神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
268 / 602
第3章

71.その血が負う天罰 前編

しおりを挟む
 ◆◆◆

 昔々、太古の昔。人間という生き物が生まれて少し経った頃。

 神様たちが集まり、初めて人間の中から愛し子を選びました。その中に一人の娘がおりました。木犀もくせいの花が大好きなその娘は悪神を魅了し、一番最初の奇跡の聖威師になりました。選ばれた者たちの子や孫もまた、一定数が神に愛され、後代まで栄華を極めました。

 しかし、奇跡の聖威師となった娘の子孫だけは、一人として神に見初められることはなく、必然的にその血統は廃れていったのです。その結末を受け入れた娘は、運命神に頼み、己の末裔たちが幸せになれる力を込めた幸福の神器を下賜してもらいました。
 娘の末裔たちは悔しい思いを抱えながら、泣く泣くその神器を受け取りました。そして、儚く時代の流れの中に消えた後も、どうにかしてかつてのほまれを再現しようと試行錯誤を重ねたのです。

 それから多くの年月が過ぎ、帝国と皇国が創建されて世界がまとまり、さらに幾つもの夜が流れました。

 娘の末裔は帝国の地方都市で生きており、幸福の神器のおかげで豊かな暮らしを享受していました。病で寝付いている末裔の当主には、三人の子がいました。第一子と第二子は姉弟で、遥か古の先祖が得た奇跡に強く憧れていました。家には、神器と昔々の伝承が今も細々と伝わっていたのです。

 かつての夢を再びと野心を抱く姉弟は、二人でねやを共にして子を生むという方法を試みました。自分たちが交わって血が濃い子をもうければ、もう一度神の心を掴む逸材が誕生するかもしれないと期待したのです。
 当代当主の末子であり、姉弟とはかなり年が離れている第三子は、一生懸命に反対しました。しかし、太古の栄華の再来に執着する姉弟は聞き入れませんでした。

 しかし、待望の果てに生まれたのは、ごくごく平凡な子どもでした。落胆した姉弟は現実を受け入れられず、何と我が子に神器を飲み込ませて力を与え、この子は聖威師だと言い張りって祭り上げました。必死で止めようとする第三子は、自室に閉じ込められてしまいました。

 両親である姉弟から歪んだ選民教育を受けた子どもはそれに染まって成長し、自分は神の寵児だと思い込んで居丈高に振る舞うようになりました。やがてその事実は運命神の知るところとなり、見事に逆鱗に触れてしまいました。

 神の愛し子を、つまり神を騙ることは禁忌。しかも、自分が作った神器がその詐称に体良く利用されていた。それは許容し難いことで、運命神は激怒しました。
 末裔たちは全員が神罰牢行きになるところでしたが、他ならぬあの娘が……最初に奇跡の聖威師となった娘が、必死で止めました。

 涙ながらに酌量を嘆願された運命神は、娘に免じて減刑に応じました。末裔たちを神罰牢に堕とすことは赦したものの、主犯である姉弟は下層の地獄行きとしました。それから、子どもの内にある神器を変質させました。幸福の運命を呼び込む力を反転させて、ほんの僅かな幸せすらも寄り付かせない神器に変えてしまったのです。

 加えて、運命神は姉弟の子どもに神罰を降り注がせました。今後、ありとあらゆる艱難辛苦がその子に押し寄せるように。それは子どもが住む邸に降り注ぎ、同じ屋根の下にいた第三子にも神罰の欠片がかかってしまいました。

 ◆◆◆

「ちょ、ちょっとまって下さい」

 アマーリエは思わず片手を前に出してストップをかけた。

「何か?」

 目の前で人形劇を繰り広げていたアリステルが止まる。今は、二体の人形に黒い光が降りかかっているところだ。一体にはたっぷりと、もう一体には少しだけ。

 ――暴れ神の騒動から丸一日眠り込んだアマーリエは、その後数日間は臨時休暇を取って休養した。そして、日を置いて見舞いにやって来たフルードに問いかけた。自分とフルードたちが同じ血とはどういうことか。神罰とは何か。何故葬邪神が自分の守護に付いたのか。

『もちろん説明します。ただ、最初からお話するので、昔々のことから話さなくてはなりません』

 アマーリエの邸の応接室に通されたフルードはそう言い、アリステルを呼んだ。すぐにやって来たアリステルは、自在に動く人形を使って説明を初めてくれた。
 ……のだが。

「あの、運命神って……ルファリオン様ってそんなに過激な性格だったんですか?」
「ルファリオン様? ――ああ、すまない、私の言葉足らずで勘違いさせてしまった。運命神の神格を持つ神はルファリオン様以外にもいる。そちらの方だ」
「え、他にもいるのですか?」
(神官府の講義ではルファリオン様しか習わなかったわ。伝承や記録でも見たことがないけれど)

 首を捻っていると、フルードが口を開いた。

「彼の神は人の世にはあまり知られていないのです。悪神ですから」
「悪神!?」
「今の説明で出て来た娘は、当然悪神だ。奇跡の聖威師だからね。だからルファリオン様ではなく、同じ悪神で親密な間柄にある別の運命神に頼んだのだよ。悪神でも黒い色を纏わせなければ、通常の神と同じ神器が創生できる」

 説明してくれたのは、同じ部屋にいたラミルファだ。彼もフルードにくっ付いてここにやって来ていた。

「ルファリオン様の神格は、細分すると操運命神そううんめいしん。今の話の神罰を与えた神は、遊運命神ゆううんめいしん。どちらも選ばれし神です。ただ、悪神はあまり表舞台にお出でになりませんから、運命の神として周知されているのは、専らルファリオン様の方です」
「そうだったのですか……」

 この調子では、人間界に知られていない神もたくさんいるだろう。特に悪神であればなおさら。

「ところで……関係ないのですが、何故アリステル様は人形を使われるのですか?」
「幼い頃、シスに……弟に人形遊びをしてやっていたんだ。あの頃は主に、外の石ころや木切れを使っていた」

 壮絶な虐待地獄の中、両親が寝静まり、押し付けられた膨大な雑用を何とか片付けた後で捻り出していた、ほんの僅かな時間。それだけが生きがいだったという。

「そうだったのですか」

 これは重い過去だと察したアマーリエは、深入りするのをやめた。アリステルは親切にしてくれるが、心の奥に深く刻まれた傷について聞けるほど親しい関係を築いてはいない。

「納得したか? では続ける」

 アリステルの声と共に、再び人形が踊った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。 求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。 そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。 しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。 ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが…… ◆なろうにも掲載しています

愛してもいないのに

豆狸
恋愛
どうして前と違うのでしょう。 この記憶は本当のことではないのかもしれません。 ……本当のことでなかったなら良いのに。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

処理中です...