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第3章
58.参戦の理由は
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『ハルア、怒る怖い! 超絶怖い。昔からそう。ハルア大好き、だけどちょっぴり苦手。我、謝る! もうしない!』
『これ以上は暴れんのだな?』
『……今日のところは』
『…………』
『あぁぁ痛い痛い、嘘嘘嘘! 明日、明後日、しばらく大人しくしてる、約束!』
無言で神威を強化した狼神に、疫神が泣きを入れた。フンと鼻を鳴らした巨狼が前脚を退ける。そして、ガラリと雰囲気を変えた。優しく眦を下げ、猫なで声で言う。
『セイン、おいで』
この場でただ一人正座していなかったフルードが、主神に駆け寄った。
「狼神様。お越し下さると信じておりました」
灰銀の毛並みに触れると、さりげなくモフりながら嬉しそうに微笑む。
『ハルア、礼を言う。まさかお前が来てくれるとはなぁ。太古の神は神同士の騒動には静観と中立を貫く者が多い。お前は特にそうだから、今回も傍観すると思っておったが』
神々の兄貴分、姉貴分である葬邪神やブレイズは例外で、仲裁や取りなしに乗り出すこともある。だが狼神は違う。愛し子を守りに来たり、影から糸を引く形で暗躍することはあるにしても、葬邪神と疫神の兄弟喧嘩に直接割り込み、どちらかへの肩入れをするとは考えにくかった。
『セインが私に念話を飛ばして来たのですよ。どうか来て下さいと。愛し子の切願ならば仕方がありません』
正確に言えば、『僕もう血を吐きそうです、それで焔の神器が本気でキレそうです、お願いですから来て下さい』である。
焔の神器は、フルードを守るためなら何でもする。それはもう何でも。通常時は天の神が地上に降臨した時と同じように、力の大半を抑え込んで自制しているが……いざとなれば、生来の荒神であるフレイムと全く互角の力を発揮できるのだ。
あれが本気でブチ切れるのはまずいと、狼神ですら思った。
『それに……』
頭を下げてフルードに撫でてもらっている狼神が、心地よさげに目を細める。薄く開いた灰銀の瞳が、フレイムとラミルファを一瞥した。
『貸しを返さなくてはなりませんでしたからなぁ』
当の若神たちは、横目で互いを見ながらボソボソと話している。
『この様子じゃ、セインのお願いがあれば、貸しが無くても来てくれてたかもしれねえな』
『暴れ神が手に負えなくなり、本当にどうしようもなくなった時は、助太刀に来て下さいと頼んでいたのだろう?』
『ああ。キレた時の狼神様の怖さは天界でも有名だからな』
その声が聞こえているのかいないのか、耳をピクピクそよがせながら、狼神はアマーリエたちを見た。
『此度はひと騒動であったな。天界では魔神様が走り回り、寝ぼけて力をだだ漏らしている神々を起こして、しゃっきりさせておった。ご自身の御稜威で彼らの神威を打ち消してもおられたぞ。迷惑をかけたお詫びに地上の雛たちを手伝うのじゃ~、とか何とか言いながら』
どうやら、魔神が陰で奔走してくれていたようだ。
『煉神様や運命神様、聖威師の主神たち、その他一部の神々も、魔神様と同じことをしておった。そのおかげで、降り注ぐ神威が随分と少なく済んだのだ』
自分たちの知らないところで、聖威師たちに味方する神々が動いてくれていた。縁の下からの援護がなければ、アマーリエたちは神威を受けとめ切れず、地上は潰れてしまっていたかもしれない。
「神々のお心遣いに感謝申し上げます」
フルードとアリステルが頭を下げ、アマーリエとリーリアもそれに倣った。
と、狼神のたっぷりした毛並みを越え、コロンと幼子が転がり出て来た。灰銀の双眸が呆れを帯びる。
『それにしても、疫神様は地上で何をなさっていたのですかな?』
『我、クロウ手伝った。我、親切。褒めて良し』
『どこがだ! お前が現れてから、しばらく様子見も兼ねて聞いておったがなぁ、聖威師……この子たちの性癖を勝手に決めるな阿呆が!』
『違う? じゃあ、マゾヒスト?』
『同じだろ!』
『わざわざ神性抑える、そのせいでしなくて良い苦労する、負わなくて良い怪我負う。被虐趣味の証拠』
ピッピッピッピ、と聖威師たちを一人ずつ指差し、小さな暴れ神が胸を張る。自分の答えを微塵も疑っていない目だ。
『この子たちは元が人間だからな、地上への思慕や愛着を色濃く残している。多少しんどい思いをしても人間の味方をしたい、守りたいと思う子たちもおるんだよ』
『人間の世界?』
