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第4章
42.めんどくさい悪神たち
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一拍遅れ、アリステルが息を呑む。その反応を見たアマーリエとフルードが、すぐさまエイリーに視線を移した。
窓を通して映り込む聞き取り室。体を縮めてイスに座っていたエイリーが、胸を押さえながらデスクに突っ伏している。
「エ、エイリーさん!?」
「ごらん、アマーリエ。変質した神罰が爆発してしまった者の姿を。といっても、これはまだ入口に過ぎないが……僕は君がこの道に行かないよう必死だったのだよ」
歌うように言う邪神の声に被せるように、細かく痙攣するエイリーの痩身からドス黒い霧が噴き出した。高圧スプレーのごとき勢いで噴射された霧が、控え室との境にあった窓を突き破って襲い来る。
「ユフィー!」
「霧を外に出すな!」
フレイムがアマーリエ抱き寄せると同時、顔色を変えたアリステルが叫んだ。聞き取り室と控え室、そして調査棟全体に、何層にも重ねた結界を張る。
「調査棟にいた者たちは強制転移で退避させた。良いか、霧に触れるな。これは神罰の力を帯びている、浴びればそれだけで不幸と絶望に叩き落とされる!」
言いながら、フルードとアマーリエの盾になるかのごとく、霧が濃い前方に出る。
「ア、アリステル様!」
「ヴェーゼは心配ないよ。悪神の神格を持つから中和できる。爆発するほど高濃度とはいえ、あの霧は神罰そのものではなく余波のようなものだから、相殺可能だ」
説明してくれたラミルファは、フルードを守る形で傍に寄り添っている。
「フルードは僕の側にいろ。そうすれば不幸も絶望も跳ね返される。安心しろ、必ず君を守護する」
「ありがとうございます。今、本棟にいる聖威師に状況を念話しました。万一霧が結界をすり抜けても、一般神官の避難等を含め対処してくれるでしょう。私たちはエイリーの安否確認を最優先に……」
その言葉を遮り、控え室のドアが吹っ飛んだ。立ち込める霧と飛び散る瓦礫を突き破り、小柄な影が二つ舞い込んで来る。
「きゃーお姉ちゃ~ん、何か大変そうじゃなーい!」
「我、守りに来た! 頼って良し!」
クラーラとロールだ。頼むから普通に入って来てくれと思うアマーリエだが、そんなことを言える相手ではない。
「あらまぁ、ちゃんとエイールとエイリーを見付けたのね~。ラミとディスのヒント、無駄にならなくて良かったわ」
のんびりと言ったクラーラが宙でヒラリと身を一回転させ、長身の美丈夫の姿になってアマーリエの前に降り立った。
「よく辿り着いたなぁ。さて、守護契約に基づきお前を守ろう、アマーリエ。何も心配せず心安らかにいるが良い」
カッコよく決めてくれたところ申し訳ないが、たった今葬邪神がぶっ壊したドアから盛大に霧が漏れているせいで、アマーリエの精神的ストレスはマックス状態である。
「ん? 霧が出ているが、部屋単位で結界を張っていないのか?」
アマーリエの視線の先を見て気が付いた葬邪神が言う。わなわな震えていたアリステルが目を見開き、霧がわんさか溢れ出るドアを指差した。
「張っていたのに、貴方々が神威で粉砕して乱入して来たのですよ! どうしてそっとすり抜けて入って下さらなかったのです!?」
「あーそうだったのか。パパうっかりしてたなぁ。だがお前とアマーリエと、それにフルードが無事だからまぁ良いか」
「いや、全然良くないっす」
アマーリエをしっかり腕に抱え込んだまま、フレイムが遠い目をして言った。アリステルもそれに便乗する。
「ええ良くないです! 咄嗟に結界の範囲を広げて張り直したので、調査棟で食い止めることができましたが……一歩間違えれば外まで溢れていたのですよ!?」
「俺はお前の父でアマーリエの守護神で、フルードの同胞だ。だからお前たちが無事ならそれで良いんだよ、ヴェーゼ」
「ですから良くないです!」
「俺は良いと思っている。それが全てだ」
「アレク、アマーリエ守る。ラミルファ、フルード守る。アリステル、悪神だから大丈夫。でも、万一あるかも。その時、我、アリステル守る。これで安心。完璧」
「本当ですね、完璧ですね兄上方」
にこやかに断言する葬邪神に続き、疫神とラミルファも笑う。何がおかしいのかさっぱり分からない。
「ちっ、クソめんどい悪神三兄弟ですね」
フルードが優しい笑顔のまま舌打ちした。アマーリエとフレイムが目を剥いてフルードを見る。肝心の悪神三兄弟は、互いに笑顔で良かった良かったと話しており、今の言葉は聞こえていないようだ。
「…………」
