだろう。
と、通信霊具の向こうがにわかにバタバタと騒がしくなった。
『父親と一緒に主を散々貶めて来た輩だ。骨と皮だけになるほど厳しい追求を受ければいい』
『大神官様、ミハロの罪は重くなるのでしょうか?』
「ええ、おそらく。神器の管理を怠ることは、それを下賜した神への冒涜です。しかも、暴走を意図的に隠蔽しようとしたわけですから。最終的な処分を決めるのはテスオラ王国の神官府ですが、相当な厳罰になるかと。その後は、二度と日の当たる場所には出て来させません」
それを聞いた聖獣たちは、二匹で絡まり合って歓喜の舞を踊り始めた。フレイムとラミルファ、従神たちが肩を震わせて笑う。
「こ、こら、ラモス、ディモス!」
慌てて制止するアマーリエの横では、動じないフルードがミハロに続きを告げている。
「捜査官が来るまでそのまま動かず待機しなさい。逃亡や自害あるいは神官府にとって望ましくない言動は一律で禁じます」
『は、はい……はい』
ミハロがうわ言のように追従の返事を繰り返す。聖威を発動させた命令に、人間は逆らうことはできない。
「暴走したという神器は、抑え込んだ状態のままテスオラ王国の王都にある神官府に提出しなさい。規模の大きな神官府には、今回のような事態を想定し、神器を鎮め元の状態に戻すための神器というものが設置されています」
過去の聖威師が天の神に請うて賜った、神器を鎮めるための神器。いくつか授かったそれは、世界各国の神官府に配られている。その神器を使えば、事態を打開できるはずだった。
「高位の霊威師が在籍していなくとも、専用の神器があれば、暴走している神器の鎮静化と正常化に対応できるでしょう。正常化が完了するまでは、決して抑えを解いてはいけませんよ」
『い、いえ、それは……無理かと……』
もごもごとミハロが言う。フルードが僅かに眉を上げた。決して逆らえないはずの、聖威を含めて放った命令に反撥されたからだ。
「何故です。何か不都合がありますか」
『う、あの……神器はもう抑えられませんので、今の指示には従うことが不可能なんです』
「…………」
斎場に沈黙が流れた。一瞬後、アマーリエは反射的に割り込んでいた。
「ど、どういうことですか? きちんと抑え込んだと言っていたでしょう?」
『抑えている神器も限界が来ちまって、もう壊れかけてるんだ……後いくらも保たない』
「えぇ!?」
『そんでこっちも絶体絶命になってよ、こうなったら今すぐダライの次女に何とかしてもらうしかないと思って、通信霊具で連絡したんだ。なのに急に切れちまって』
ラミルファの神威が場を制圧したため、霊威の通信が遮断されてしまったためだ。ミハロがしどろもどろで言葉を継ぐ。
『どうしようと焦ってたらまた通じるようになったから……これはチャンスと思ってよ、つい今しがた、転送霊具に暴走した神器を詰めて起動させちまった』
ひゅるるー、と斎場に生温い風が吹き抜ける。アマーリエは絶句した。あまりに身勝手な独断に声も出ない。
『ダライの通信霊具を到着地点の座標に指定したから、もうすぐ、暴走した神器が抑えなしでダライの通信具がある場所に転送される』
「嘘でしょう!? そんな勝手なこと……大体、神官府には結界が張ってあります! 結界に危険物と判断されたものは、強制的に送り主に返送される設定になっているんです! それでも送りたいなら、神官府に事前申請して正規の手続きを踏んでいただかないと!」
冷静に話そうとしても、声が高ぶってしまう。それにつられたように、ミハロも口調を荒らげた。
『そんなこと知るかよ! いいか、お前の父親は……ダライはな、神器のことはサード家に任せとけって明言して請け合ったんだ! だったらサード家の奴が何とかすんのが筋だ、お前だって能無しでもサード家の一員だろが!』
ラモスとディモスがグルルと唸り、ラミルファがクスクス笑う。
『愚かな身内を持つと他の家族に皺寄せがいく。これはまさにその典型だ』
ラミルファの従神たちがウンウンと頷き、フレイムは据わった目で通信霊具の向こうを睨んでいる。
『ミハロとかいうクソ野郎、灰も残さず焼き尽くしてやろうか。つーかあのバカ親父なんざ助けなきゃ良かったぜ……今からでも浄化の火を消してやりたい気分だ』
その物騒な言葉を止める余裕もなく、アマーリエは半泣きで言い返す。
「う、うちの力で神器をどうにかできるはずがないでしょう!」
『サード家の奴らは神官なんだろ! 鎮静化も正常化も、神官の初期教育で習う基本技能だから大丈夫だって、ダライは言ってたぜ!? 次女が聖威師か云々は置いといても、神官なら何とかできるってことだろ!』
「それは格安量産型の簡易霊具が対象の場合です! 暴走した神器を元に戻すなんて離れ技、対神器用の専用神器を使っても最高難度に決まっているでしょう! 神器は天の御稜威を宿す神具なんですよ!?」
おそらくダライは、運命神の寵と加護を受けたミリエーナならば力押しでいけると見込み、楽観的な言葉で安請け合いをしたのだろう。その結果がこれである。
『知るか、とにかくお前が何とかしろ無能! ダライとの会話は音声記録霊具に録ってあるからな! もし失敗してみろ、サード家が対処を約束した案件でしくじったから被害が出たと裁判で訴えるぞ!』
むちゃくちゃだ。元は自分が神器をきちんと管理していなかったせいで起こったことなのだが、そのことは頭から抜けている。
『ここまでの厚顔無恥を堂々と晒せるとは、人間とはすごい生き物だ。そう思わないか、フレイム』
『そうだな……これは一周回って才能だぜ』
呆れ顔のラミルファと、怒りを帯びた表情のフレイムが会話している。先ほどまで剣を交えていたとは思えない距離の近さだ。やはり先ほどは本気で争っていたのではなく、お遊びの喧嘩の範疇だったのだろう。
と、通信霊具の向こうがにわかにバタバタと騒がしくなった。
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