『下は……地上は人間の領分になったんだ。俺たち神は上の天界にいる。で、神は理由がない限り地上には降りないし、自分から人の世には干渉しない。お前が寝ている間にそう決まった』
『これ以上は暴れんのだな?』
『……今日のところは』
『…………』
『あぁぁ痛い痛い、嘘嘘嘘! 明日、明後日、しばらく大人しくしてる、約束!』
無言で神威を強化した狼神に、疫神が泣きを入れた。フンと鼻を鳴らした巨狼が前脚を退ける。そして、ガラリと雰囲気を変えた。優しく眦を下げ、猫なで声で言う。
『セイン、おいで』
この場でただ一人正座していなかったフルードが、主神に駆け寄った。
「狼神様。お越し下さると信じておりました」
灰銀の毛並みに触れると、さりげなくモフりながら嬉しそうに微笑む。
『ハルア、礼を言う。まさかお前が来てくれるとはなぁ。太古の神は神同士の騒動には静観と中立を貫く者が多い。お前は特にそうだから、今回も傍観すると思っておったが』
神々の兄貴分、姉貴分である葬邪神やブレイズは例外で、仲裁や取りなしに乗り出すこともある。だが狼神は違う。愛し子を守りに来たり、影から糸を引く形で暗躍することはあるにしても、葬邪神と疫神の兄弟喧嘩に直接割り込み、どちらかへの肩入れをするとは考えにくかった。
『セインが私に念話を飛ばして来たのですよ。どうか来て下さいと。愛し子の切願ならば仕方がありません』
正確に言えば、『僕もう血を吐きそうです、それで焔の神器が本気でキレそうです、お願いですから来て下さい』である。
焔の神器は、フルードを守るためなら何でもする。それはもう何でも。通常時は天の神が地上に降臨した時と同じように、力の大半を抑え込んで自制しているが……いざとなれば、生来の荒神であるフレイムと全く互角の力を発揮できるのだ。
あれが本気でブチ切れるのはまずいと、狼神ですら思った。
『それに……』
頭を下げてフルードに撫でてもらっている狼神が、心地よさげに目を細める。薄く開いた灰銀の瞳が、フレイムとラミルファを一瞥した。
『貸しを返さなくてはなりませんでしたからなぁ』
当の若神たちは、横目で互いを見ながらボソボソと話している。
『この様子じゃ、セインのお願いがあれば、貸しが無くても来てくれてたかもしれねえな』
『暴れ神が手に負えなくなり、本当にどうしようもなくなった時は、助太刀に来て下さいと頼んでいたのだろう?』
『ああ。キレた時の狼神様の怖さは天界でも有名だからな』
その声が聞こえているのかいないのか、耳をピクピクそよがせながら、狼神はアマーリエたちを見た。
『此度はひと騒動であったな。天界では魔神様が走り回り、寝ぼけて力をだだ漏らしている神々を起こして、しゃっきりさせておった。ご自身の御稜威で彼らの神威を打ち消してもおられたぞ。迷惑をかけたお詫びに地上の雛たちを手伝うのじゃ~、とか何とか言いながら』
どうやら、魔神が陰で奔走してくれていたようだ。
『煉神様や運命神様、聖威師の主神たち、その他一部の神々も、魔神様と同じことをしておった。そのおかげで、降り注ぐ神威が随分と少なく済んだのだ』
自分たちの知らないところで、聖威師たちに味方する神々が動いてくれていた。縁の下からの援護がなければ、アマーリエたちは神威を受けとめ切れず、地上は潰れてしまっていたかもしれない。
「神々のお心遣いに感謝申し上げます」
フルードとアリステルが頭を下げ、アマーリエとリーリアもそれに倣った。
と、狼神のたっぷりした毛並みを越え、コロンと幼子が転がり出て来た。灰銀の双眸が呆れを帯びる。
『それにしても、疫神様は地上で何をなさっていたのですかな?』
『我、クロウ手伝った。我、親切。褒めて良し』
『どこがだ! お前が現れてから、しばらく様子見も兼ねて聞いておったがなぁ、聖威師……この子たちの性癖を勝手に決めるな阿呆が!』
『違う? じゃあ、マゾヒスト?』
『同じだろ!』
『わざわざ神性抑える、そのせいでしなくて良い苦労する、負わなくて良い怪我負う。被虐趣味の証拠』
ピッピッピッピ、と聖威師たちを一人ずつ指差し、小さな暴れ神が胸を張る。自分の答えを微塵も疑っていない目だ。
『この子たちは元が人間だからな、地上への思慕や愛着を色濃く残している。多少しんどい思いをしても人間の味方をしたい、守りたいと思う子たちもおるんだよ』
『人間の世界?』
『下は……地上は人間の領分になったんだ。俺たち神は上の天界にいる。で、神は理由がない限り地上には降りないし、自分から人の世には干渉しない。お前が寝ている間にそう決まった』
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