アマーリエはそっとフレイムを見上げた。見つめ返す山吹色の瞳が、『聞かなかったことにしよう』と告げている。『分かったわ』とこれまた目で返したアマーリエは、今の出来事を脳内から忘却させた。
窓を通して映り込む聞き取り室。体を縮めてイスに座っていたエイリーが、胸を押さえながらデスクに突っ伏している。
「エ、エイリーさん!?」
「ごらん、アマーリエ。変質した神罰が爆発してしまった者の姿を。といっても、これはまだ入口に過ぎないが……僕は君がこの道に行かないよう必死だったのだよ」
歌うように言う邪神の声に被せるように、細かく痙攣するエイリーの痩身からドス黒い霧が噴き出した。高圧スプレーのごとき勢いで噴射された霧が、控え室との境にあった窓を突き破って襲い来る。
「ユフィー!」
「霧を外に出すな!」
フレイムがアマーリエ抱き寄せると同時、顔色を変えたアリステルが叫んだ。聞き取り室と控え室、そして調査棟全体に、何層にも重ねた結界を張る。
「調査棟にいた者たちは強制転移で退避させた。良いか、霧に触れるな。これは神罰の力を帯びている、浴びればそれだけで不幸と絶望に叩き落とされる!」
言いながら、フルードとアマーリエの盾になるかのごとく、霧が濃い前方に出る。
「ア、アリステル様!」
「ヴェーゼは心配ないよ。悪神の神格を持つから中和できる。爆発するほど高濃度とはいえ、あの霧は神罰そのものではなく余波のようなものだから、相殺可能だ」
説明してくれたラミルファは、フルードを守る形で傍に寄り添っている。
「フルードは僕の側にいろ。そうすれば不幸も絶望も跳ね返される。安心しろ、必ず君を守護する」
「ありがとうございます。今、本棟にいる聖威師に状況を念話しました。万一霧が結界をすり抜けても、一般神官の避難等を含め対処してくれるでしょう。私たちはエイリーの安否確認を最優先に……」
その言葉を遮り、控え室のドアが吹っ飛んだ。立ち込める霧と飛び散る瓦礫を突き破り、小柄な影が二つ舞い込んで来る。
「きゃーお姉ちゃ~ん、何か大変そうじゃなーい!」
「我、守りに来た! 頼って良し!」
クラーラとロールだ。頼むから普通に入って来てくれと思うアマーリエだが、そんなことを言える相手ではない。
「あらまぁ、ちゃんとエイールとエイリーを見付けたのね~。ラミとディスのヒント、無駄にならなくて良かったわ」
のんびりと言ったクラーラが宙でヒラリと身を一回転させ、長身の美丈夫の姿になってアマーリエの前に降り立った。
「よく辿り着いたなぁ。さて、守護契約に基づきお前を守ろう、アマーリエ。何も心配せず心安らかにいるが良い」
カッコよく決めてくれたところ申し訳ないが、たった今葬邪神がぶっ壊したドアから盛大に霧が漏れているせいで、アマーリエの精神的ストレスはマックス状態である。
「ん? 霧が出ているが、部屋単位で結界を張っていないのか?」
アマーリエの視線の先を見て気が付いた葬邪神が言う。わなわな震えていたアリステルが目を見開き、霧がわんさか溢れ出るドアを指差した。
「張っていたのに、貴方々が神威で粉砕して乱入して来たのですよ! どうしてそっとすり抜けて入って下さらなかったのです!?」
「あーそうだったのか。パパうっかりしてたなぁ。だがお前とアマーリエと、それにフルードが無事だからまぁ良いか」
「いや、全然良くないっす」
アマーリエをしっかり腕に抱え込んだまま、フレイムが遠い目をして言った。アリステルもそれに便乗する。
「ええ良くないです! 咄嗟に結界の範囲を広げて張り直したので、調査棟で食い止めることができましたが……一歩間違えれば外まで溢れていたのですよ!?」
「俺はお前の父でアマーリエの守護神で、フルードの同胞だ。だからお前たちが無事ならそれで良いんだよ、ヴェーゼ」
「ですから良くないです!」
「俺は良いと思っている。それが全てだ」
「アレク、アマーリエ守る。ラミルファ、フルード守る。アリステル、悪神だから大丈夫。でも、万一あるかも。その時、我、アリステル守る。これで安心。完璧」
「本当ですね、完璧ですね兄上方」
にこやかに断言する葬邪神に続き、疫神とラミルファも笑う。何がおかしいのかさっぱり分からない。
「ちっ、クソめんどい悪神三兄弟ですね」
フルードが優しい笑顔のまま舌打ちした。アマーリエとフレイムが目を剥いてフルードを見る。肝心の悪神三兄弟は、互いに笑顔で良かった良かったと話しており、今の言葉は聞こえていないようだ。
「…………」
アマーリエはそっとフレイムを見上げた。見つめ返す山吹色の瞳が、『聞かなかったことにしよう』と告げている。『分かったわ』とこれまた目で返したアマーリエは、今の出来事を脳内から忘却させた。
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